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トランプ氏は強硬姿勢に弱いのか カナダ・カーニー首相の「したたかな」対米交渉が台湾に与える教訓 米国のトランプ大統領とカナダのカーニー首相。(写真/AP通信提供)
米国のトランプ大統領による「相互関税」という強硬手段は、欧州やアジア諸国だけでなく、最大の隣国であり、言語や文化を共有するカナダに対しても容赦なく振り下ろされている。さらにトランプ氏は、グリーンランド購入問題に加え、カナダを米国の「51番目の州」と呼び、一国の首相を「州知事」扱いするなど、カナダ国民の対米感情は悪化の一途を辿っている。
しかし、カナダのマーク・カーニー首相(Mark Carney)は米国に「投降」することなく、卑下も自慢もせず毅然とした態度(不卑不亢)でトランプ氏と渡り合い、国際世論の注目を集めている。米国・カナダに40年以上在住するベテランジャーナリストは、「強きを助け弱きを挫く(弱い者いじめをする)」トランプ氏との交渉、特に関税協定の問題において、台湾はカナダの経験を参考にすべきだと指摘する。
「実力」のみを尊重するトランプ氏、対するカーニー首相の戦略 カナダ最大の都市トロントに長年居住する資深メディア人の張若霆(チャン・ルオティン)氏は、台湾メディア『風傳媒(The Storm Media)』の取材に対し、「トランプ氏は『実力』のみを尊重するリーダーだ。他国が弱腰を見せれば、逆に踏みつけにしてくる」と分析する。 その上で、カーニー首相がトランプ氏の罠に落ちなかった理由について、「深謀遠慮(深く考えを巡らせる)」なリーダーシップにあると指摘。「カーニー氏は一方でトランプ氏と巧みに周旋しつつ、もう一方でメキシコ、欧州、中国などを訪問し、水面下で着実に国際市場を開拓している。その成果は上々だ」と評価した。
張氏の解説によれば、カナダの立場から見れば、カーニー氏はトランプ氏に対し相当な忍耐を見せている。選挙期間中、カーニー氏は対米報復関税を主張していたが、就任後はその立場を転換した。これはカナダ国内のインフレが深刻化し、国民生活が逼迫しているためだ。食品や日用品の多くを米国からの輸入に頼るカナダにとって、報復関税は自国民の痛みを増大させるリスクがある。
USMCA改定の危機と「脱・米国依存」への転換 しかし、カーニー氏もただ手をこまねいているわけではない。張氏によると、昨年カナダ側が一部の対米関税を撤廃したにもかかわらず、トランプ氏はカナダへの関税を維持したどころか、対象外だった製品にまで新たな関税を課したという経緯がある。さらに、カナダの政治家が「1980年代のレーガン元大統領による自由貿易支持」の広告を米国内で流したことがトランプ氏の逆鱗に触れ、対話の機運は完全に失われた。
張氏は現状についてこう締めくくる。「カーニー氏は、米加関係がもはや過去のようには戻らないことを悟っている。だからこそ腹を括り、『もし米国が全製品に関税をかけるなら、それを受け入れるしかない』という覚悟を決めたようだ。その代わり、カナダは中国、EU、日本、韓国などとの貿易を拡大し、米国による関税の衝撃を相殺する戦略に舵を切っている」
中国を訪問し、習近平氏と正式会談を行うカナダのカーニー首相(左)。(写真/AP通信提供)
対米リスクヘッジとして中国を選択? 今年1月14日から17日にかけて、カーニー首相は訪中し、習近平国家主席と会談を行った。双方は「新型戦略パートナーシップ」の構築を確約し、ここ数年「氷点下」と言われるほど冷え込んでいた両国関係の改善に乗り出した。具体的な措置として、カナダ政府は中国製電気自動車(EV)に対する輸入関税について、輸入枠の最初の5万台に限り、従来の100%から約6.1%へと大幅に引き下げることを決定。対する中国側も、カナダ産の菜種(キャノーラ)、菜種粕、海産物などの農水産物に対する関税撤廃に加え、カナダ人に対する観光ビザの発給要件緩和を約束した。
これに対し、トランプ氏は激怒しているようだ。トランプ氏は以前、「もしカナダが中国と協定を結べば、カナダに対し100%の関税を課す」と脅し、カナダが中国製品を米国へ迂回輸出するための「裏口」になろうとしていると批判していた。この点について張氏は『風傳媒』に対し、「トランプ氏の発言は単なる『脅し文句』に過ぎず、実際に実行に移すことはないだろう」と分析する。張氏の見解では、トランプ氏は大言壮語を好むものの、その多くは尻すぼみに終わる傾向があるという。したがって、カナダの対米輸出品に対して新たな関税が課される可能性はあるものの、「100%という数字はあり得ない」と予測する。
「嫌中」だが「米国不信」も深刻化するカナダ世論 カナダの複数メディアでの勤務経験を持ち、現在も時事評論家として活動する張氏は、カナダと中国の関係について次のように指摘する。「過去数年、カナダ人の対中感情は決して芳しくない。中国は人権のない全体主義国家であるという認識が一般的で、イメージは非常に悪い」
しかし、今回のカーニー首相の訪中と合意形成について、カナダ国民はトランプ政権下での首相の苦境を理解しているという。「カナダ人は中国を好ましく思ってはいないが、カーニー氏の立場には相当な理解を示している。現在の国民感情は、『中国の政治体制は我々と異なるが、ビジネスは別だ』という割り切りにある。そのため、カーニー氏の訪中は国内で大きな反発を招いていない」
2026年1月21日、世界経済フォーラムで演説するカナダのカーニー首相。(写真/AP通信提供)
輸出拡大による「脱・米国依存」へ 中国との合意に加え、カナダ政府は貿易ルートの多角化も進めている。張氏はその一例として、中西部の産油地であるアルバータ州から太平洋沿岸へと続くパイプライン建設構想を挙げる。これが実現すれば、カナダ産の石油を中国へ直接輸出することが可能になり、中国側もカナダの石油産業への投資に意欲を見せているという。
張氏の分析によれば、カナダの液化天然ガス(LNG)と原油は国際的に需要が高いエネルギー資源だが、それを運ぶ大規模なインフラが不足しているため、現状では「唯一の顧客」である米国に売らざるを得ない状況だ。当然、価格も買い叩かれることになる。もしカナダがエネルギー資源を中国などの国際市場へ直接販売できれば、対米輸出よりも高い利益が見込める。しかし、トルドー前首相が環境保護を重視した政策をとっていたため、こうしたインフラ建設はずっと停滞していた経緯がある。
天然ガスパイプラインや送油管の敷設には時間を要するが、張氏は楽観的だ。「もしカナダがこのインフラを完成させることができれば、経済が米国の関税によって崩壊するリスクは回避できる。これこそが、カーニー政権にとって今後の最大の挑戦となる」
同時に、トランプ氏の「関税の棍棒」に直面する中、カナダは原材料、石油、天然ガスを欧州へ輸出することも模索している。張氏は、カナダが今後も中国と様々な協定を結び続ける可能性や、ASEAN(東南アジア諸国連合)など他の地域組織と自由貿易協定(FTA)を締結する可能性を示唆した。現在、政権を担うカナダ自由党は少数与党である。そのため、支持率が高まっているカーニー首相は、これらの建設プロジェクトを強力に推進するための過半数議席獲得を目指し、今年の春にも解散総選挙に打って出る可能性があると予測されている。
2019年6月18日、北京のスーパーマーケットに並ぶカナダ産豚肉。(写真/AP通信提供)
カナダ経済は米国なしでは立ち行かないのか? 台湾、日本、韓国などの東アジア経済圏が、米国との貿易協定を維持するために数百億ドル規模の「巨額投資」を約束させられている現状に対し、張氏はカナダの特殊事情を指摘する。「現在、カナダのエネルギー、テクノロジー、自動車産業に投資しているのは、そもそもが米国企業だ。カナダには独自の自動車ブランドが存在しないため、米国側から『カナダ企業は米国に工場を作れ』と強要されることはない。トランプ氏も当然、そのような要求はしない」
一見すると低姿勢に見えるカーニー首相だが、張氏の目には「無策」とは映らない。「カーニー氏は明確な対策を持っているが、それを決して表には出さないだけだ。訪中もその一環だが、彼はトランプ氏と公然と言い争ったり、相手の顔に泥を塗ったりするような真似はしない。『あなたの言い分は黙って聞く』という姿勢を見せつつ、水面下で着実に市場を多角化し、対米依存からの脱却を進めているのだ」
カナダが握る対米「切り札」 張氏は台湾の現状に話を戻し、カナダの対中アプローチを参考にすべきだと提言する。「カナダの輸出の75%は米国向けだ。理論上、米国がカナダの輸出を封鎖すれば経済は即死するはずだが、実際には崩壊していない。確かに景気は以前より後退しているが、持ちこたえている」
2026年1月20日、「台米関税交渉説明記者会見」に出席した卓栄泰行政院長。(写真/顔麟宇撮影)
台湾はカナダから何を学ぶべきか かつて行政院新聞局(政府広報機関)の駐米官僚を務めた経験を持つ張氏は、台湾と米国の特殊な関係について、現在の台湾政府の交渉姿勢に苦言を呈する。「報道を見る限り、台湾の交渉団には交渉能力やテクニックが欠如しているように見える。米国の代表団と理詰めで争うことができていない。『米国に脅されたら、すべて丸呑みするしかないのか』という点を、各界は再考すべきだ」
関税問題を巡る台湾国内の与野党対立についても、張氏は「野党の存在」を外交カードに使うべきだと説く。「民主主義国家において、国内の野党は政府にとっての『緩衝材(バッファー)』になる。『米国も民主国家なら、台湾も民主国家だ。国会が承認しない以上、政府としても勝手なことはできない』という論法は、台湾でも通用するはずだ」。しかし現状では、政府自身が貿易協定の締結に前のめりになっていると張氏は危惧する。「その点、韓国、インド、インドネシアとは大違いだ。特にインドには気骨がある」
インドの事例に見る「トランプ操縦術」 張氏はインドの事例を挙げる。かつてトランプ氏はインドに対しても関税引き上げをちらつかせたが、インドは動じなかった。「インドは中国との関係改善を進め、ロシアとも伝統的に友好関係にあるため、米国を恐れる必要がない。台湾政府も他国のやり方を直視し、ひたすらトランプ氏に従順であるべきではない」。張氏は、トランプ氏が重視するのは「忠誠心」ではなく「実力」だと強調する。「彼に対し言いなりになれば、彼は『弱い者いじめ』の本性を現し、さらに理不尽な要求をしてくるだろう。逆にカナダのカーニー氏のように、のらりくらりと巧みに立ち回る相手には、トランプ氏も攻めあぐねるのだ」
核心にあるのは「対中関係」 英国のスターマー首相(Keir Starmer)が最近訪中した動きと比較し、張氏は台湾・民進党政府が米国を過度に恐れる理由について、大胆な推測を述べる。「はっきり言えば、今の政府が米国を怒らせることを恐れているのは、『もし中国共産党が台湾を攻撃した際、米国が助けてくれないのではないか』という恐怖心があるからだ。その恐怖ゆえに妥協を重ねている」。
最後に張氏はこう結んだ。「もし台湾が中国との関係を改善できれば、それは必ずしも『統一』を意味するわけではない。現状維持で時間を稼げばいいだけだ。少なくとも関係が改善されれば、これほどまでに米国にすがりつく必要はなくなるはずだ」
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