米国が発動した「相互関税制度」により、日本産牛肉などの関税率が大幅に引き上げられたことが波紋を広げている。当初、日本側は「15%の上限措置」が適用されるとの認識だったが、実際には「既存関税に15%を加算」とされ、最終的な関税率は40%を超える事態に。日本政府は強く抗議しているが、EUには明確な上限条項が存在し、日本や台湾などアジア諸国には適用されていない現実が浮かび上がった。
背景:米国の「相互関税」制度が8月7日に発効
米国連邦官報(Federal Register)によると、2025年8月7日より、米国は自由貿易協定(FTA)を締結していない国々に対し、「相互関税(Reciprocal Tariff)」制度の適用を開始した。
この制度は、トランプ前政権の方針に基づくもので、米国製品が他国で高関税を課されている場合、その国からの輸入品にも同等の関税を課すというもの。今回の措置には、日本と台湾も含まれている。
日米間で認識に齟齬 日本は「15%上限」想定も、米国は「15%加算」
日本政府の主張:関税は15%で封じるという「上限制」
日本経済新聞の報道によると、日本政府は当初、「現行関税率が15%未満の場合は15%に引き上げ、15%を超える場合は現行の税率を維持する」という“封じ込め(キャップ)”の合意があったと主張している。
実際、交渉に当たった赤澤亮正氏が米国を訪問した際にも、上限制度の存在を改めて訴えたという。
米国の発表内容:既存の関税にさらに15%を加算
しかし、米連邦官報に掲載された内容では、日本産品に対して「現行関税に15%を加算する」方式が明記されている。
例えば、日本産牛肉は元々26.4%の関税が課されていたが、今回の措置により最終的に41.4%まで引き上げられる計算となる。これは日本側の想定とは明らかに異なっている。
なぜEUだけ優遇?「上限条項」の存在がカギ
米国とEUはこれまでの交渉で、「通商・技術協議会(TTC)」やUSTR(米通商代表部)の文書において、「対等関税制度においても15%を上限とする」旨が明記されている。
これは、鉄鋼・アルミ関税問題における妥協の一環として成立したものであり、EUに対しては、元々の関税率が高くても最大15%の関税しか課さないという優遇措置が保証されている。
「関税率の問題」ではなく「交渉力の差」
今回の関税問題は、単なる数式の違いではなく、「何を譲るか」という外交交渉の力関係を象徴している。
・日本の主張する「上限15%」条項は米側に認められなかった
・EUは市場開放などで譲歩し、見返りとして上限措置を獲得
・台湾についても、現時点で優遇措置の適用は確認されておらず、さらなる交渉なしには「非優遇国」と見なされる恐れもある
今回の「+15%関税」は、単なる経済政策ではなく、アジア諸国が国際交渉において直面する現実と試練を浮き彫りにしている。
編集:梅木奈実 (関連記事: 日本の15%関税、「上限保障」適用外の可能性 米国の協定文に不備か、政府が交渉急ぐ | 関連記事をもっと読む )
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