「外交の虚構」と「安保の現実」の絶望的な乖離 神保謙氏が2025年末に鳴らした警鐘と高市発言の深層

2025年末の混乱が示したのは、外交的建前と安保の現実が乖離する中、不用意な言葉が長年の抑止構造を破壊しかねないという教訓である。(写真:日本記者クラブ)
2025年末の混乱が示したのは、外交的建前と安保の現実が乖離する中、不用意な言葉が長年の抑止構造を破壊しかねないという教訓である。(写真:日本記者クラブ)

2026年2月現在もなお、日中間の外交的緊張は構造的な課題として横たわっている。この問題の核心を突く重要な証言として、去る2025年12月3日、日本記者クラブで行われた慶應義塾大学の神保謙教授(国際文化会館常務理事)による講演を改めて振り返る必要がある。当時、高市早苗首相(現職)が衆院予算委員会で発した「存立危機事態」に関する答弁が中国側の猛反発を招き、外交問題へと発展していた最中、神保氏はその混乱の本質を「外交的合意と安全保障のリアリティの間にある絶望的なミスマッチ」であると喝破していた。

神保氏は講演の中で、まず2015年の平和安全法制成立以降、日本の安全保障政策において「存立危機事態」の想定に台湾有事が含まれることは、専門家や実務者の間では「半ば当然」の既定路線であったと指摘した。この10年間、日米は台湾有事を念頭に置いたシミュレーションや共同訓練を積み重ねており、中国側もその実態を十分に認識していたはずである。それにもかかわらず、なぜ2025年11月の高市氏の発言がこれほど激しい摩擦を生んだのか。神保氏は、1972年の日中共同声明以来維持されてきた「台湾は中国の不可分の一部」とする中国の立場を日本が「十分理解し尊重する」という外交的な「虚構(フィクション)」に対し、高市氏が安全保障の「現実(リアリティ)」を無防備に突きつけたことで、長年維持されてきた繊細な均衡が崩壊したと分析した。

特に神保氏が懸念を示したのは、高市氏の発言が綿密に計算された「戦略的明確化」ではなく、準備不足による不用意なものであった可能性が高い点だ。高市氏は答弁で「戦艦を使い、武力行使を伴うものであれば存立危機事態になりうる」と述べたが、神保氏は「戦艦(Battleship)」という艦種が現代海軍では既に廃れている事実を挙げ、一国の首相が公の場で不正確な軍事用語を用いたこと自体が、政権内の専門的知見の欠如を示唆していると厳しく指摘した。このような「戦略なき踏み込み」は、米国が維持してきた「戦略的曖昧性」――中国の軍事侵攻を躊躇させると同時に、台湾の独立志向をも抑制する「二重の抑止(デュアル・ディターランス)」――の効果をも減殺しかねない危険な行為であった。

また、神保氏は当時の講演で、日中間の意思疎通パイプが著しく細っている現状にも強い危機感を表明していた。かつて機能していた研究者やシンクタンク間の知的交流は、近年の関係悪化や邦人拘束事案の影響で停滞しており、日本側の真意や戦略的シグナリングが中国側に正確に伝わらない状況が続いている。神保氏は「対話の機会があればいつでも行く」と述べ、外交当局だけでなく民間レベルでの対話の重要性を訴えたが、その言葉は現在のこう着状態においても重みを増している。

講演から数ヶ月が経過した今、我々が再確認すべきは、もはや「四つの政治文書」という過去の外交遺産だけでは、現在の台湾海峡の緊張を管理することは不可能だという冷徹な現実である。神保氏が2025年末に指摘した通り、日中双方が安全保障のリアリティと外交原則の乖離(かいり)を埋めるための新たな「了解事項」を模索しない限り、偶発的な言葉一つで危機が再燃する構造は変わらないままである。

編集:佐野華美

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