【北京学の復活】習近平氏の「ブラックボックス」化で再燃する「写真解読」 張又侠失脚の真相はどこに
2026年1月29日、北京の人民大会堂で英国のスターマー首相と会談する中国の習近平国家主席。(写真/AP通信提供)
習近平氏による「一強体制」が極まる中、北京の政治的な壁はかつてないほど高く、そして厚くなっている。 2026年1月、中国共産党中央軍事委員会の張又侠副主席と、連合参謀部の劉振立参謀長が粛清された。事前の公式発表は皆無であり、外部の観測筋は、会議への欠席やわずかなボディランゲージといった「痕跡」から、異変の兆候を必死に探るしかなかった。
この状況は、冷戦時代の「北京学(ペキノロジー)」を彷彿とさせる。かつて西側諸国が中国内部にアクセスできなかった時代、官製メディアの写真の立ち位置や、スローガンの微妙な変化から権力闘争を推察したあの古い技法だ(米CSISのポッドキャスト名にもなっている)。
英誌『エコノミスト』の中国コラム「チャグアン(Chaguan)」は最新記事で、中国共産党体制がブラックボックスへと回帰するにつれ、西側のアナリストたちもまた、こうした「絵解き」という旧来のツールを再び手に取らざるを得なくなっていると指摘した。
しかし、過剰な深読みは誤判のリスクと隣り合わせだ。張又侠の失脚は本当に「台湾侵攻への消極姿勢」が原因なのか?かつての胡錦濤氏退席事件は「強制排除」だったのか、それとも単なる体調不良だったのか? 情報の霧の中で、習近平氏が発する粛清のシグナルをどう解読すべきなのだろうか。
消えた将軍と、背を向けた瞬間
「一枚の写真が、重大事件の早期シグナルとなる可能性がある」。1971年、著名な中国研究者ロデリック・マクファーカー氏はそう記した。それは冷戦期、すなわち「北京学」の全盛期であり、西側の観察者たちは虫眼鏡を片手に、党メディアの行間や映像の細部から、幕裏の権力闘争をパズルのように組み立てていた。
半世紀が過ぎた今、この古き技法が再び重要性を増している。『エコノミスト』によれば、習近平体制下の中国政治が不透明さを増す中、外部のアナリストたちは再びこの手法に頼り、北京の中枢で起きている風向きの変化を読み解こうとしている。
映像だけでなく、テキストも重要な手がかりとなる。 軍機関紙「解放軍報」が列挙した両名の「七つの大罪」の中で、最も注目すべきは「軍委主席責任制を深刻に踏みにじり、破壊した」という告発だ。 多くの専門家はこれを、二人の高級将校が、人民解放軍(PLA)に対する習近平氏の絶対的なコントロール権に対し、何らかの形で挑戦、あるいはその権威を弱めようとしたことを意味すると解釈している。
「集団指導」から「一強」へ、閉ざされた情報源
こうした「絵解き」の復権は、中国共産党体制が急速に閉鎖的になっている現実を映し出している。 改革開放が進んだ1970年代末からしばらくの間、アナリストやビジネスマン、外交官たちは、様々な権力ブローカーに接触することができた。派閥間から漏れ出る情報を突き合わせることで、政策の全体像をパズルのように組み立てることが可能だったのだ。当時の中央政治局常務委員会には、まだ5〜9人による集団指導体制の色合いが残っていたからである。
しかし、習近平氏はそのすべてを打破した。今や決定権は彼一人にあり、その口は堅く閉ざされている。
では、現代の中国政治をどう理解すればよいのか。香港大学ジャーナリズム・メディア研究センターが運営する「中国メディア研究計画(CMP)」は1月26日、党機関紙『人民日報』に関する最新の分析を発表した。それによると、過去1年間で習近平氏が1面トップに登場する頻度は明らかに減少しているという。
しかし、それでもなお彼は圧倒的な優位性を保っている。その露出頻度は、党内序列2位である李強(リー・チャン)首相の3倍以上だ。これは、習氏が依然としてナラティブ(語り)の主導権を完全に掌握していることを意味する。記事数の減少は単に彼の外遊回数が減っただけかもしれず、彼を中心とした1面構成が維持されていること自体、党内に彼を脅かす挑戦者が存在しないことの証左でもある。
「過剰解釈」の罠と構造的な死角
だが、この現代版「北京学」は本当に信頼できるのだろうか。CMP自身も「数字の背後にある実力の消長を証明できるのは時間だけだ」と認めているように、英誌『エコノミスト』は、限られた手がかりの中での分析は「過剰解釈(Over-interpretation)」の罠に陥りやすいと警告する。
例えば、ワシントンのシンクタンク「ジェームズタウン財団」のK・トリスタン・タン(唐志学)氏は、当局者の「軍事闘争」に関する発言や官製メディアの報道を引用し、「張又侠の失脚は、習近平が要求した『最短で来年中の台湾侵攻』に向けた準備要件を満たせなかったためだ」と分析している。一見、理にかなっているように聞こえる。だが、もし粛清の真の理由が台湾問題にあるのなら、なぜ習近平氏は昨年、台湾周辺での軍事演習で実績を上げ、優秀とされた何衛東(ホー・ウェイドン)氏を切り捨てたのか? ここに矛盾が生じる。
(関連記事:
習近平の側近・張又俠氏「失脚」の衝撃 米専門家が指摘、中国軍が恐れるのは米国ではなく「国内の崩壊」か
|
関連記事をもっと読む
)
『エコノミスト』は、これこそが「北京学」の抱えるもう一つの構造的問題だと指摘する。誰が正しいことを言ったのか、検証することがほぼ不可能なのだ。 中国の権力闘争に関する理論は、SNSの拡散や、世界各地で台頭する中国系ディアスポラ(その一部はクーデターの幻想に浸る、いわゆるネット上の「海外反賊」と呼ばれる反体制派だ)によって、かつてないほど溢れかえっている。数年後に誰の予測が正しかったかを評価できれば、将来的な信頼性の指標にはなるだろう。しかし残念ながら、中国政治のブラックボックス化は長く続いており、習近平時代の公文書が機密解除されるのは数十年先、もしそんな日が来ればの話だが、になるだろう。
さらに、視覚的な手がかりこそが最も解読困難な場合もある。2022年の第20回党大会閉幕式で、胡錦濤前総書記が会場から「強制退席」させられたように見えたあの一幕は、今なお議論の的だ。 あれを高層部の決裂を示す動かぬ証拠だと信じる者もいる。だが、当時の胡錦濤氏の困惑した表情を素直に見れば、公式発表通り「体調不良」だったというのが真実なのかもしれない。情報の霧は、晴れる兆しを見せない。
深い霧の中で進路を探す
スタンフォード大学の上級研究員であり、かつて中国共産党体制内部に身を置いた経験を持つ呉国光(ウー・グオグアン)教授は、自身の苦い記憶を引き合いに、「表面的な手がかりがいかに欺瞞に満ちているか」を警告する。
1980年代、呉氏が中国政府の中枢で勤務していた頃、彼の上司が党の重鎮である陳雲(チェン・ユン、当時の中央顧問委員会主任)から「書」を贈られたことがあった。呉氏はこれを「上司と陳雲の間に特別な信頼関係がある証」だと解釈した。しかし数年後、その見立てが全くの検討違いであったことを思い知らされることになる。 以来、呉氏はこのエピソードを「表面的な情報の過剰解釈がいかに危険か」を自戒する教訓としているという。
しかし、呉氏は同時に、解読そのものを放棄して「中国政治は不可知(何もわからない)である」と断定することもまた、同様に危険だと強調する。 重要なのは、微細な「言葉の変化」に注目することだ。
例えば今回の張又侠、劉振立両氏への告発において、当局は初期の軍内粛清でよく使われた「違紀(規律違反)」ではなく、「違法」という言葉を用いた。呉氏は、この言葉の選び方こそが、習近平氏が今回の事案を過去のケースと比較して「極めて深刻」と捉えていることを示唆していると分析する。
米シンクタンク「アジア・ソサエティ」の研究員ニール・トーマス氏は、言語分析は依然として中国の動向や意図を判断する重要なツールであるとしつつも、そこには「知的な謙虚さ(Intellectual humility)」が不可欠だと指摘する。アナリストは習近平氏の「政策の優先順位」を識別することはできても、その意思決定が「どのように、なぜ」行われたかというプロセスまで断定するのは極めて困難だからだ。
1971年、ロデリック・マクファーカー氏は次のように述べている。「写真分析は真理への唯一の道ではなく、中国政治を解剖する数あるツールの一つに過ぎない。それは鈍重であり、しばしば答えよりも多くの『問い』を生む」
習近平氏が構築したブラックボックス政治の中で復活した「北京学」。それは私たちに明確な「答え」を与えてはくれないかもしれない。しかし、暗闇の中で「良質な問い」を立てるための羅針盤としては、今なお有効なフレームワークであると言えるだろう。
更多新聞請搜尋🔍風傳媒日文版
最新ニュース
『新戦略兵器削減条約』本日失効 英エコノミスト誌が警告する「破滅的誤算」と世界平和への脅威冷戦後の核の安定を支えてきた最後の砦が、音を立てて崩れようとしている。米露間の核軍備管理を定めた「新戦略兵器削減条約(新START)」が期限を迎える中、米国に更新の意思はなく、中国は冷戦のピーク時以来という猛烈なスピードで核戦力を増強している。かつての米露対立の構図は今、「同じ瓶に閉じ込められた3匹のサソリ」という極めてリスクの高い局面へと変貌した。英誌『エ......
平野歩夢が「チーム・コロナ セロ」入り ミラノ・コルティナ五輪へ向け世界的ブランドとタッグAB InBev Japan 合同会社は2026年2月4日、同社が展開するノンアルコールビール「コロナ セロ(Corona Cero)」について、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックに向けたグローバル・アスリート・アンバサダー総勢10名を発表した。 日本からは、スノーボードの平野歩夢選手が選出された。世界のトップ10「チーム・コロナ セロ」「Team......
台湾初の「中国出身」国会議員に解職の危機 国籍放棄できぬ特殊事情と「安保リスク」の壁台湾民衆党の比例代表名簿に基づき繰り上げ当選し、台湾史上初の中国籍配偶者(陸配)出身の立法委員(国会議員)となった李貞秀氏の就任を巡り、憲法および国籍法に関わる「二重国籍」論争が激化している。李氏は4日、党団記者会見に出席し、政府機関の要求に従い補足資料を提出する意向を示したが、所管する内政部(内務省)および与党・民進党は、「公職者の二重国籍は認められない」......
レゴランド東京×ズーラシアが春コラボ!相互割引や「動物ビルド体験」開催、2月6日からマーリン・エンターテイメンツ・ジャパン株式会社が運営する「レゴランド®・ディスカバリー・センター東京」(港区台場)は4日、よこはま動物園ズーラシアと連携した新イベント「レゴ®アニマルアドベンチャー」のメディア向けお披露目会を開催した。イベントは2月6日から4月19日までの期間限定で開催されるもので、お笑いコンビのチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)が「......
デンソー、第3四半期は増収減益 通期営業利益予想を5350億円に下方修正自動車部品大手の株式会社デンソー(本社:愛知県刈谷市、社長:林新之助)は2月3日、2026年3月期第3四半期(2025年4月~12月)の連結決算を発表した。売上収益は前年同期比3.9%増の5兆4955億円と伸長したものの、営業利益は同6.4%減の3759億円、親会社の所有者に帰属する四半期利益は同12.5%減の2737億円となり、増収減益の結果となった。同社......
【訃報】台湾の名プロデューサー袁惟仁氏が死去、57歳 フェイ・ウォンらに楽曲提供、闘病8年中華圏の音楽シーンを牽引した名プロデューサー、袁惟仁(ユアン・ウェイレン/愛称:小胖老師)氏が2026年2月2日、台湾・台東の実家で死去した。57歳だった。 2018年に脳内出血で倒れて以来、8年間にわたる過酷な闘病生活を続けていたが、最後は家族に見守られながら安らかに息を引き取った。「征服」や「旋木」…数々の名曲を遺して袁氏は1990年代から2000年代......
阿部守一・全国知事会長「社会のOS更新を」 人口減対策、国主導の医療費統一など求める全国知事会長を務める阿部守一・長野県知事は2026年1月29日、日本記者クラブで「人口減少時代を生きる」をテーマに会見し、加速する人口減少に対応するためには「社会の基本設計(OS)をアップデートする必要がある」と訴えた。阿部氏は、明治維新以降の人口増加を前提とした社会システムが限界を迎えていると指摘し、国に対し、対症療法ではない長期的な国家ビジョンの転換を求......
【深層】台湾海峡、民進党政権10年の死角 「中国研究」の空洞化で高まる軍事誤算のリスク民進党が政権を掌握して今年で10年。この10年という歳月は、台湾海峡を取り巻く知的環境を大きく変貌させた。 2008年から2016年にかけての国民党・馬英九政権時代、いわゆる「中台交流の黄金の8年」を現場で支えた双方のベテラン研究者たちが、相次いで定年を迎え、表舞台を去っているからだ。民主主義陣営の最前線に位置し、地緣政治的な激動の渦中にある台湾だが、肝心の......
2025年日本酒輸出は458億円で復調、数量・金額ともに増加へ日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を展開する株式会社Clear(東京都渋谷区、代表取締役CEO:生駒龍史)は4日、財務省の最新貿易統計(2025年12月確定値)に基づいた2025年の年間輸出実績と市場分析を発表した。同社の集計によると、2025年の日本酒輸出金額は約458億7900万円(前年比105.5%)、輸出数量は約3万3549キロリットル(同1......
「世界への道」か「第二の西進」か 頼清徳総統、国民党訪中を牽制 経済戦略で真っ向勝負台湾の頼清徳総統は3日、「米台経済繁栄パートナー対話(EPPD)」に関する記者会見を開いた。中国を訪問しシンクタンク交流フォーラムに参加した国民党の蕭旭岑副主席の動きと時期が重なったことについて、意図的に比較したものではないとした上で、「結果として国民が比較できる状況になった」と述べた。頼氏は、「米国、日本、欧州の友好国と連携して世界に向かうのか、それとも再......
仏検察がXと決裂、公式アカウント停止し「家宅捜索」へ マスク氏を召喚、児童ポルノ等で捜査拡大世界的なSNS大手のX(旧ツイッター)が、欧州で最も厳しい司法的試練に直面しようとしている。フランス・パリ検察庁は3日、同庁のサイバー犯罪対策部門(J3)が、欧州刑事警察機構(ユーロポール)の支援を受け、パリにあるXのオフィスを家宅捜索したと発表した。BBCの報道によると、今回の家宅捜索は、2025年1月に開始された予備調査に端を発している。当初、パリ当局は......
米鉄鋼生産が日本抜く、トランプ氏「成果」強調 AIと政策恩恵で台湾企業の利益圧迫懸念米国のドナルド・トランプ大統領は、2025年の米国の鉄鋼生産量が日本を上回ったことを称賛した。これは同氏の第2次政権1年目における成果の一つである。「想像できるだろうか。たった今発表されたニュースによると、米国は昨年2025年、鉄鋼大国である日本よりも多くの鉄鋼を生産した」。トランプ氏は日曜日、フロリダ州パームビーチのマール・ア・ラーゴで行われた、ホワイトハ......