訪日観光客数が過去最多を記録するなか、日本各地で深刻化するオーバーツーリズム(観光公害)への対応が問われている。公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は7月25日、九州大学准教授・田中俊徳氏を招き、「オーバーツーリズム対策 日本が持続可能な観光地となるために」と題した記者会を開催。田中氏は、京都や富士山、沖縄などで顕在化する事例を挙げつつ、日本の観光政策における制度的不備と「保全戦略の欠如」を指摘し、ルール整備と財源の再配分が急務だと訴えた。
田中氏は冒頭、日本政府が2030年までに訪日外国人旅行者6,000万人を目指している現状について、「この数字は選択ではなく、避けられない現実だ」と指摘。その上で「観光政策はアクセルばかりで、保全へのブレーキがない」と懸念を示し、持続可能性の観点から戦略の抜本的見直しを求めた。
具体的な課題として、京都市では観光客の急増により市バスが常時混雑し、高齢者や地元住民が移動困難となっている現状、富士山では短期間に数十万人が登山し、2024年には9人の死亡事故が発生した実態を紹介。沖縄・前田岬では違法駐車やサンゴの損傷が相次ぎ、「自然のキャパシティを超えた観光」が地域社会に負の影響を与えていると述べた。
制度面では、国立公園での過度な利用を防ぐための「利用調整地区制度」が存在するものの、導入されているのは全国で2カ所のみ。環境省の保有地は全体の0.4%にとどまり、制度運用に地域合意が不可欠であることが導入の障壁となっている。
また、日帰り観光客が多い地域では宿泊税が機能せず、交通渋滞やゴミ処理などの行政コストだけが増加していると指摘。田中氏は「観光客が増えても地方交付税は増えない構造になっている。財源なき観光立国は成立しない」とし、出国税や宿泊税の増額と、それらを地方に再配分する制度設計が必要だと語った。
さらに、観光依存国になるリスクにも言及。「観光は平時でこそ成立する産業であり、自然災害やパンデミック時には一瞬で崩れる。だからこそ、自動車産業やアニメーションなど他の産業基盤も維持する多軸的な国家戦略が必要だ」と述べた。
最後に田中氏は、「ルールは負担ではない。むしろ悪質な事業者を排除し、良質な観光と地域の資源を守るものだ」と語り、意識改革と制度整備を同時に進めることの重要性を訴えた。
編集:柄澤南 (関連記事: EU、トランプ関税「15%」で妥協 英紙「合意に意味なし」と警鐘 | 関連記事をもっと読む )
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