【深層】台湾海峡、民進党政権10年の死角 「中国研究」の空洞化で高まる軍事誤算のリスク

民主主義陣営の対中最前線に立つ台湾だが、交流の停滞や政策の影響を受け、学術界における中国研究は衰退の一途をたどっている。民進党政権10年の「死角」となりかねない現状だ。写真は「法務部調査局・調査班第62期修了式」に出席した頼清徳総統。(写真/柯承恵撮影)
民主主義陣営の対中最前線に立つ台湾だが、交流の停滞や政策の影響を受け、学術界における中国研究は衰退の一途をたどっている。民進党政権10年の「死角」となりかねない現状だ。写真は「法務部調査局・調査班第62期修了式」に出席した頼清徳総統。(写真/柯承恵撮影)

民進党が政権を掌握して今年で10年。この10年という歳月は、台湾海峡を取り巻く知的環境を大きく変貌させた。 2008年から2016年にかけての国民党・馬英九政権時代、いわゆる「中台交流の黄金の8年」を現場で支えた双方のベテラン研究者たちが、相次いで定年を迎え、表舞台を去っているからだ。

民主主義陣営の最前線に位置し、地緣政治的な激動の渦中にある台湾だが、肝心の対中研究はかつての活気を失いつつある。台湾だけでなく、中国側の台湾研究者も世代交代の波に洗われており、学界からは「相互理解のパイプが細り、誤算のリスクが高まるのではないか」と懸念する声が上がっている。

国共フォーラム9年ぶりの再開と「知の断絶」

​最近、国民党の蕭旭岑副主席が訪中し、9年間中断していた「国共フォーラム」を再開させたことは、裏を返せば、それほど長く政党間の対話が途絶えていたことを意味する。

馬英九政権時代、「92年コンセンサス」を政治的基礎として活発化した交流は、民進党政権下の10年で冷却化した。それ以上に深刻なのは、当時の深い交流経験を持つ学者の引退により、政府への情報供給源や情勢分析の質が低下しかねない点だ。 「台湾海峡研究の夕暮れ」とも言われる現状で、意思疎通の欠如が軍事的な読み違えにつながらないか、警戒感が広がっている。

2015年馬習会、馬英九、習近平。(林瑞慶攝)
2008年に発足した馬英九政権は、中台関係の大交流となる「黄金の8年」をスタートさせ、最終的には両岸の指導者である馬英九氏と習近平氏による「馬習会(中台首脳会談)」を実現させた。(撮影:林瑞慶)

相次ぐ「重鎮」の引退

​台湾学界では、長年両岸関係の研究を牽引してきた重鎮たちが相次いで一線を退いている。 主な顔ぶれには、邱坤玄氏(政治大学東亜研究所教授)、趙春山氏(淡江大学中国大陸研究所名誉教授)、趙建民氏(元中国文化大学社会科学部院長)、楊開煌氏(銘伝大学両岸研究センター主任)、林祖嘉氏(政治大学経済学部教授)、張五岳氏(淡江大学両岸関係研究センター主任)、黄介正氏(淡江大学国際事務戦略研究所副教授)らが名を連ねる。

一方、対する中国側でも同様の現象が起きている。黄嘉樹氏(中国人民大学教授)、余克礼氏(中国社会科学院台湾研究所元所長)、周志懐氏(同前所長)、厳安林氏(上海国際戦略研究会会長)、倪永傑氏(上海台湾研究所所長)、包承柯氏(華東師範大学両岸交流研究所執行所長)など、台湾通として知られた有力学者が世代交代の時期を迎えている。

危機を救った「学者の人脈」 M503航路の事例

​かつて、これら学者やシンクタンクの人脈は、政治的膠着を打開する「裏ルート」として機能していた。その典型例が2015年の「M503航路」を巡る交渉だ。

当時、中国側は台湾海峡の中間線に極めて近い(最短で7.8キロ)民間航路「M503」の運用を一方的に発表した。これにより台湾側の防空識別圏や警告時間が大幅に圧縮される恐れがあった。 この時、馬英九政権の夏立言・陸委会主委(閣僚級)は、軍部の懸念を受け、対中政策のブレーンであった趙春山氏に調整を依頼した。 (関連記事: 中台「国共フォーラム」9年ぶり再開 国民党・蕭旭岑氏「協力して世界で稼ごう」、中国・宋濤氏「大陸発展の急行列車に乗れ」 関連記事をもっと読む

中國畫設M503等4條新航路,3月5日即將生效,交通部表示,一旦對方飛機越界,我方將派出軍機警告並攔阻。(製圖:風傳媒)
中国はM503など4つの新航路を設定し、2015年に一方的に運用を開始しようとしたが、当時、趙春山氏が特命を受けて北京へ赴き対話を行ったことで、波紋を収めることに成功した。(製図:風伝媒)

趙氏は北京へ飛び、当時の国務院台湾事務弁公室(国台弁)トップである張志軍主任と面会。「航路が中間線に近すぎて、偶発的な衝突のリスクがある」と直接懸念を伝えた。張氏はその場で趙氏の意向を上に伝えると約束。わずか1週間後、中国側は航路を「西側(中国寄り)に6海里ずらす」と発表し、台湾海峡中間線との距離を広げることで合意したのだ。

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