トランプ氏は再び「対等関税」を掲げ、貿易戦争を仕掛けている。背景には、6月に満期を迎える9兆ドル(約1,400兆円)規模の米国債があるとされ、アメリカがデフォルトに陥るリスクすら指摘されている。これは財務省にとっての悪夢であり、中国や日本といった主要保有国にも大きな影響を与える。ホワイトハウスを去ったばかりのテスラ創業者・マスク氏も「米国債という風船が破裂しそうだ」と警鐘を鳴らしている。
各国の反発を受けながらも、ドル覇権を守り抜けるのか。そして台湾は、アメリカに賭けるべきか、それとも今こそ手を引くべきなのか。
アメリカを放棄することは合理的か?
源鉑資本の創設者・胡一天氏は、アメリカの財政と貿易の「二重赤字」はもはや短期では解決できず、むしろ長期的に構造的な問題を抱えていると指摘。それでも、米国債やドルの地位は今もなお他国では代替が難しく、アメリカを「債務再編中の大企業」と見なした上で、台湾はこの大口顧客を見捨てるべきではないと語っている。
米国債市場は外国政府やファンドの割合が高いものの、実際にはアメリカ国内の金融機関や投資機関の方が多くを保有しており、彼らは米国の財政動向に非常に敏感だという。
「米国債の問題は“友人が困っている”ようなもの。台湾がここで支援すれば、無形の利益を得られる」と胡氏。感情でアメリカか中国かを選ぶのではなく、米国債を他の資産と比較して冷静に投資判断を下すべきだとする。そして、台湾が次の時代のグローバル資本にどう関わっていくのかが問われている。

「ドルの支配」よりも現実を見るべき時代に
米国の債務問題は単に国の支出構造の問題にとどまらず、ドルの覇権や社会保障などアメリカ固有のシステム全体に起因するもの。今や多くの人が、「アメリカは借金し続けることでしか成り立たない国家」だと見ている。
そんな中で胡一天氏は、「すべての企業が金融業ではない」と語り、多くの企業は実際に生産・サービスを提供する必要があると強調する。「アメリカや中国が崩壊するのを願っている人たちは無責任だ」とも述べた。少なくとも台湾にとって、アメリカ市場はすぐに手放せる相手ではない。
そのため、胡氏は新台湾ドルが対ドルで上昇傾向にあるのは避けられないとしつつも、その動きが輸出競争力に与える打撃を、台湾企業や政府がどこまで吸収し支援できるかが今後の焦点だと指摘する。
たとえ米国債がリスクを抱えていても、投資家が一斉に売る必要はない。台湾ドルが上昇する可能性があるにせよ、それが実質的な購買力や生活水準にどう影響するのかは慎重に見極める必要がある。急いで結論を出すのではなく、冷静な視点で「次の一手」を見極める時期に来ている。 (関連記事: アジア通貨が急伸、円・台湾ドル・ウォンがトップ3に 人民元が動かない理由とは? | 関連記事をもっと読む )

ドルの覇権は崩れるのか?
ドルの覇権がトランプ政権によって終焉を迎えるのでは、という見方もある。しかし胡氏は、「ドル体制は築くのも壊すのも簡単じゃない」と断言する。イギリス帝国が衰退しても英語が世界の共通語として残ったように、誰もがドルを使わなくなる未来は想像しづらいという。