近い将来、台湾は米国と厳しい関税交渉を行う予定だ。その過程でいくつかの数字を見れば、米国が台湾に突き付けている要求の厳しさが浮き彫りになる。最終的に政府も市民も問わざるを得ないのは、台湾は米国から関税15%を得るために、どれほどの代償を払う価値があるのか、という点である。
米国は現在、台湾に対し20%の相互関税を課している。これは4月2日の発表で従来の32%から12ポイント引き下げられたが、依然として高い水準だ。近隣国と比べると、日本や韓国は15%、ベトナムは20%、インドネシア・タイ・マレーシア・フィリピンは19%、シンガポールは10%となっており、台湾は相対的に不利な立場にある。
ではなぜ台湾は米国と合意に至れず、20%のままなのか。公式には一切情報が漏れていないが、日韓やEUの事例から米国の要求を推測できる。トランプ政権は日本や韓国に対して当初25%、EUには30%の関税を課すと脅したが、最終的に交渉妥結後は15%に引き下げられた。しかし、この15%を得るためには巨額の代償が伴った。
EUは3年間で7500億ドル(約120兆円)の米国エネルギー購入と6000億ドル(約88兆円)の対米投資を約束。日本は5500億ドル(約80兆円)を投資し、1000億ドル(約15兆円)の天然ガス購入を約束した。韓国も3500億ドル(約51兆円)の投資と1000億ドル(約15兆円)の米国エネルギー購入を引き受けている。
この数字から見えてくるのは、米国が大幅な貿易黒字を持つ先進国に対しては、一定の「標準的」要求を行うということだ。それは数千億ドル規模の対米投資と米国製品の大量購入、さらに米国製品への無関税輸入措置と貿易障壁撤廃を伴う。
台湾交渉の停滞理由として、米国産牛豚や自動車の関税問題が挙げられることもあるが、実際には「交渉の余地がない」項目に過ぎない。台湾が米国車に17.5%の関税を課したまま、農畜産品の参入を制限している限り交渉は進まず、本当の焦点は「対米投資の規模と条件」にある。
ブルームバーグは、台湾が3000億ドル(約44兆円)の対米投資を約束していると報じたが、米国側はこれを不満とし、日本並みの5500~6000億ドル(約80~88兆円)を要求しているという。さらに米国は、孫正義氏が主導する「水晶之地(Crystal City)AI園区」プロジェクトへの3000億ドル投資を台湾に求めているとされる。
もしこの情報が正しいのであれば、台湾政府がこれを受け入れるのに躊躇する理由は明白だ。米国の要求は非常に厳しく、トランプ政権は台湾に対して過酷な条件を課しているといえる。米メディアの『Politico』によれば、米交渉官は「台湾を絞り尽くすように圧力をかけている」と報じている。
数字が物語る米国の要求の理不尽さは明らかだ。GDPが4.026兆ドル(約591.8兆円)の日本でさえ5500億ドル(約80兆円)を余儀なくされている一方、台湾のGDPは約8000億ドル(約12兆円)で日本の2割に過ぎない。それでも同額の投資を求められている。韓国はGDP1.7兆ドル(約249.9兆円)と台湾の2倍だが、対米投資は3500億ドルにとどまる。台湾は規模が小さいにもかかわらず、米国は日韓以上の利益を引き出そうとしている。
しかも、もし台湾が投資しても完全に利益を掌握できる保証はない。米メディアによれば、求められているのは水晶之地AI園区への投資だが、この計画は6月に公表されたばかりで、実態は大雑把だ。総投資額は1兆ドル(約150兆円)に上る構想だが、製造業を米国に回帰させるという狙いは専門家の多くが「実現困難」とみる。孫正義氏自身も近年はビジョンファンドで相次ぐ失敗が報じられ、投資の信頼性は揺らいでいる。
こうした現実を踏まえると、台湾社会は米国からの圧力の厳しさを理解し、いわゆる「米国不信」が再び広がる可能性がある。賴政府は交渉内容や米国の要求を明らかにしていないが、それには理由があるのかもしれない。最終的に台湾は問われるだろう。
関税15%の恩恵を得るために、台湾はどれだけの代償を払う覚悟があるのか。
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