高市早苗氏は、首相就任直後に衆議院を解散するという大きな賭けに出た。そして今、その判断が最も合理的な選択だったことを、選挙結果によって証明した。
2月8日に行われた衆議院選挙で、自民党は高市氏の率いるもと、全議席の3分の2を超える圧勝を収め、日本政界の主導権を取り戻した。
英誌『エコノミスト 』は、この勝利が自民党の全面的な再生を意味するとは限らないと指摘する。むしろ、高市氏個人のカリスマ性、強い指導者像、そして国家安全保障を軸とした動員が、長年にわたり蓄積されてきた政党への不満や負債を一時的に覆い隠した結果に近いという。
権力が再び集中することで、高市氏は国会からの抑制を受けにくくなり、より強硬な安全保障政策や経済政策を推し進める余地を得る。ただし、債券市場の反応や中國の出方は、今後の長期政権運営において避けて通れない試練となり続けるだろう。
自民党が大勝 戦後初めて3分の2を超える 高市早苗氏は、就任からわずか3カ月で、最も危険でありながら最も直接的な手段を選んだ。日本は再び、自民党に権力を委ねるべきなのか。その問いを、有権者に突きつけたのである。高市氏は衆議院の前倒し解散を決断し、首相の座と自身の政治的将来を賭けに出た。そして今、その大勝負は大きな見返りをもたらした。
2月8日の開票後、自民党は早い段階で圧倒的な優位を示し、衆議院で強固な多数を確保した。最終的に獲得議席は316に達し、戦後初めて改憲に必要な3分の2のラインを超えた政党として、日本政界の主導的地位へと返り咲いた。
これにより高市氏は極めて大きな政治的権限を手にすることとなった。財政面では比較的平和的な解決を目指す立場をとる一方、安全保障分野では強硬な立場を打ち出す彼女にとって、この勝利は政権基盤を固めただけでなく、近年の不祥事や選挙での敗北が続いた自民党が低迷期を脱したことを象徴するものでもある。
英誌『エコノミスト』は、この圧倒的な勝利は決して当初から約束されたものではなかったと指摘する。高市氏は昨年10月の就任以降、個人の支持率では好調を維持してきたものの、自民党そのものが同様の人気を得ていたわけではない。選挙前、 自民党と日本維新の会、さらに友好的な無所属議員で構成される与党陣営は、衆議院465議席のうち233議席しか持たず、過半数をわずか1議席上回るにすぎなかった。それが今回、352議席を獲得し、一気に100議席以上を積み増す結果となったことは、驚くべき逆転と言える。
1955年の結党以来、自民党が政権の座を失ったのはわずか2度にとどまる。2009年から2012年にかけて野党に転落した後、同党は高市氏の政治的師でもある安倍晋三氏のもとで2012年に政権へ復帰し、その後は安倍氏が2020年に退任するまで、長期にわたり日本の政治を主導してきた。
昨年夏の参議院選挙と、2024年10月の衆議院選挙で、自民党は相次いで過半数を失い、少数与党としての政権運営を余儀なくされていた。
高市氏が党総裁に就任した後、日本維新の会と連携し、かろうじて過半数を確保する連立体制を築いたが、今回の選挙は、自民党が続けてきた不安定な時期に正式に終止符を打つものとなった。
2026年2月8日、首相で自民党総裁の高市早苗氏が、党本部で当選者に花をつける。(写真/AP通信提供)
「党」より「個」のカリスマ 高市旋風の正体 英誌『エコノミスト』によれば、今回の選挙結果は、高市早苗氏個人の求心力が強力な集票マシンとなったことを浮き彫りにした。彼女は「変化」を、あるいは少なくとも「政治の風景が変わる予感」を求める有権者層を巧みに取り込んだ。
日本初の女性首相という事実に加え、その経歴は従来の世襲エリートとは一線を画す。中流家庭の出身でありながら、歯に衣着せぬ発言を貫き、若き日はヘビーメタルバンドのドラマーだったという異色の経歴も、ステレオタイプな政治家が並ぶ中央政界の中で、彼女を際立たせている。
国際舞台での振る舞いも、その「強いリーダー像」を強化した。最重要同盟国である米国のドナルド・トランプ大統領が選挙前に公然と支持を表明したこと、そして中国との外交的摩擦が、逆説的に国内の保守層を結束させる効果をもたらした。
また、高市氏が掲げた大規模な歳出拡大(積極財政)公約は、国債市場を一時動揺させたものの、生活向上を望む有権者の心理を突き、決定的な勝因となった。
選挙戦における高市氏の動員力は圧倒的だった。読売新聞の集計によると、高市氏は「仕事、仕事、そして仕事(雇用と経済)」というスローガンを体現するかのように、12日間の選挙期間中に計1万2480キロを走破。その移動距離は他の党首を凌駕していた。さらにSNSを駆使したデジタル戦略により、旧態依然とした自民党のイメージを刷新してみせた。
対照的に、野党陣営の準備不足は致命的だった。急造の「中道改革連合(CRA)」は、立憲民主党と、かつて自民党と連立を組んでいた公明党を束ねたものの、明確な理念を打ち出せず、相乗効果どころか有権者の混乱を招いた。
ネット上では、この連合の執行部が年配男性ばかりであることを揶揄し、通信規格の5Gにかけて「5爺(ファイブ・ジイ=5人の老人)」と皮肉られた。
野党勢力の「中道改革連合」が惨敗した。(写真/ AP通信提供 )
野党総崩れ、残るリスクは「市場」と「外圧」 『エコノミスト』誌は、この選挙結果が今後数年の日本の政治地図を塗り替えると予測する。中道改革連合の執行部は引責辞任が避けられず、連合の存続自体が不透明だ。
また、左派系小政党の壊滅的敗北は、イデオロギー色の強い「平和主義」路線がもはや有権者に響かない現実を突きつけた。地政学的リスクが高まる現代において、従来の護憲・平和路線はリアリティを欠くと判断された形だ。
新興勢力も伸び悩んだ。極右の参政党(Sanseito)は15議席にとどまり、期待外れに終わった。一方で、昨年5月に発足しテクノロジー楽観主義を掲げる「ミライ(Mirai)」が、無党派層の一部を取り込み7~13議席を獲得してダークホースとなったが、自民党一強を脅かす規模ではない。
衆議院での絶対安定多数確保により、高市氏は野党の抵抗を無力化した。党内のライバルも沈黙を余儀なくされ、政権運営は盤石となる。たとえ「ねじれ」が生じる参議院で過半数を持たずとも、衆議院の圧倒的多数による「衆議院の優越」を背景に立法過程を主導し、必要とあらば参議院の決定を覆すこともできる。
この安定基盤の上で、高市氏は独自の政策を推し進めるだろう。「責任ある積極財政」を掲げ、2年間の食料品消費税率引き下げや、戦略産業への巨額投資による育成を図る。安全保障では、防衛・インテリジェンス体制の強化、武器輸出規制の緩和、新たな対外情報機関の創設、そして防衛産業の再活性化に邁進することになる。
しかし、同誌は警告する。選挙の勝利ですべてのリスクが消えたわけではない。国内の政敵を一掃した高市氏だが、国債市場の厳しい視線や中國からの態度は、議席数で封じ込めることはできない。これら外部からの圧力こそが、高市政権にとって避けて通れない最大の試練となるだろう。