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【早大研究員の視点】中国、エリート大学生がなぜ「ネズミ人間」に?高等教育の膨張が招いた「高学歴失業」という不都合な真実 経済の低迷が続く中国。「寝そべり族」や「ネズミ人間」といったネット流行語は、激しい競争と高圧的な労働環境に置かれた若者たちの集団的な無力感を浮き彫りにしている。(資料写真/新華社)
近年、中国の若者労働市場において、不可解なパラドックスが顕在化している。高等教育の規模が過去最大に拡大する一方で、若年層の失業率は高止まりを続け、若者の職業観と企業の需要とのミスマッチが深刻な広がりを見せているのだ。
こうした歪みは、公的な世論にも色濃く反映されている。「寝そべり族」や「ネズミ人間」といったネット流行語の台頭は、高学歴化した若年層に広がる挫折感と疎外感の表れといえる。人口減少と急速な少子高齢化によって将来の労働供給が制約される中、いかにして教育体系、労働市場、そして社会の期待値を調整していくかは、中国当局にとって極めて緊急性の高い課題となっている。
過去最高水準で推移する若年失業率 中国国家統計局のデータによると、2025年12月の全国調査失業率は5.1%であったが、16〜24歳の若年層に限れば16.5%という高い水準に達している。2024年1月に統計手法が変更された後、同層の失業率は同年8月に修正後最高値となる18.9%を記録した。その後、9月以降は卒業シーズンを終えたことによる季節要因で緩やかに低下したものの、全体的な水準は前年同期を依然として上回っている。
高等教育の膨張と市場の「受け皿」不足 若年失業率の上昇を招いた主要因の一つは、高等教育の急激な拡大である。過去20年間で中国は高等教育の普及期へと転換し、大学卒業生数は過去最高を更新し続けているが、労働市場の吸入能力はそれに伴っていない。
2023年の高等教育進学率は60.2%に達し、2003年のわずか17%から飛躍的に上昇した。これに伴い、大学卒業生数は2018年の753万人から2023年には1158万人へと急増し、5年間で年平均約400万人という驚異的なペースで増加している。
若年失業の多くは、皮肉にもこれら高学歴層に集中している。2022年のデータでは、20〜24歳の失業者の約70%が大学卒業生(専門学校を含む)であり、中等教育(中学・高校)卒業者は約15%にとどまっている。この不均衡は労働構造の変化と密接に関連しており、2022年に新たに労働市場へ参入した大学卒業生857万人に対し、中等教育卒業生は合計で約401万人にすぎなかった。
ミスマッチの深化 「ホワイトカラー偏重」の罠 かつての「一人っ子政策」も、家庭内の高等教育に対する執着を強める結果となった。多くの親は子供がブルーカラーに従事することを避けるため多額の教育投資を行い、その結果、卒業生の「ホワイトカラー志向」が強化され、労働市場の需給バランスをさらに崩している。
「寝そべり族」から「ネズミ人間」へ 若者の静かな抵抗 限られた就職環境の中で、多くの若者が従来とは異なる人生の選択を始めている。求職活動を続けながら短期・臨時雇用で食いつなぐ者、大学院や博士課程に進学して社会進出を先延ばしにする者も少なくない。また、主流のキャリアパスである「安定した仕事」からあえて距離を置く若者も増えている。
こうした層は「寝そべり族」と呼ばれ、重要な社会問題として浮上している。彼らは「996工作制(午前9時から午後9時まで週6日勤務)」という過酷な労働を拒絶し、恋愛や結婚、消費にも消極的だ。最低限の努力で生活を維持し、住宅や車の購入を避け、低消費・低労働投入のライフスタイルを選択している。最近では、より自嘲的な響きを持つ「ネズミ人間 (下層に潜む人々)」という言葉がSNSで拡散し、若者たちの閉塞感を象徴している。
変容する労働観と深まる世代間ギャップ 調査データからも、顕著な世代間の意識差が浮き彫りになっている。「世界価値観調査(WVS)」によれば、「仕事は社会に対する責任である」という問いに対し、1990年代以降に生まれた回答者の賛同率は、1960年代生まれやそれ以前の世代に比べて有意に低い。また、「中国家庭追跡調査(CFPS)」の結果でも、「努力すれば報われる」という考え方への共感度は、1980年代および90年代生まれの層で最も低くなっている。
こうした価値観の変容に対し、中国当局は言論管理を強めている。2025年9月、国家インターネット情報弁公室(CAC)は2カ月にわたる「清朗・悪意あるネガティブ感情の扇動抑制」特別キャンペーンを始動した。対立の煽動や暴力的な空気感を排除し、理性的かつ文明的なネット環境を構築することが目的とされるが、実質的には「寝そべり族」や「ネズミ人間」といったコミュニティが標的となった。当局は「読書は無駄」「努力は無意味」といった将来への悲観的な表現を、検閲の対象としている。
「第15次5カ年計画」と構造的ミスマッチへの対策 構造的な雇用ミスマッチに対し、政府は一連の対応策を打ち出している。大学における専攻構造の再編を行い、理工系や応用分野を拡大するほか、企業主導のオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を特に現場レベルで強化している。また、職業資格と学歴体系の連携を強め、技能労働者の賃金水準の引き上げを図っている。
人口減少の衝撃 記録的な出生数低下 人口減少と急速な高齢化は、問題の緊急性をさらに高めている。中国の出生率は1960年代初頭のピーク以降、低下の一途を辿ってきた。「一人っ子政策」の影響下で、合計特殊出生率は1990年代初頭に人口置換水準である2.1を下回った。2016年の「二人っ子政策」全面解禁などの緩和策も、出生数の減少傾向を食い止めるには至っていない。
出生率は2015年の約1.5から、2024年には約1.0まで低下した。2025年の出生数は792万人と、前年の954万人を大幅に下回り、1949年の建国以来の過去最低を更新した。総人口は339万人減の14億500万人となり、死亡者数は前年の1093万人から1131万人へと増加している。さらに、出産可能年齢の主軸(出生数の約85%に寄与)である20〜34歳の女性人口は、2025年の1億500万人から2050年には5800万人まで激減すると予測されている。
育児支援と性別役割分担の壁 事態を重く見た政府は、多角的な少子化対策を導入している。2026年1月からはコンドームや避妊薬などの避妊用品に13%の増税(付加価値税)を課すなど、強硬な姿勢も見られる。一方で、2025年1月からは全国規模の育児手当制度を施行。中央財政から約900億人民元 を投じ、3歳未満の乳幼児がいる家庭に対し、1子につき年間3600人民元 の現金を給付している。
しかし、低出生率の要因は育児コストだけではない。長年にわたるフェミニズムの議論を経て、社会では結婚や出産における不平等な負担への認識が高まっている。キャリアの中断やケア責任に対する女性たちの不安を、現金給付だけで払拭することは容易ではない。
企業側でも変化の兆しはある。ドローン大手のDJI(大疆創新)、家電大手の美的集団(ミデア)、ハイアール(海爾)などは「強制退社」制度を導入し、過度な残業や非効率な残業を削減してワークライフバランスの改善を試みている。だが、こうした動きは依然として一級都市のトップ企業に限定されており、労働文化全体への波及効果は限定的だ。
動員モデルと個人の価値観の乖離 人口減少、出生数低下、そして若年の高失業率。これらはすべて、より深いレベルでの構造的挑戦を示唆している。人的資本の質を向上させ、生産性の向上を実現することは、もはや選択肢の一つではなく、国家存続のための「必須要件」となった。
「寝そべり族」や「ネズミ人間」といったネット上のレッテルは、単なる個人の悲観や逃避ではなく、機会の制限と過酷な競争、そして高圧的な労働環境に置かれた高学歴世代の「集団的な無力感」の現れである。教育体系や採用メカニズム、そして職場規範における実質的な改革と、社会的な期待値の再構築が行われない限り、若者の雇用難は長期化する恐れがある。
中国には依然として、巨大な工業基盤や先端製造分野での優位性、強固なイノベーション能力という強みがある。しかし、現在の核心的な課題は「規模」ではなく「ミスマッチ」にある。すなわち、動員と管理を重視する国家主導の経済モデルと、仕事・家庭・自己実現において急速に変化する若者世代の価値観との乖離だ。国家の統制力が強まる経済モデルの下で、イノベーションを維持しつつ、労働市場に柔軟性を提供できるかどうか。中国の真の突破力が、今まさに試されている。
*著者:柴思原(Peter Chai) 早稲田大学政治経済学術院 研究員。
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