亜細亜大・小井土教授が指摘する日本移民政策の「欠落」と「空洞化」 日本で育った技能者が海外へ流出

日本の移民政策は「スキル」の定義と評価を欠いたまま継ぎ接ぎで拡大し、せっかく育てた外国人材を他国へ流出させる「育成機関」となりつつある。(写真/日本記者クラブ提供)
日本の移民政策は「スキル」の定義と評価を欠いたまま継ぎ接ぎで拡大し、せっかく育てた外国人材を他国へ流出させる「育成機関」となりつつある。(写真/日本記者クラブ提供)

日本記者クラブは2月3日、「人口減少時代を生きる」シリーズの第8回会見を開催し、亜細亜大学国際関係学部教授で一橋大学名誉教授の小井土彰宏氏が「日本の移民政策-何が欠落してきたのか?」と題して講演を行った。小井土氏は、日本の移民政策が長年にわたり「労働力不足の解消」と「移民拒否」という二項対立の議論に終始し、政策としての体系的な蓄積を欠いてきたと指摘。特に外国人材の「スキル(技能)」に対する評価基準が不明確なまま、制度の継ぎ接ぎが行われた結果、日本で育成した人材がより好条件のオーストラリアやニュージーランド、あるいは中国系企業へと流出している現状に警鐘を鳴らした。

小井土氏は冒頭、日本の移民政策論議の歴史を振り返り、1980年代末の「労働鎖国か開国か」という議論から現在に至るまで、議論が深まらずに冷却と忘却を繰り返してきたと分析した。これを丸山眞男氏の言葉を借りて「知の不経済」と表現し、政策立案の担当官庁や専門記者の不在が、議論の蓄積を阻害してきた要因の一つであるとした。その結果、日本政府は「移民政策は取らない」という建前を維持しつつ、実際には日系ブラジル人、技能実習生、留学生、EPA(経済連携協定)による看護・介護人材など、裏口や勝手口とも言える「サイドドア」からの受け入れを拡大させてきた。2019年の入管法改正による「特定技能」の導入でようやく正面玄関(フロントドア)が開かれたものの、制度間の連携が取れていない「脱臼」状態にあると厳しく批判した。

会見の中で特に強調されたのが、「スキル(技能)」をめぐる認識の欠落である。日本の製造業現場では本来、長期的な経験を通じて培われる暗黙知や技能が重視されてきたにもかかわらず、移民政策においては「単純労働者」と「高度人材」という二極化した分類が適用されてきた。小井土氏は、技能実習制度が建前上の国際貢献とは裏腹に、実際には低賃金労働力の調整弁として機能してきた負の側面を認めつつも、建設や造船などの現場では確実に技能移転が行われてきた事実に言及。しかし、現在の制度設計が現場の実情を反映していないため、特定技能などの試験が不必要に難化したり、日本語能力の要件が実務と乖離したりしていると指摘した。

こうした制度の硬直性が招いているのが、深刻な「人材流出」である。小井土氏は、日本で技能を身につけたフィリピンやベトナムの人材が、より賃金が高く待遇の良いオーストラリアやニュージーランドへ流出している実態を紹介した。さらに、中国企業が日本の育成した熟練労働者を雇い入れ、中東などの建設プロジェクトに投入している事例も挙げ、「日本がコストをかけて育てた技能者が、他国の経済活動に利用されている皮肉な状況が生まれている」と懸念を示した。

一方で、政府が推進する「高度専門職」や「経営・管理」ビザに関しては、基準が緩やかに設定されているとの見解を示した。特に高度専門職ビザは、日本の大学の学位取得者に対するポイント加算などが容易であり、本来の「高度な技能」を担保できているか疑問が残ると指摘。ブルーカラー層には厳格な管理と規制を課す一方で、ホワイトカラー層や投資家には甘い基準を設けるという「二重構造」が、移民政策全体の整合性を欠く一因になっていると論じた。

小井土氏は、高市内閣が掲げる「秩序ある共生」や、昨今の選挙戦で浮上した外国人対策が、治安維持や社会保障の未納問題などの「管理」に偏重している点についても言及した。これらは移民政策の本質である「どのような社会を築くか」という視点を欠いており、外国人への不信感を煽る政治的効果を狙ったものであると分析。スペイン・バルセロナの「反噂戦略(Anti-rumor strategy)」を例に挙げ、地域社会レベルで外国人に対する偏見やデマを検証し、対話を促進する草の根の取り組みが必要であると提言した。

最後に小井土氏は、人口減少が進む日本において、移民政策は単なる労働力の数合わせではなく、移住者の視点に立った制度設計が不可欠であると結論づけた。彼らが日本でキャリアを形成し、定住したいと思えるような魅力ある環境、すなわち「統合された移民政策」を構築することこそが、欠落してきた日本の移民政策を埋める鍵になると訴えた。

編集:小田菜々香

最新ニュース
【2026 WBC】侍ジャパン、WBC直前は「名古屋・大阪」で4連戦 台湾代表は台北ドームでハム・SBと壮行試合
2026年WBC、高額転売防止へ 公式リセール「チケプラTrade」導入 注目の日韓戦も対象、スマホ撮影で簡単出品
台湾初の「中国出身」国会議員に解職の危機 国籍放棄できぬ特殊事情と「安保リスク」の壁
レゴランド東京×ズーラシアが春コラボ!相互割引や「動物ビルド体験」開催、2月6日から
デンソー、第3四半期は増収減益 通期営業利益予想を5350億円に下方修正
高市新政権の「脆い熱狂」と政界再編の足音 東大・牧原教授が予見する自民党の変質と「4ブロック制」への再編
U-NEXT、2月の独占ライブ配信がアツい!Vaundy東京ドーム&超特急ツアーファイナル決定、布袋寅泰やCNBLUEも
東京都現代美術館で「ミッション∞インフィニティ」開催中 自分の声を1500光年先のブラックホールへ送るアート体験
ユー・エス・ジェイとポケモンが世界的プロジェクトを正式始動 25周年・30周年の節目に圧倒的な没入体験をグローバル展開へ
第一生命経済研・永濱利廣氏「2026年はデフレ脱却完遂の年」 実質賃金プラス定着、日経平均5.7万円も視野
中国・張又侠氏の失脚に「3つの異常点」 軍内部に広がる動揺、専門家「台湾は危険な段階に入った」
【訃報】台湾の名プロデューサー袁惟仁氏が死去、57歳 フェイ・ウォンらに楽曲提供、闘病8年
阿部守一・全国知事会長「社会のOS更新を」 人口減対策、国主導の医療費統一など求める
中台「国共フォーラム」9年ぶり再開 国民党・蕭旭岑氏「協力して世界で稼ごう」、中国・宋濤氏「大陸発展の急行列車に乗れ」
【深層】台湾海峡、民進党政権10年の死角 「中国研究」の空洞化で高まる軍事誤算のリスク
OpenAI、自律型AI管理ツール「Codex」発表 複数のAIを同時に指揮、macOS版から
2025年日本酒輸出は458億円で復調、数量・金額ともに増加へ
頼清徳氏、支持率が「支持>不支持」異例の逆転 呉子嘉氏が大胆予測「3月に50%超えれば党内無敵に」
京都・浄教寺のホテルロビーが美術館に 「寺のホテル」で障がい者アート展「HAPPY SMILE ART」開催中、鑑賞無料
NVIDIA、台湾で「脱GPU一本足」へ フアンCEOが聯発科との提携認める 設計チップは7種類に拡大
「世界への道」か「第二の西進」か 頼清徳総統、国民党訪中を牽制 経済戦略で真っ向勝負
【台湾・統一地方選2026】盧秀燕・陳其邁の「次」を見据えた代理戦争 直轄6都市で激化する「直系候補」の椅子取りゲーム
【台湾・統一地方選2026】議員選は複雑怪奇な「数独」 国民党・民衆党協力のジレンマ、「蔣万安市長は応援に来ないで」と叫ぶ現場
仏検察がXと決裂、公式アカウント停止し「家宅捜索」へ マスク氏を召喚、児童ポルノ等で捜査拡大
U-NEXT、Vaundyの4大都市ドームツアー東京ドーム公演を独占ライブ配信へ 貴重な未パッケージ化過去ライブ映像3作品も追加決定
WHOで人員削減の危機が浮上 トランプ氏に続き「もう1か国」も脱退へ 存続揺るがす財政ショック
「恵比寿映像祭2026」詳細発表 テーマは台湾語起点の「あなたの音に|日花聲音」で2月6日開幕
【独占インタビュー】イーロン・マスクの「火星100万人移住計画」は狂気か ノーベル賞天文学者が「非現実的な夢」と一刀両断
現地レポ》味の素、「瞬間消滅レタスバー」表参道に期間限定オープン 冬の野菜不足とロス削減に挑む
春の庭園美と旬の味覚を一度に堪能 ホテル椿山荘東京、「春のランチ&ディナービュッフェ」2月11日から
早咲きの桜と雲海を眺めて優雅な午後を ホテル椿山荘東京「桜×ストロベリーアフタヌーンティー」2月6日開始
米鉄鋼生産が日本抜く、トランプ氏「成果」強調 AIと政策恩恵で台湾企業の利益圧迫懸念
軍事調達阻止は「北京への屈服」? 「金のスプーン」出身、トランプ氏の熱烈支持者とされる米上院議員とは
【2026 WBC】日本戦の「裏方」になれる?ディップが「バイトル」限定で運営スタッフ募集、観戦チケットキャンペーンも開始
高輪ゲートウェイ駅直結「高輪SAUNAS」2026年2月9日開業 都市型リトリート施設として多彩なサウナやプラントベースカフェを展開
国内初「動く鏡」で街全体を演出、高輪ゲートウェイ駅前で没入型イベント「TAKANAWA LIGHT JOURNEY」2月5日より 入場無料
高輪ゲートウェイ駅前で没入型PM「TAKANAWA LIGHT JOURNEY」2月開催 国内初「ムービングミラー」導入で時空の旅を演出
トランプ流「最大限の圧力」が奏功か インドがロシア産原油放棄、関税18%と引き換えに5000億ドルの「買い物」約束
イタリアのバリスタ王者が手がける「Vannelli Coffee」、世界初の旗艦店を2026年2月5日に東京・表参道でオープン
【舞台裏】台湾初の潜水艦「海鯤」を救った「静かなる猛将」 権力闘争と更迭劇の果てに見た「沈黙の艦隊」の覚悟
株式会社Mecara、AI瞳孔計測機器「Mecara」の特設サイトを公開 わずか7秒で自律神経やストレス状態を可視化
李忠謙コラム:崩壊寸前の「対中包囲網」 西側首脳の相次ぐ訪中とトランプ氏のダブルスタンダードが招く危機
「うっかり失効」防ぐ切り札に 入管庁、在留期限を通知する「メール配信サービス」の利用推奨
東京都、「セーフティグッズフェア2026」を2月7日に開催 安全・安心な子育て応援アイテム約60点が集結
都心に一足早い春の便り 麻布台ヒルズで「河津桜」が咲き始める 暖冬の影響で昨年より10日早く
陸自オスプレイ、日米共同訓練「アイアン・フィスト」に参加 過去最大4900人規模で実施
球春到来!プロ野球12球団がキャンプイン 宮崎・沖縄で開幕1軍かけ熱戦スタート
福岡ソフトバンクホークス「ハニーズ」2026年度メンバー決定 台北から2名加入で「台湾勢」は計3名に
NVIDIAフアン氏率いる「兆元宴」、TSMC・鴻海ら重鎮が集結 台湾での人材採用拡大も表明
中国半導体は米国に追いつけるのか?元TSMC幹部・楊光磊氏「決定的技術が欠落、片足で戦っている状態」