調査》台風で漂う隠れた毒物 台湾に迫る静かな健康危機

2025-08-05 11:00
台南は台風被害を受け、住宅の屋根瓦が吹き飛ばされ、長年封じられていた「見えない毒物」が放出された。(写真/台南市政府提供)
台南は台風被害を受け、住宅の屋根瓦が吹き飛ばされ、長年封じられていた「見えない毒物」が放出された。(写真/台南市政府提供)
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7月は南台湾の住民にとって厳しい月であった。相次ぐ台風、豪雨、洪水がインフラや山林、農作物、そして家屋を破壊した。8月となった今も、行政院や南部の各県市政府は、復旧作業や救済、補助金の支給についての広報を続けている。一方、台北の人々が「南部はかなり浸水しているらしいね」と軽く口にするその一言は、南台湾の人々にとって天を仰ぐしかない日常を突きつけるものである。

なぜこうなったのか。中央と地方が1か月を費やしても、被災状況は収束しない。南部は土地が広大であることに加え、ひとつの災害が収まる前に次の災害が襲い、連鎖的な天災が続くことが要因とされる。7月は台湾全土で社会防衛の強靭性を試す訓練期間であり、台南市は同月に実施された漢光軍事演習と社会防衛演習のため、3月から模擬訓練を行った先導都市でもあった。しかし、3月には模範的に演習をこなした台南も、7月の天災の前には脆さを露呈した。もし戦災が加われば、より困難な局面となるのは必至である。

さらに予想外だったのは、台風と豪雨が台湾中南部の沿岸地域を襲い、鉄板屋根を吹き飛ばし、農舎を倒壊させただけでなく、もう一つの静かな健康危機をももたらしたことである。

台南市長黄偉哲救災。(台南市政府提供)
台風4号(ダナス)により、台湾中南部は深刻な影響を受けた。写真は黄偉哲台南市長が災害状況を視察している様子。(写真/台南市政府提供)

南部のアスベスト廃棄物1万5000トン 7月末時点で処理はわずか500トン

風雨は数万枚に及ぶアスベスト屋根を引き裂き、数十年間眠っていた見えない毒物「アスベスト」を予告なく空気中に放出した。被災後に住民が次々と自宅へ戻り、片付けを始めると、数百人が咳や喉のかゆみ、皮膚の赤みなどの症状を訴え始め、目の前に散らばる破片が単なる廃材ではなく、今にも爆発しかねない健康リスクであることに気づいたのである。

台湾には今も約23万棟の建物にアスベスト建材が使用されており、多くは1980年代以前に建てられ、未改修の古い住宅や畜舎である。環境部の推計によると、今回の風災で1万5000トン以上のアスベスト建材が破損し散乱し、その多くは台南市の渓北地区、嘉義、雲林、彰化沿岸部に集中している。かつて「奇跡の鉱物」と称されたアスベストは、低価格で耐火・断熱性に優れることから1970年代以降、屋根材や配管、間仕切りなどに広く使われた。しかし繊維が壊れて放出されると、吸入により中皮腫、肺がん、じん肺などを引き起こす可能性があり、世界保健機関(WHO)は2005年に全面禁止を勧告した。台湾では2018年にようやくアスベスト建材が全面禁止となったが、既存の建物には大量に残存している。

7月末、台風ダナスの被災から1週間も経たないうちに、地方の災害報告は次第にアスベスト問題に焦点を当て始めた。台南、嘉義、雲林の住民からは、廃材処理の仕組みが混乱し、防護資材も不足しているとの声が相次いだ。中には処理手順を全く知らず、アスベスト片を一般廃材として捨てる住民もおり、二次汚染の懸念が高まっている。環境部によれば、台南だけで約1万トンのアスベスト廃材が発生し、その6割は畜舎由来、残りは住宅の屋根である。嘉義と雲林でも計5000トン以上と推計されるが、7月末までに回収できたのはわずか約480トンにとどまり、作業は遅々として進んでいない。

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