トランプ氏が署名した新たな関税政策で、台湾から米国への輸出品には20%の税率が適用されることが明らかになった。この税率は、日本や韓国、欧州連合(EU)、さらにはベトナム、フィリピン、マレーシアよりも高い水準である。『フィナンシャル・タイムズ』や『ロイター』などの海外メディアは、台湾と米国が貿易協定を結べなかったことが背景にあると分析する。しかし『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』は、より深刻な見方を示している。同紙は7月31日の社説で、トランプ氏が「モスクワ—北京軸」を分断し、習近平氏との「大きな取引」を模索している可能性が高いと指摘した。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』の社説によれば、米中貿易交渉代表がスウェーデンで行った協議は単なる貿易問題にとどまらず、「より深い進展」が含まれる可能性がある。トランプ氏は、ロシア・ウクライナ戦争が膠着する中で、ロシアへの中国の支持を断つことが外交的な突破口になると考えているようだ。すでにウクライナへの武器供与方針を変更し、新たな制裁の期限も設定した。トランプ氏は、ロシアを抑止する鍵はモスクワへの中国支援を削ぐことにあると確信し始めているとみられる。
『WSJ』は、米財務長官ベッセント氏がスウェーデンで中国の国務院副総理と交渉し、トランプ政権でも実現できなかった貿易協定の締結を目指すだけでなく、習近平氏にプーチン氏のウクライナ戦争への支援を控えるよう求めている可能性が高いと分析する。現在、米上院で審議中の「二次制裁」法案は、トランプ氏にとって重要な交渉カードだ。この法案は、ロシアから石油や天然ガスを輸入する国に対し500%の関税を課すもので、中国とインドが主要ターゲットとなる。
もしトランプ氏がこの法案を支持すれば、議会通過は確実とされる。トランプ氏はすでにインドに対し、ロシア産原油の購入をやめなければインド製品に25%の関税を課すと警告した。『ロイター』によれば、インドの国営製油所はロシア産石油の購入を停止しており、インドも関税圧力を強く意識しているという。『WSJ』は、中国がレアアースの優位性を握る一方で経済は疲弊しており、上下両院が「二次制裁」を可決すれば、中国経済に深刻な打撃となると指摘する。
トランプ氏は「大きな棒」だけでなく「ニンジン」も用意している。先端半導体、特にNVIDIAのH20チップ輸出禁止の解除がその一例だ。『WSJ』は、この措置が台湾の頼清徳氏に圧力をかけ、中南米訪問の途中で予定されていたニューヨーク立ち寄りを拒否させる一環だった可能性を示唆する。公式な発表はないが、頼氏が訪問を取り消した事実はそれを裏付ける。バイデン政権が蔡英文前総統の訪米を許可したことは、北京の注目を集めているとみられる。
H20チップ禁輸解除には20人の国家安全保障専門家が反対しているが、ホワイトハウスは北京との「大妥協」を試す価値があると判断しているようだ。『WSJ』は、トランプ氏がニクソン大統領の外交を高く評価し、中国の冷戦孤立を終結させた歴史を踏まえていると指摘する。数年にわたるウクライナ戦争が中露関係を強める中、トランプ氏は軸を崩すことで、ロシアとウクライナを交渉の席に着かせようとしている可能性がある。
ただし、『WSJ』はトランプ氏の計算に懐疑的だ。プーチン氏がウクライナで「特別軍事作戦」を開始する前から、彼と習氏は「無制限のパートナーシップ」を結んでおり、主導権は北京にある。中国は戦争継続に必要な技術を提供する見返りに、ロシアから安価な原油を得ている。仮に「二次制裁」が発動されても、中露関係への影響は未知数だ。さらに重要なのは、習氏が制裁回避の見返りとして何を求めるのか、そして台湾がトランプ氏の交渉カードとなるのかという点である。
『WSJ』によれば、トランプ氏は第2期政権で米国の主要な対抗国すべてとの協定締結を目指しており、イラン、ロシア、中国、北朝鮮も対象だ。イランは要求を拒否し、その代償として核施設を破壊された。ロシアもウクライナ侵攻でトランプ氏の要求を拒んだ。イランとロシアでの失敗を経て、トランプ氏はいま、中国という「第三の門」の向こう側を見極めようとしている。
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