海外資金の流入による日本の不動産市場の変化が注目されるなか、中国籍の家主による賃料の大幅引き上げが物議を醸した。日本の法律に詳しい弁護士は、この問題の背景には日中間の法律認識の差があると指摘している。日本では借主の権利が強く保護されているが、中国には同様の制度が存在しない。
今年1月、東京都板橋区の7階建てマンションの所有権が、中国に住所を持つ個人へ移転した。入居者はその後、8月から賃料が2倍以上になるとの通知を受けた。住民の多くはこれを不当とみなし、支払いを拒否したが、5月中旬にはマンションのエレベーター運行が停止。修理には半年以上かかるとされ、一部の部屋では違法民泊が行われ、騒音被害も発生した。この影響で、全住戸の4割が退去または退去予定となっている。
事件が報道されると世論が沸騰し、石破茂首相は国会答弁で「訪日外国人の消費は重要だが、国民の安全と安心を犠牲にしてはならない」と述べ、再発防止策を検討する姿勢を示した。その後、家主は値上げの撤回を通知し、エレベーターも修理を終えて稼働を再開した。

中国で10年間生活し、中国語で不動産案件を扱う弁護士・福原啓介氏は、「中国国内の経済悪化で資産保全ニーズが高まり、日本の不動産は投資対象として魅力を増している」と指摘する。円安で物件価格が相対的に割安に見えることも投資意欲を後押ししており、長期移住を見据えて物件購入を検討する中国人も増えているという。
今回の事案は、日中間の法律の違いを浮き彫りにした。福原氏によれば、日本では借地借家法により借主の権利が強く保護されている一方、中国では家主が突然退去を求めることは珍しくない。そのため、一部の中国人オーナーは日本の制度を理解せず、自らの都合で賃料を引き上げられると誤解している可能性があるという。

福原氏は、日本の法律では賃料の大幅引き上げは慎重な判断が必要であり、借主が同意しない場合、家主は裁判所に申し立てる必要があると説明する。
裁判所が妥当と認めなければ値上げはできず、逆に認められれば借主は増額分を支払う義務が生じる。
また、借主が値上げに応じられない場合でも、賃料の支払いは継続すべきと強調。「支払いを止めると契約違反となり、解約の口実を与えることになる」と警告した。
さらに、賃料引き上げの理由を家主や管理会社に確認し、書面で記録を残すこと、違法の可能性があれば行政機関へ相談することを勧めている。
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