台湾のラップ歌手・大支(デイジス)の新曲『辣的』が波紋を広げている。歌詞が五月天(メイデイ)が所属するレコード会社「相信音樂」や特定アーティストを暗示しているとの憶測が浮上し、さらに野党・国民党と民衆党による罷免運動の時期と重なったことで、政治的意図の有無が取り沙汰された。国民党の王鴻薇立法委員は、大支の音楽制作スタジオが過去4年間で文化部と証券取引所から計2000万元超(約1億円)の補助を受けており、その資金が「プロパガンダ的創作」に使われた疑いがあると指摘した。これに対し、文化総会と文化部は、補助の審査は独立かつ透明で党政の介入はなく、芸術創作を「党国思考」で歪めるべきではないと反論した。
大支はSNSで、楽曲は特定の人物や組織を狙ったものではなく、制作には3か月をかけ、自身の意見と社会観察を表現したもので政治とは無関係だと説明。補助事業はすべて専門的審査を経ており、内容は独立していると強調した。制作チームとして創作の自由を守り、規模や影響力に関わらず芸術の初志を貫く姿勢を示した。一方で、今回の批判が、今後の創作で開放性と社会的責任のバランスを再考する契機になったとも述べた。

五月天と民進党の長年の関係
五月天が注目を集めたきっかけの一つは、1997年の台北県知事選だった。民進党が蘇貞昌氏を候補に擁立した際、蘇氏の娘である蘇巧慧氏が五月天のメンバー怪獸(モンスター)と同級生だった縁で、同バンドが選挙活動に参加。当時はまだ無名で、一回あたり5000元の演奏料と少額の交通費で約20回の応援演奏を行った。この経験は、後の《貢寮海洋音楽祭》発展にもつながったとされる。
今回の大規模なリコール運動には、数多くの独立系音楽家が賛同している。音楽評論家の馬世芳氏、作詞家の謝明訓氏、林夕氏、武雄氏、プロデューサーの王希文氏、盧律銘氏、シンガーソングライターの余佩真氏、王俊傑氏、何欣穗氏、李恕權氏らがSNSやイベントを通じて賛同を表明。夕陽武士、滅火器楽団、青虫aoi、OBSESS、装咖人、珂拉琪、バンド「那我懂你意思了」の陳修澤氏、血肉果汁機のボーカルGIGO、P!SCO、音楽プロデューサーの李雨寰氏など、多くのアーティストや団体が舞台に立ち、積極的に声を上げている。

独立音楽制作の厳しさ 予算削減懸念で声を上げる
台湾独立を支持してきたバンド・拍謝少年は、リコール運動への参加に加え、2025年の大港開唱で新曲《時代看顧團結的咱》を発表。アニメ「三隻小豬」を用いて両岸情勢を風刺し、会場では運動のチラシも配布された。フィンランド大使就任前の閃靈樂團ボーカル・林昶佐も演奏後にリコールへの関心を呼びかけた。同じく大港で出演したラッパー・楊舒雅やEmptyORioも、それぞれ異なる形で態度を示した。
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2025年台湾祭の主催者・島楎は、国民党の徐巧芯や王鴻薇から台湾祭への批判を受け、たびたびリコール支持を表明。台湾祭には多くのバンドが賛同しており、台中のインディーズバンドP!SCOやOBSESSも長年政治問題に関心を寄せ、2022年の民進党台中市長選や2024年の複数の民進党議員選挙に関わった。拍謝少年はまた、私的な友情から、2024年の立法委員選挙で吳音寧を支持した。