トップ ニュース 柴思原氏の視点:電撃解散と「高市効果」──自民党が3分の2超を確保した背景
柴思原氏の視点:電撃解散と「高市効果」──自民党が3分の2超を確保した背景 2026年2月8日、自民党本部で当選者の名前にバラを付ける高市早苗首相兼自民党総裁。(AP通信)
2月8日、第51回衆議院議員総選挙が投開票された。本選挙は小選挙区289議席、比例代表11ブロック176議席の計465議席を巡って争われた。
公示前、自民党と日本維新の会は合わせて232議席(自民党198議席、日本維新の会34議席)を保有していた。開票結果は事前の世論調査の傾向と概ね一致し、自民党が圧勝する一方、中道改革勢力は惨敗となった。
開票結果によると、自民党は316議席を獲得し、単独で総定数の3分の2を上回った。これは戦後の衆院選における単一政党の獲得議席数として過去最多となる。連立を組む日本維新の会は36議席を獲得。小選挙区では、自民党が東京および周辺県(神奈川、千葉、埼玉、山梨、静岡)を席巻し、維新は大阪で独自の強さを見せた。
立憲民主党と公明党による「中道改革連合」はわずか49議席にとどまり、公示前の167議席から大幅に後退。国民民主党は28議席を獲得し、前回から1議席増やした。
その他の政党では、参政党が比例代表で15議席を獲得。「チーム未来」は国会初進出を果たし、比例で11人が当選。日本共産党は4議席、れいわ新選組は1議席、「減税日本・憂国連合」が1議席を獲得。日本保守党と社民党は議席を獲得に至らなかった。
単一政党による衆議院での3分の2以上の議席獲得は、戦後初の快挙である。 自民党が今回獲得した316議席は、2009年の衆院選で民主党が記録した308議席を上回るだけでなく、自民党自身の過去最高記録も更新した。これまでの最高記録は、1986年の中曽根康弘政権下での衆参同日選挙における304議席だった。
参議院では自民党がいまだ過半数を確保していないため、執政党が提出した法案が否決される可能性は残る。しかし、日本国憲法第59条により、衆議院は立法において優越的な地位にある。たとえ参議院で法案が否決されたとしても、衆議院で再び出席議員の3分の2以上の多数で可決すれば、その法案は成立する。したがって、今回自民党が衆議院で3分の2以上の議席を確保したことで、制度上は参議院の否決を回避して立法を推進する能力を得たことになる。
今回の選挙は、そのスケジュールの短さでも注目を集めた。衆議院は1月23日に解散され、解散から投票まではわずか16日間だった。これは第二次世界大戦後、解散から投票までの期間として最短記録である。議席構成と選挙プロセスの双方が歴史的記録を更新した点において、極めて意義深い選挙となった。
投票日当日は各地で降雪に見舞われ、東京でも今年初の積雪を観測するなど、一時的に投票率低下が懸念された。一方で、期日前投票者数は過去最高を記録した。総務省のデータによると、小選挙区の期日前投票者数は2701万7098人に達し、参議院選挙を含む国政選挙で過去最多となり、前回衆院選の約1.29倍となった。
それでも、厳しい寒さの影響を受けた一部の「雪国」地域では投票率が低迷した。前回を下回ったのは青森、秋田、山形、富山、福井、和歌山、鳥取、島根の8県だった。全体で見ると、投票率が最も高かったのは高市早苗首相(以下、高市氏)の地元である奈良県で62.17%。最低は鳥取県の47.69%だった。寒冷な気候は自民党を支持する若年層の情熱にはさほど影響しなかったが、中道改革勢力を支持する一部の高齢者層の投票行動を抑制した可能性がある。
今回の自民党の圧勝は、高市氏の首相就任以来の高支持率が「集票力」へと結実したことを示している。しかし、この勝利の裏には未解決の構造的な矛盾が潜んでおり、その最たるものが経済状況だ。
ブルームバーグの分析によると、2020年と比較して、昨年12月時点で価格が1割以上上昇した品目は393品目に上り、とりわけコーヒー豆やコメの価格高騰が著しい。2022年4月以降、日本の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は概ね3%前後で推移している。これほどの水準と期間にわたるインフレは、バブル経済崩壊前後まで遡らなければ見られない現象だ。
さらに過去15年間、各所得層における食料支出の割合は上昇傾向にあり、2025年には44年ぶりの高水準に達した。総務省が2月に公表した『家計調査』でも、2025年の2人以上世帯の消費支出は月平均31.4万円で前年比4.6%増、うち食料支出は5.5%増となっている。
興味深いのは、近月の世論調査で「物価高」が常に有権者の最大の懸念事項として挙げられているにもかかわらず、食品価格や生活費の上昇、実質賃金の伸び悩みといった問題が、今回の選挙で自民党への政治的代償につながらなかった点だ。
高市氏は円安誘導と財政出動拡大による経済刺激策を掲げているが、これで現在の物価圧力を緩和できるかは不透明だ。高市氏の支持者たちは、その政策が招きうるインフレリスクに対して、ある種の「選択的盲目」に陥っているように見える。同時に、移民政策における厳格かつ強硬な姿勢は、人口減少とブルーカラー職種の長期的な人手不足という日本の現実と緊張関係にある。
また、2024年の衆院選や2025年の参院選において、自民党は政治資金問題や旧統一教会との関係を巡る問題で大敗し、一度は過半数を割り込んだ経緯がある。しかし、高市氏自身の政治団体についても、法定上限を超える企業献金や宗教団体からの多額の寄付を受け取っていたことが昨年末に報じられたにもかかわらず、個人的な支持率は高水準を維持している。これは支持者の間に「身内に甘く他人に厳しい」二重基準が存在することを浮き彫りにしている。さらに、かつて政治資金スキャンダルに関与した元議員らも、今回の選挙で国政復帰を果たした。
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一部の識者は、こうした認知の「歪み」を高市氏特有の「アイドル効果」に起因するものだと分析している。この傾向は若年層の支持者に顕著だ。彼らは経済政策やその実際的な帰結を深く理解するよりも、高市氏が持つ「日本初の女性首相」という象徴性や、ナショナリズム的なレトリック、対中強硬姿勢といった要素に惹きつけられている可能性がある。
しかし、今回の「短期決戦」での自民党圧勝は、例外的な事例や予期せぬサプライズだったのだろうか。答えは否である。米ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所が2017年に発表した実証研究は、与党が選挙のタイミングを掌握することで利益を得やすいと指摘している。通説では、与党は経済状況が好転した時期を見計らって解散・総選挙を行い、優位を拡大するとされてきた。
だが同研究は、経済要因以外に見落とされがちな重要なメカニズムとして「不意打ち効果」を挙げている。これは、野党の準備不足を利用して与党が優位に立つ手法だ。1955年から2017年の日本衆院選データを基にした分析では、不意打ち解散において野党は動員が間に合わず、候補者数が減少し、候補者の質や選挙資金も不足し、野党間の候補者調整も緩慢になる傾向がある。その結果、得票率と議席数で著しい劣勢に立たされるのだ。
したがって、2017年の研究が提唱した「不意打ち効果」は、今回の自民党の勝因を強力に説明している。現職首相である高市氏の高い支持率(「アイドル効果」)とSNSの積極的な活用がこの効果をさらに増幅させ、最終的に自民党単独での3分の2超えという結果をもたらしたと言える。
もちろん、自民党の圧勝に懸念を抱く声がある一方で、慎重ながらも楽観的な見方を示す識者もいる。国会で圧倒的多数を確保したことで、自民党は支持率やSNSでのアピールに過度に捉われることなく、インフレ対策や消費税といった現実的な経済課題への取り組みに注力できるかもしれない。また、これを機に、ジェンダー平等や移民政策に関する保守的な立場を見直すのではないかという期待の声も聞かれる。
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