7月26日に実施された立法委員(国会議員)に対する第1弾の罷免投票では、民間団体主導の罷免運動と与党・民進党が大敗を喫し、対象となった24名の国民党議員はいずれも議席を維持した。罷免票が法定ライン(有権者の25%)を超えたのはわずか7選挙区にとどまり、まさに「完封負け」と言える結果であった。
この結果を受け、罷免運動を支援してきた聯電(UMC)元董事長・曹興誠氏も「第2弾(8月23日)は見送る」と発言、民進党への不満を露わにした。総統・頼清徳氏の支持率も急落し、党内外で危機感が広がっている。
それでも頼氏は、7月30日に開かれた民進党の中央常務委員会で、「8・23罷免に向け、引き続き市民とともに歩む」と明言。党本部およびすべての公職者に総力戦を指示し、「最後の一歩まで戦い抜く」と決意を示した。
民進党、勝算低くとも「政治的損失の最小化」を目指す 民進党が罷免作戦の継続を決めたことについて、国民党関係者は「想定通り」と冷静に受け止めている。罷免投票は第3段階(実際の投票)に入っており、法的に撤回はできないため、民進党は敗北を覚悟のうえで突き進むしかない状況だ。加えて、7・26での敗北により党勢が大きく後退したなか、もし8・23を前に撤退すれば「31選挙区全敗」という事実が来年2026年の統一地方選、2028年の総統選にまで尾を引く恐れがある。
民進党がこの戦いにこだわる理由は、「全面勝利」ではなく「政治的止血」である。国民党7議席のうち1〜2議席でも罷免に成功すれば、野党連携に打撃を与えるだけでなく、補欠選挙によって民進党が国会第1党に返り咲く可能性も生まれる。これにより、「たとえ国民党と民衆党が手を組んでも、民進党は戦える」という姿勢を国民に示す狙いがある。
7月26日の大規模リコールは大失敗に終わり、支持者の士気は崩壊した。しかし、民進党が8月23日のリコールで自ら敗北を認めれば、2026年の県市長選や2028年の総統選に影響しかねない。このため、勝算が低いと分かっていても最後まで戦い抜く構えである。(写真/劉偉宏撮影)
国民党も迎撃体制 「一議席たりとも落とさぬ」と朱主席 この民進党の意図を受け、国民党の朱立倫主席は直ちに8・23対策本部を立ち上げ、7議席全守を掲げた。「一議席たりとも失わない」という方針は、前回罷免戦と同様の選挙体制を意味する。ある国民党の選挙対策幹部は、「今回も罷免を全て阻止できれば、少なくとも2026年までの政治的優位は維持できる」と語っている。
民進党、罷免戦略を「精密化」 戦力集中で1勝を狙う 民進党も全力を尽くす構えで、柯建銘・立法院党団総召集人は「精準罷免(標的を絞った罷免)」を掲げる方針を明らかにした。表向きには「7選挙区すべてで全力投票」と強調しているが、党内では「7地区の情勢はそれぞれ異なる」として、戦力の集中と柔軟な戦略運用で勝機を探る方針だ。罷免運動を主導する市民団体と連携しつつ、最も成功の可能性が高い選挙区に資源を集中投下する構えである。
7月26日のリコール戦で大勝した国民党は、「8月23日も7議席ホームランで全勝しよう!もう一度勝つぞ!」と声を上げている。(写真/柯承惠撮影)
民進党、第二波罷免に向け「軟柿」を選別か 標的は羅明才・顏寬恒・游顥? 8月23日に実施予定の第二波罷免投票では、新北市第11選挙区の羅明才、新竹県第2選挙区の林思銘、台中市第2選挙区の顏寬恒、第3選挙区の楊瓊瓔、第8選挙区の江啟臣、南投県第1選挙区の馬文君、第2選挙区の游顥といった国民党所属の7人の立法委員が対象となっている。
これらの中で、どの議員が「精密罷免(標的を絞った罷免)」の対象となるのか、民進党、罷免運動を主導する市民団体(以下、罷團)、そしてメディアや評論家の間でも意見は分かれており、確たる結論は出ていない。
国民党の党務関係者によると、現時点で民進党側が精密罷免の「最優先目標」として検討しているのは顏寬恒および游顥の両氏であり、罷團は羅明才と馬文君を主要な標的として想定しているとの分析があるという。
罷免の壁は高い 「軟柿」でも勝算は見えず 仮に選挙区の支持基盤(いわゆる藍緑基本盤)、議員本人の地力、「ヘイト値(支持層以外からの反発度)」といった要素で罷免の実現可能性を評価しても、今回の7人はいずれも簡単に倒せる相手ではない。
罷免投票を成立させるためには、賛成票(罷免同意票)が有権者数の25%を上回る必要があり、これはかなり高いハードルだ。実際、以前の罷免成功例では、対象議員に対する高い「ヘイト値」が共通点として見られた。台北市の徐巧芯や王鴻薇がその代表例である。
国民党関係者によれば、今回の7人のうち、都市部に選挙区を持つのは羅明才のみで、江啟臣ら3名の台中市議員はいずれも旧台中県地域、南投県や新竹県も含め、これら地方選挙区の住民の間では罷免自体への関心が低い。加えて、対象議員への批判感情(ヘイト値)もさほど高くなく、動員戦(地上戦)で票を積み上げるしかないのが現状だ。SNSや宣伝による「空中戦」だけでは限界があるとされている。
台北市議の徐巧芯氏(右から2人目)と王鴻薇氏(左から2人目)は反感度が高かったものの、今回のリコールを耐え抜いた。(写真/顏麟宇撮影)
頼清徳氏の得票率から見る「罷免の難しさ」 もう一つの判断材料として、2024年総統選における得票率がある。罷免対象の7選挙区において、頼清徳総統の得票率はいずれも40%に届いておらず、民進党の地盤が弱い地域であることが明白だ。
中でも最低だったのは林思銘の選挙区で27.15%。羅明才、馬文君の選挙区でも35%に届かず、顏寬恒、楊瓊瓔、游顥の3選挙区も35%前後にとどまっている。一方で、国民党と民衆党を合わせた得票率は60%を超えており、民進党にとっては苦戦必至の構図である。
最後のカギは「地元の基盤力」 罷免の成否を左右する最大の要因は、対象議員の「地元での組織力」である。仮に賛成票が法定ラインを超えても、議員本人および国民党が「不同意票(罷免反対票)」をより多く動員できれば、罷免案は否決される。
国民党のベテラン党務関係者によれば、7名のうち最も「鉄壁」とされているのが羅明才氏だという。彼の選挙区である新北市新店区は、長年にわたる藍営(国民党系)の強固な地盤であり、羅氏自身も8期連続当選のベテラン。過去の選挙では常に60%近い得票で圧勝しており、罷團や民進党が彼の父・羅福助氏の黒い交友関係を問題視しても、選挙戦での実力差は圧倒的で、攻略は難しいとされている。
このため、新店区の羅明才は「最も安泰な選挙区」として党内でも認識されている。
羅明才氏は8連続当選を果たした立法議員であり、地方において深い実力を持ち、国民党は彼のリコールは難しいと評価している。(写真/顏麟宇撮影)
林思銘氏・顔寬恒氏・游顥氏、罷免ターゲットに?民進党・市民団体が「弱点」突く戦略か 国民党立法委員のうち、羅明才氏に次いで比較的安定した支持を持つのが馬文君氏、楊瓊瓔氏、江啟臣氏の3人である。いずれも選挙区における国民党と民衆党の支持基盤(いわゆる「藍白」)が比較的強固で、特に馬氏と江氏は最近2回の選挙を安定して勝ち抜いてきた。
楊氏は2016年に時代力量の洪慈庸氏に敗北した経験があるが、2020年には僅差で勝利し、2024年の選挙では民進党候補に13ポイントの大差をつけて当選。地域密着型の活動と地元住民への細やかなサービスで知られ、住民からの反発も少ない。組織力を活かした選挙戦において、リコール運動に対しても優位に立つ可能性が高い。
一方で、林思銘氏(新竹県第2区)、顔寬恒氏(台中市第2区)、游顥氏(新北市)はそれぞれに弱点を抱えており、民進党や市民団体による「精密な罷免運動」の標的となる可能性がある。
林思銘氏:目立たない存在感と不安定な基盤 林氏の地盤である新竹県第2区では、藍白の支持基盤が圧倒的ながら、本人の知名度が高くなく、地元活動の蓄積も十分とは言えない。過去2回の立法委員選挙では得票率が45%未満と際どい勝利が続き、与党である県政府も現職の楊文科県長が裁判を抱えており支援が限定的だ。
とはいえ、台中市長の盧秀燕氏、台北市長の蔣萬安氏ら党内の有力者が支援に回ると見られ、国民党内部ではこの議席の維持には楽観的な見方が広がっている。
国民党立委游顥氏は、対抗馬をわずか3000票差で制したことに内心不安を抱いているが、党内では823リコールの突破口になると懸念されている。(写真/陳昱凱撮影)
顔寬恒氏:「中二」選挙区の混迷と最大の標的に もっとも、民進党と市民団体によって「最も精密な罷免ターゲット」と目されているのが顔寬恒氏である。台中市第2区(通称「中二」)は有権者の動きが読みにくく、選挙情勢は常に不透明だ。
この選挙区で長年にわたり影響力を持ってきたのが顔一族であり、父・顔清標氏、息子・顔寬恒氏は「黒派」と呼ばれる地方派閥の代表格であった。しかし近年、その組織力は衰退し、顔清標氏も病気により政界を退いたことから、選挙での影響力は低下している。
特に2022年の補欠選挙では、民進党が林靜儀氏を全面支援。政府リソースの集中投入、司法による汚職捜査、メディア総動員の攻撃により、顔一族は「台中の悪の枢軸」とまで描かれ、最終的に約8000票差で敗北した。
ただし、2024年の本選では林氏を相手に2万票以上の差をつけて再勝利。議席を奪還し、顔一族としても名誉挽回となった。
「精密罷免」の成否は投票率にかかる? 民進党と市民団体にとって、顔氏には過去の「黒金」報道など攻撃材料が豊富であり、2022年の選挙戦術を再現できれば、再び罷免成功の可能性がある。特に、罷免投票は通常の選挙よりも投票率が低く、民進党支持層を的確に動員できれば、勝機は十分にあると見られている。
しかし、国民党側関係者は「顔寬恒氏が攻撃材料を多く抱えているからといって、罷免が容易とは限らない」と警戒を強める。というのも、顔一族は近年の政治的逆風にもかかわらず、地元での支持と動員力は依然として侮れない。
2022年の補選では、8万票以上を獲得しており、事前予想と実際の票数にわずかしか差がなかったことがその証左である。「顔家は地上戦(地元組織戦)に強く、民進党が話題先行で罷免を進めるだけでは勝てない」と、国民党側は分析している。
823リコール戦で、国民党立法委員の顏寬恒氏は民進党陣営による精密攻撃の標的に挙げられている。(写真/顏麟宇撮影)
顏寬恒氏に「罷免は逆効果」?民進党に反感、地元信仰層が結集の動き 国民党台中市関係者によれば、現在の政治的空気は明らかに民進党と頼清徳政権にとって不利に働いているという。特に台中第2選挙区では、若年層や中道層の有権者が今回の罷免に積極的に賛同する可能性は低いと見られている。
この関係者は、顔氏と深い結びつきを持つ大甲鎮瀾宮(台湾中部の著名な媽祖廟)との関係にも言及。民進党支持の市民団体(罷免推進団体)は、近年「抗中保台(反中・台湾防衛)」を掲げた運動の中で、大甲媽祖を「中国の媽祖」と攻撃。さらに、民進党政権は中国との宗教交流を行っている寺廟や信者を「中共の手先」とみなしており、信者の中には司法当局から呼び出され、取り調べを受けた例もあるという。
こうした動きは、宗教界や信仰心の篤い有権者の間に強い反発を招いており、国民党関係者は「大甲媽祖の信者が8月23日の罷免投票で『不同意(罷免反対)』の票を投じ、民進党に痛烈な教訓を与えることになるだろう」と述べた。
また、台湾民衆党(白営)とも友好関係にある顔寬恒氏には、同党支持者の票も期待できる。民進党と市民団体が彼を「叩きやすい相手」「操りやすい相手(=軟柿子)」と見なしているならば、それは大きな誤算となる可能性が高い。国民党関係者は、「彼を握ったつもりが、実際には棘だらけのサボテンを握っていた──そんな展開になるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。
江啟臣氏も警戒対象 副院長就任で地元回り減、支持率に影響も? 一方、国民党と台中市の盧秀燕市長の陣営は、顔寬恒氏だけでなく、江啟臣氏の選挙区情勢にも注意を払っている。江氏は、2026年に盧市長が任期満了で退任した後、台中市長の有力な後継者と目されており、もしも罷免が成功すれば、盧氏の将来的な総統選出馬にも大きな影響を与えることになる。
国民党幹部は、「政治的な意味合いを考えれば、民進党や罷免団体が江啟臣氏を精密にターゲットに据えてくるのも不思議ではない」と述べる。
江氏はこれまで、学歴・経歴・イメージともに優れており、選挙戦でも堅実な成績を残してきた。罷免投票においても基本的には大きな脅威とは見なされていない。しかし、立法院副院長に就任して以来、外交・国際交流などの中央レベルの活動に多くの時間を割いており、その分、地元での活動が手薄になっているとの指摘もある。
このような状況が、地元有権者の投票意欲にどのように影響するか、江氏本人だけでなく、国民党と盧秀燕市長も十分に注視すべきだという。「盤石と思われていた選挙区こそ、油断によって足元をすくわれる可能性がある」と、同党幹部は慎重な姿勢を呼びかけている。