米国のトランプ大統領は今年4月以降、各国に「対等関税」を課し始めた。米中の貿易交渉期限は90日間延長され、11月まで持ち越されたものの、すでに中国から米国への輸出品にはトランプ政権発足前より高い関税が課されており、中国経済に大きな圧力となっている。
さらに、バイデン政権時代から続く「対中包囲網」によって、中国本土に生産拠点を置く企業の撤退や工場閉鎖のニュースもしばしば伝えられている。
台湾企業に対しても20%の「暫定関税」がすでに発動されている。ただ、多くの台湾企業は直接台湾から米国へ輸出しているわけではなく、中国や東南アジア、インドなどで加工を経てから米国に輸出するケースが多い。そのため関税リスクはさらに高まり、台湾企業のサプライチェーンへの影響が懸念されている。
上海の大学で教鞭をとる台湾出身の経営学者は、「台湾企業の多くは国際ブランドの受託生産に依存しているため、関税戦争ではブランド側の方針に従うしかない」と指摘する。
一方、中国資本の企業の多くは自前のブランドを持っており、外資ブランドの決定に左右されにくい。このため「最終的に関税戦の帰趨がどうなろうとも、台湾企業の被害は中国企業よりも大きくなる可能性が高い」との見方を示した。

米国でも物価上昇不可避
台湾出身で上海華東師範大学アジア欧州ビジネススクール副教授の陳弘信氏は、『風傳媒』の取材に対し、米国の消費市場における影響も避けられないと指摘する。
陳氏によれば、彼の中国人学生の中には、米国の消費財市場を研究する者や、米アマゾンで実際にビジネスを展開している者もいる。若い世代の中国人学生の多くは「米中が関税を相互に撤廃するのが最善だが、逃れられない課題であり、貿易の完全な『デカップリング(切り離し)』すらあり得る」と受け止めているという。
また、すでにアマゾンで販売する中国の事業者らは代替調達先を模索しており、関税上昇分を価格に転嫁する動きが広がっている。陳氏は「輸入品の値上げは避けられない。米国民は近く物価上昇の圧力を肌で感じるだろう」と語った。
陳氏は英国マンチェスター大学で経営学博士号を取得し、同大学グローバルMBA課程の指導教員も務めた。上海赴任前は浙江大学副教授、台湾・元智大学助理教授として国際経営を研究。医薬分野のバックグラウンドを活かし、外資系病院の中国進出を支援する幹部職を歴任した経験も持つ。

台湾企業は関税で不利な立場に
両岸を比べると、トランプ関税の影響は双方に及ぶが、台湾企業のほうがより深刻な打撃を受ける、と陳氏は指摘する。
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背景には、台湾企業の多くが受託生産(OEM)を中心に事業を展開している一方、中国本土の企業は自社ブランドを持ち、自らサプライチェーンを調整できるという違いがある。国際的大手ブランドの下請けに依存する台湾の代工メーカーは、顧客からの指示に従うしかなく、自ら自由に調達先を切り替えることは難しい。逆に、中国ブランドは独自に仕入れ先を変更できるため、関税戦争の影響を柔軟に回避しやすい。