今年4月、シンガポールのホテルで台海を想定した兵棋演習が静かに行われた。主催はロンドンのシンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」であり、アジア太平洋地域の現職・退役の政府関係者や軍高官、安全保障研究者など40人以上の参加者とオブザーバーが集まった。演習の焦点は台湾や中国の勝敗ではなく、台海衝突によって台湾に取り残される可能性のある最大約100万人の東南アジア出身者を、いかにして退避させるかという点であった。
《ロイター》が8日に報じたところによれば、中国による台湾への全面的な海空封鎖を想定したこの兵棋演習は、最終的に意外な結論へと行き着いた。それは、危機の際に長年台湾に駐留するシンガポールの秘められた軍事プレゼンスこそが、台湾に取り残される可能性のある最大約100万人の東南アジア出身者を退避させる唯一の希望となり得るというものである。
演習の想定は、中国人民解放軍による台湾全域への海空封鎖により、島内に多くの外国人が孤立するというものだった。その数は約100万人に上り、その94%が東南アジア諸国の出身者であり、特にインドネシア、ベトナム、フィリピン出身の労働者が多数を占める。
この演習の核心的課題は、東南アジア各国が自国民をいかにして撤収させるかであった。《ロイター》に対し匿名を条件に証言した4人の参加者によれば、兵棋演習では各国の国防相や外相役を務めた参加者が数時間にわたり膠着状態に陥ったという。一部は東南アジア諸国連合(ASEAN)を通じた統一行動を模索したが、調整は難航した。別の参加者は、米国、中国、日本の代表役と個別に接触し、海空における特別な人道回廊の設定を交渉しようと試みた。
シンガポール、「第11時間」で登場
「最後の瞬間になってシンガポール側が介入し、ようやく局面が動き出した」。ある参加者はそう振り返る。「彼らは自国民を退避させる手段を見つけ出し、他国民の退避にも協力する提案をした」という。
この劇的な転機の背景には、長年存在しながらも公にはほとんど語られることのない事実があった。シンガポールは台湾に数十年にわたり秘密裏に軍事部隊を駐留させてきたのである。報道によれば、シンガポールはこの在台部隊を通じて台湾の空港や軍用機に接触・使用できる独自の優位性を活用し、兵棋演習で実行可能な退避策を提示した。
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もっとも、事情に詳しい3人の証言によれば、演習はシンガポールの提案が出た時点で終了し、中国による封鎖下で同国とどのように合意を取り付けるのか、あるいは退避の具体的な実行方法については深く議論されなかったという。現実世界での実現性には依然として大きな疑問が残されている。今回の兵棋演習は、シンガポールと台湾が約半世紀にわたり続けてきた軍事協力関係「星光計画(プロジェクト・スターライト)」の潜在的な価値を改めて浮き彫りにした。
ニュースちょっと解説:「プロジェクト・スターライト」
当時のシンガポール首相リー・クアンユー氏と、中華民国行政院長であった蔣経国氏は1975年に協議をまとめた。国土面積の小さいシンガポールには十分な軍事訓練場がなく、一方の台湾はマレー半島に似た山岳やジャングルなどの環境を備えており、両者の利害は一致した。その後、シンガポール軍は台湾南部の3カ所の駐屯地に定期的に部隊を派遣し、訓練を実施してきた。年間で交代派遣される歩兵や突撃部隊は最大3,000人に上るとされる。
シンガポールが中国と正式な外交関係を樹立した後も、「星光計画」は静かに継続されてきた。シンガポールにとって、それは単なる重要な軍事訓練の枠組みにとどまらず、ある西側安全保障関係者が表現したように「台湾海峡と南シナ海北部を観察するための極めて優れた戦略的拠点」でもあった。