舞台裏》台湾は戦えるのか 国土防衛隊を持たず「40万人頼れる民力」で挑む防衛の現実と脆さ

2025-08-13 15:28
賴政権は社会全体の防衛レジリエンス強化を掲げ、防災士の育成を重点施策の一つに据えている。(写真/張曜麟撮影)
賴政権は社会全体の防衛レジリエンス強化を掲げ、防災士の育成を重点施策の一つに据えている。(写真/張曜麟撮影)
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台湾総統の頼清徳氏は就任後、「全社会防衛レジリエンス委員会」を設置した。目的は、民間の力の訓練と活用の拡大、物資備蓄と生活物資配送体制の強化、エネルギーや重要インフラの防護、さらに社会福祉・医療ネットワークや避難施設の整備だ。加えて、情報通信・輸送・金融ネットワークの機能維持を確保し、「40万人の信頼できる民間戦力」の構築を掲げている。

内政部の劉世芳部長によれば、この40万人には警察、消防、義警、義消、その他の民間団体が含まれる。現役・退役の代替役が約27万8千人、義消が約4万8千人、義警などの任務チームや民間防災団体が約7万6千人で、合計は約40万人に達する。だが、その半数以上を占めるのは代替役であり、実態面での課題は大きい。予備役招集や代替役の活用、防災士制度の導入で強化を図るとしているが、現場ではその達成は容易ではない。

20250327-総統の賴清德(中央)27日、「2025全社会防衛レジリエンス委員会実地演習:緊急メディカルスペース拡張」を視察。(柯承惠撮影)
総統の賴清德(中央)は台湾の民間防衛のレジリエンス強化を掲げ、40万人の「信頼できる民間力量」構築への決意を示した。(写真/柯承惠撮影)

「40万人戦力」の実態は数字合わせか

内政部は2025年から代替役の現役・予備役に対し、防災士訓練コースを追加する計画だ。修了者には内政部が防災士証を発行し、社会全体の防災力向上を目指す。また、2025年3月には「代替役退役後の召集・勤務実施方法」を改正し、召集期間や回数、日数を柔軟に調整できるようにする方針だ。退役から9年を超えた代替役も対象に含め、年間60日という勤務召集の上限も撤廃する予定である。

台湾は自然災害の多発地帯であり、中国の軍事的脅威にも直面している。大規模災害と戦時被害の双方に備える必要があるが、内政部はあくまで「戦時動員」とは位置づけず、自然災害対応を中心に据える。制度設計には日本の「防災士」モデルが参考にされており、阪神大震災後の調査で示された「自助7割・互助2割・公助1割」の比率を踏まえた地域防災力の向上が狙いだ。

20250607-日本の代替役は教召範囲を拡大し、代替役も動員の焦点となっています。(資料写真、張曜麟撮影)
政府は教召の範囲を拡大し、代替役を動員の中心に据えている。(写真/張曜麟撮影)

訓練現場の実情 眠る受講者と形骸化するカリキュラム

役・予備役の代替役に行われる防災士コースは15時間で、応急処置、職務・任務の概要、国内の防災体制、近年の災害事例、避難所設営、防災計画の実施と検証などが含まれる。しかし『風傳媒』の取材によれば、講義中に多くの参加者は眠り込み、実技訓練で真剣に取り組む者はごくわずかだったという。内政部認定の講師も「現状は人数を稼ぐための数字合わせに過ぎない」と苦言を呈している。

さらに、3日間の教召カリキュラムでは担当講師が複数いるにもかかわらず内容の重複が多く、1日目の教材が3日目にも使い回されることもあった。学科試験は是非式や択一式だが、あまりに簡単で誤答する方が難しいレベルだ。選択肢の半数は「以上すべて」が正解になるなど、時間を過ごせば防災士資格が得られる実態が浮かび上がっている。果たして、こうした形だけの訓練で「信頼できる民間戦力」と呼べるのかが問われている。 (関連記事: 英専門家が警鐘 米中の対立にかかわらず台湾の未来は不安定 関連記事をもっと読む

20250327-2025全社会防衛レジリエンス委員会実地演習が27日に台南で行われ、慈濟ボランティアと代替役員が大規模避難訓練に参加しました。(柯承惠撮影)
多くの代替役が講義中に横になり、実技への姿勢も消極的で、時間を満たすだけで「防災士」資格が得られる状況だった。(写真/柯承惠撮影)

自主対応隊「T-CERT」の導入と浸透の壁

さらに、政府は2024年から「台湾民間自主緊急対応隊中間計画(T-CERT)」を始動し、義務役のカリキュラムにも組み込んでいる。計画期間は2024年から2029年で、初年度は重要インフラ職員を中心に、全国で年間80隊以上を結成。6年間で4段階に分けて計320隊、計8000人の初動対応員を養成する。訓練内容は、評価、マーキング、探索、救助、救護の5分野に及ぶ。

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