日本記者クラブは2025年7月30日、「戦後80年を問う」シリーズの第18回として、元統合幕僚長・折木良一氏を招き、激変する国際安全保障環境と日本の対応について講演を行った。
冒頭、折木氏はロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の不安定化、そして米国でのトランプ大統領による第二次政権の可能性などを踏まえ、「戦後以来の同盟と対立の枠組みでは世界はもはや読み切れない」と警鐘を鳴らした。
折木氏は1950年、朝鮮戦争が勃発した年に生まれ、自衛隊の前身である警察予備隊創設の時代を原点に持つ。「私は戦後5年目に生まれ、安全保障とともに生きてきた」と語り、自衛官として40年にわたる経験を踏まえて、自身の考える安全保障観を語った。
「従来の軍事一辺倒の安全保障から、外交・経済・先端技術を含めた“広義の安全保障”へと概念が広がった」と述べた上で、日本における平和教育が「話し合い至上主義」に偏ってきたことに懸念を示し、「理想論ではなく、現実に足をつけて平和を維持する発想が不可欠だ」と強調した。
講演では、冷戦期から令和に至る安全保障環境の変化を「10年単位の変動」として説明。朝鮮戦争、キューバ危機、アフガン侵攻、冷戦終結、天安門事件、湾岸戦争、9.11テロ、南シナ海への中国進出、ウクライナ侵攻へと至る節目ごとに、日本と世界の安保政策の転換を分析した。
中でも折木氏は、「1991年の湾岸戦争は日本の安保政策を根底から揺るがした」と回顧。自衛官の派遣を巡る制度不備に直面した当時、自身の職業観に強い疑問を抱いたという。「命を懸ける組織としての自衛隊の在り方に真剣に向き合わざるを得なかった」と語った。
さらに、東日本大震災時の統幕長としての経験を通じ、「本当に危機が起きたとき、自分の国を守れるのは自分たちだけ。日米同盟も、日本が前に出なければ成り立たない」と主張。「福島第一原発の事態では、米軍は安全上撤退したが、日本は誰かがやらなければならなかった」と述べ、日本の主体性の重要性を訴えた。
講演終盤では、現在の国際秩序を「構造的変化の渦中にある」と指摘。「米中ロの競合、権威主義的秩序の台頭、先端技術による軍事革新、新たな核の時代の到来」といった複合的リスクが重層化する中、「Gゼロの時代」に日本がどのような立ち位置を取るかが問われていると語った。
また、「国家として何を目指すのか、日本はどうあるべきかをトータルに議論すべき」と述べ、縦割り行政を超えた統合的な国家戦略の必要性を訴えた。「安全保障は自衛隊だけで担うものではなく、国民全体の決意が問われている」と締めくくった。
会見は後半、参加者との質疑応答も行われ、台湾有事や核抑止、中国・北朝鮮の軍事力評価、日米同盟の将来像、防衛費の水準など幅広いテーマに対し、折木氏は現場視点から率直かつ詳細な見解を述べた。
戦後80年の節目に、冷静かつ現実的な安全保障認識を訴える折木氏の講演は、今後の日本の進路を考える上で重い示唆を投げかけた。
編集:柄澤南 (関連記事: 津波警報で交通網まひ 東海道線、横須賀線など主要路線が終日運休、仙台空港も滑走路閉鎖 | 関連記事をもっと読む )
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