世界は現在、米中間の最新の関税交渉と、その力関係の行方に注目している。しかし、米国経済が直ちに危機に直面しているわけではない状況下で、トランプ政権は近年まれに見る大規模な企業介入に踏み切った。株式投資を通じた関与にとどまらず、企業の重要な経営判断にまで直接介入しており、その主な理由として「対中対抗」を掲げている。こうした動きは「市場介入」と「国家安全保障戦略」の境界線を再定義し、連邦政府を国家資本主義的な政策モデルへと押し進めているように見える。
鉄鋼産業:資金投入なしに決定権を持つ「黄金株」
7月15日、トランプ氏はピッツバーグで開催されたAI・エネルギーサミットにおいて、U.S.スチールが日本製鉄との合併計画の一環として、自身に拒否権を持つ「黄金株(golden share)」を付与したと発表した。トランプ氏はその場で「誰が黄金株を持っているか知っているか?私だ!」と公言した。
President Trump has secured a perpetual Golden Share as part of Nippon Steel's acquisition of U.S. Steel.This partnership between the United States and Nippon Steel includes historic $14 billion investment in U.S. Steel by Nippon Steel that will revitalize this strategic and…
— Howard Lutnick (@howardlutnick)June 14, 2025
この決定の背景には、米国鉄鋼が昨年末に日本製鉄との合併を発表した後、全米鉄鋼労組(United Steelworkers)などの労働組合が強く反対し、国家安全保障への懸念を表明したことで、最終的にトランプ政権が交渉に介入したことがある。黄金株を通じて、トランプ政権は全米第3位の鉄鋼生産企業の重要な意思決定に対する拒否権を持つことになる。大西洋評議会の学者ダンツマン(Sarah Bauerle Danzman)はCNBCの取材で、これは「資金を伴わない国有化」のモデルに似ていると分析し、「トランプは実質的な支配権を得たが、実際の資金投入はしていない」と指摘した。
レアアース戦略:国防総省がMP Materials社の筆頭株主に
鉄鋼産業に加え、米国政府は最近、鉱業分野でも同様の布陣を敷いている。米国防総省は7月初めに4億ドルを投じてレアアース鉱山会社MP Materialsの株式を取得し、同社の筆頭株主となったと発表した。
MP Materialsは米国唯一の大型レアアース鉱山を所有しており、カリフォルニア州マウンテンパス(Mountain Pass)に位置するこの鉱区は北米最大規模のレアアース鉱床である。今回の投資目的は、米国の重要鉱物供給を確保し、中国への依存を減らすためとされている。MP Materialsの最高経営責任者リティンスキー(James Litinsky)氏は、米国政府のこの措置は中国の「重商主義」の挑戦に対抗するため、新たなサプライチェーンモデルを構築するものだと述べた。 (関連記事: トランプ氏「関税外交」の全記録 一夜で145%、次の瞬間には再び緩和 世界経済は人質に | 関連記事をもっと読む )
MP Materialsが7月10日に公表した協定内容によると、国防総省は約4億ドルの転換優先株取得を通じて、MP Materialsの約15%の株式を取得し、筆頭株主となった。さらに協定には、磁石生産施設「10X Facility」の建設や、レアアース金属製品NdPrに対する10年間の価格下限(price floor)と購入契約の設定など、複数の長期戦略条項が含まれており、企業収益とサプライチェーンの安定を保障している。