危機対応の遅れ、議題の主導権を喪失
8月1日、米国が台湾に対し一時的に20%の重複課徴関税を導入すると発表した。農漁業や伝統産業を中心に輸出業界への打撃が避けられない中、頼清徳総統は直ちに国民へ説明せず、数日後になって行政院経貿談判事務所が「20%は既存税率に加算される」との重要な詳細を補足した。この遅れは、政府の危機情報の掌握や対応のリズムが後手に回っていることを浮き彫りにした。メディアや業界団体が議論を先行させる中、総統は低調な姿勢を保ち、結果として議題の主導権を失った。
情報の不透明さが信頼を損なう
総統と行政チームは「秘密協定」を理由に、外部への説明を簡略化し「20%の対等税率」とのみ発表した。しかしそれが累積方式であり、実際の影響は20%を大きく上回る可能性については当初明確に示さなかった。国際交渉で秘密条項が設けられることは珍しくないが、それでも総統は詳細を伏せたままではなく、国民に影響の評価や産業の対応戦略を十分に提供する責任がある。政府は影響を小さく見せることを選んだが、その結果、社会は自己判断を余儀なくされ、憶測や過剰反応を招いた。
産業界は政府による意図的な隠蔽を疑い、国民も重大な経済・貿易課題での情報伝達が不透明だと感じるようになった。一度形成された不信感は、短期間では容易に回復できない。
リーダーシップの欠如、民心安定の好機を逃す
経済・貿易の衝撃において、総統は単なる交渉の署名者ではなく、社会の信頼を安定させ、共通認識をまとめる存在である。しかし今回の頼氏は、鎮静化を優先した技術的な説明に終始し、具体的な行動の呼びかけや長期的な戦略の提示を欠いた。
そのため危機管理における指導者としての高さを示すことができなかった。世論の場では、この低姿勢の対応はすぐに野党やメディアの批判にかき消され、総統の言葉の力は急速に弱まった。初動で明確かつ力強いメッセージを打ち出せなければ、その後の政策ツールも社会的支持を得にくくなる。
優先順位の誤りが混乱を招く
米国が対等関税を発表した直後、国民が最も求めていたのはリーダーによる即時の影響説明と対策提示だった。しかし頼清徳総統は南部へ災害状況の視察に赴き、経済・貿易に関する説明を後回しにした。この優先順位の逆転は、政府の危機対応の焦点が混乱していることを映し出し、国際的圧力に直面して正面対決を避け、比較的安全で制御可能な場を選んだ心理状態を示唆する。こうした行動は、国際交渉の成果への自信不足や、世論批判への潜在的な恐れから生じた可能性があり、最終的にはリーダーシップへの信頼を弱める結果となった。 (関連記事: 李忠謙コラム:「関税いじめ」が招く米中対抗戦略の崩壊危機 | 関連記事をもっと読む )
政治闘争を優先し経済課題を軽視
さらに懸念されるのは、関税交渉や国際情勢が緊迫する中、頼氏が二度目の大規模リコール運動に注力していた点だ。国民が経済的圧力への対処や産業・雇用の防衛を期待している時期に、政治闘争を優先し経済問題を後回しにする姿勢は、政策の集中力を弱め、国家の優先順位や戦略的視野に疑念を抱かせる。国内の分裂が国際交渉の場で露呈すれば、外交・経済の両面で致命的な弱点となる。