マスク氏「宇宙船退役」発言でNASA震撼 米政府、SpaceX依存からの脱却を模索

2025-06-10 15:06
2024年11月19日、アメリカ大統領当選者のトランプ氏とSpaceXのオーナーであるマスク氏がテキサスで大型ロケット「スターシップ」(Starship)の6回目の試射を視察する。(AP通信)
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アメリカ政府は近年、中国経済への過度な依存のリスクを認識し、「小さな庭に高い壁」政策やサプライチェーンの「リスク回避」など、中国との経済的な切り離しを積極的に進めてきた。

しかし現在、ドナルド・トランプ大統領と、SpaceXおよびテスラの創業者であるイーロン・マスク氏の関係が悪化し、NASAと国防総省がSpaceXの代替手段を模索し始めたことにより、政府が過去の「中国依存」の教訓を十分に活かしていない現実が浮かび上がっている。

『ワシントン・ポスト』は7日、独占記事の中で、 トランプ氏がSpaceXとの契約を打ち切ると発言したのに対し、マスク氏が「宇宙ステーションとの往復任務を担う『ドラゴン』宇宙船を退役させる」と強く応じたことで、NASAと国防総省の関係者が即座に対応に動いたと報じた。両機関はSpaceXの競合企業に対し、代替ロケットや宇宙船の開発を急ぐよう促しているという。

『ワシントン・ポスト』によれば、マスク氏の発言に政府関係者は衝撃を受けたという。なぜなら、「ドラゴン」宇宙船が運用を停止すれば、NASAは国際宇宙ステーション(ISS)への唯一の有人輸送手段を失うことになるからだ。マスク氏は後にSNS上のこの過激な投稿を削除したものの、NASAおよび国防総省に大きな動揺を与えた。NASAは宇宙飛行士の生命をSpaceXに委ねており、国防総省は最も機密性の高い軍事衛星の打ち上げを同社に依存している。この一連の事態は、アメリカ政府が宇宙関連任務において単一企業に過度に依存している現状のリスクを浮き彫りにしたと、同紙は指摘している。

『ワシントン・ポスト』の分析によれば、宇宙関連および国家安全保障機関が示す懸念は、アメリカ政府がSpaceXに対していかに深く依存しているかを物語っている。SpaceXは数十億ドル規模の政府契約を抱えており、国際宇宙ステーション(ISS)への人員・物資輸送のみならず、国防総省の軍事衛星の打ち上げ、さらには諜報機関向けの衛星システムの開発にも関与している。

より深刻なのは、同社に対抗できる競合企業の追随スピードが非常に遅い点だ。これにより、SpaceXの市場支配的な地位はほぼ揺るぎないものとなり、政府には事実上の選択肢が存在しない。仮にトランプ氏が「マスク氏に関わる全契約の解除」を本当に実行した場合、打撃を受けるのはSpaceXだけではなく、国家の宇宙・安全保障計画全体にも甚大な影響が及ぶ可能性がある。 (関連記事: マスク氏の怒り爆発!トランプ氏との決裂「巨額支援の裏切られた約束」 関連記事をもっと読む

「ただの茶番劇ではなかった」とNASA幹部

あるNASA関係者は『ワシントン・ポスト』の取材に対し、「数日前、SNSでのトランプ氏とマスク氏のやり取りを見たときは、ある種の“エンタメ”として楽しんでいた」と語った。しかし、マスク氏が突如「ドラゴン(Dragon)宇宙船を退役させる」と主張し始めたとき、「状況は一変し、非常に恐ろしいものになった」と率直に明かす。