「テクノロジー冷戦」の最前線は東南アジアに 米中のAI覇権争いが地政学リスクを加速

2025-08-01 10:30
Kimi K2は中国で現在最も話題性の高いAIモデルとなった。(微信公式アカウントより転載)
Kimi K2は中国で現在最も話題性の高いAIモデルとなった。(微信公式アカウントより転載)
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英誌『エコノミスト』は7月30日、中国がすでに米国に匹敵するAIモデルを構築したものの、高性能チップの不足により大規模な実用化が依然として困難であると指摘した。業界が行き詰まり、代替策を模索する中、トランプ政権は7月に突如としてエヌビディアの対中輸出禁止を緩和し、中国のAI発展に転機が訪れた。同時に、地理的優位と中立的立場を背景に、東南アジアはAIデータセンターやチップ再輸送の拠点となり、米中双方の企業が相次いで進出している。こうして同地域は、テクノロジー冷戦の新たな最前線となりつつある。

トランプ大統領がチップ禁令を緩和、中国AIが再び「動き出す」

米国のAI覇権が揺らぎつつある。中国のAI技術は急速に追い上げている。英誌『エコノミスト』は7月30日、北京の新興企業ムーンショットAIが発表した最新モデルが、プログラミングと科学知識のテストでそれぞれChatGPT 4.1とClaude 4 Opusを上回り、世界ランキングで首位に立ったと報じた。さらに別の新興企業DeepSeekも年初にv3モデルを公開し、米国外の開発者として初めてシリコンバレーに対抗可能な大型言語モデルを生み出したとされる。

もっとも、モデル性能が優れていても、中国のAI企業は共通して「動かし続けられない」という課題に直面している。AIモデルは学習を終えた後、データセンターのチップで利用者からの入力を処理し続けることで安定したサービスを提供する。この段階は「推論(inference)」と呼ばれる。しかし、米国による高性能チップの対中輸出規制のため、中国の各研究所では深刻なチップ不足が続き、モデルは動作が遅く、利用が制限されるほか、頻繁な接続切れも発生している。

苦境に直面する中、DeepSeekは新モデルの発表を延期する判断を下した。Kimi K2はすでに稼働を開始したものの、処理速度の遅さが原因で数日以内に利用者から不満の声が相次いだ。中国のAI業界が行き詰まりを見せるさなか、米国のトランプ大統領は7月中旬、NVIDIAのH20チップに対する輸出制限を予想外に緩和し、中国への供給再開を認めた。この動きに、中国のAI業界は思わず歓喜の声を上げたのである。

DeepSeekが極めて少ない資源で西側科技大手と肩を並べるAIモデルを訓練し、シリコンバレーに衝撃を与えた。(AP)
DeepSeekが極めて少ない資源で西側科技大手と肩を並べるAIモデルを訓練し、シリコンバレーに衝撃を与えた。(AP)

中国は豊富なエンジニア人材、潤沢なデータ資源、急速に拡大するデータセンター網を有しているものの、真のボトルネックとなっているのは「自前の高性能計算能力」である。計算用チップのほとんどは輸入に依存しており、中国のAI発展は長期的に他国の制約を受けざるを得ない状況にある。もし中国が、長期的かつ安定的で外部に左右されないチップ供給網を確保できなければ、米国政府による今回の規制緩和は、まさに「画餅に帰す」に等しい。 (関連記事: DeepSeekが危機的状況に 使用率50%から3%まで急落、新AIモデルの発表は未定のまま 関連記事をもっと読む

チップ迂回輸入、本社移転により中国AIが国外に活路を求める

英誌『エコノミスト』は、ここ数カ月、中国のAI企業がチップ不足を解消するために新たな道を模索していると指摘している。最も一般的な手法は「オープンソース化」である。DeepSeek v3やKimi K2などのモデルは、米国のプラットフォームHugging Faceに直接公開され、ユーザーは自由にダウンロードしてローカル環境で実行できる。企業自身が安定したクラウドサービスを提供できなくとも、オープンソース化によりモデルの露出と利用は維持される。

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