大規模リコール後も台湾は民主の模範か?学者が警告 分極化こそ最大の安全保障リスク

2025-08-04 15:28
7月26日夜、台湾立法院前の済南路では「大規模リコール」開票を見守る市民集会が行われた。(写真/劉偉宏撮影)
7月26日夜、台湾立法院前の済南路では「大規模リコール」開票を見守る市民集会が行われた。(写真/劉偉宏撮影)
目次

台湾でかつてない規模のリコール運動が行われたが、最初の投票は失敗に終わった。この結果は、台湾民主主義の深刻な課題を浮き彫りにしている。米誌『フォーリン・アフェアーズ』8月1日付の記事で、台湾大学のレフ・ナクマン助教授と中央研究院政治学研究所の顔維婷研究員は、台湾が「極端な分極化の危機」に直面していると指摘した。政党同士が互いを「反逆者」と非難し、支持者同士が敵意を募らせる構図が、国内の分裂を深め、外部からの脅威以上に国家の強靭性を蝕む可能性があるという。

台湾民主主義の困難の根源

『台湾民主主義の困難』Taiwan’s Democracy Is in Troubleと題した論考で、両氏は台湾政治が単なる政策の違いを超え、青(国民党)・緑(民進党)・白(民衆党)の3陣営が互いを「民主主義の破壊者」や「独裁の裏切り者」と見做す段階に達していると分析した。民進党支持者は国民党や民衆党を中国寄りと疑い、さらには中国共産党との秘密のつながりすら懸念している。一方、野党側は賴清德総統の政権を「独裁的」と批判。リコール運動期間中、国民党の朱立倫主席は民進党を「ナチス」に、賴氏を「ヒトラー」に例え、民衆党は柯文哲氏拘束の際に「政治的迫害だ」と訴えた。

両氏は、対立する相手を「意見の違う同胞」ではなく「信用できない売国奴」と見做すことが、民主主義の基盤である尊重と妥協を失わせると警告する。今回のリコール失敗は分裂を癒やすどころか、むしろ憎悪と行き詰まりを悪化させる恐れがあるという。

内部対立が台湾の国防を脅かす理由

両氏は、こうした激しい政治対立は極めて不適切なタイミングで起きていると指摘する。北京は台湾への軍事・政治的圧力を強め、習近平国家主席は「祖国統一の歴史的潮流は止められない」と強調している。外部の脅威に一致団結して対抗すべき局面で、台湾の政党は「国家防衛」よりも「政敵の打倒」を優先しているという。

彼らは三つの安全保障上の懸念を挙げた。第一に、国防予算の停滞である。民進党は防衛費増額を訴えるが、野党は削減を求め、数十億ドル規模の軍事予算が凍結されたままだ。これは軍備を直接的に弱めるだけでなく、アメリカとの関係にも影響しかねない。トランプ政権は台湾に防衛費増額を求め、支援継続の前提としている。

第二に、国家認識の分裂だ。民進党は米国との連携と軍備強化を軸に「台湾本土意識」を固める路線を取る一方、国民党は中国との文化的絆を重視し、平和を優先する姿勢を見せる。この方針の違いが、対中戦略の統一を阻んでいる。

第三に、作戦意志の動揺である。国防安全研究院の調査によれば、台湾防衛のために戦う意志を示したのは民進党支持者で85%に上ったが、国民党は48%、民衆党は54%にとどまった。記事は、中国が賴清德政権下で侵攻した場合、野党支持者の一部が「与党の挑発」を理由に防衛を拒否する可能性を示唆している。

最新ニュース
舞台裏側》台湾・大規模リコールで見えた新勢力台頭 次期トップ候補は意外な人物に
イギリスがパレスチナ国家承認をめぐり疑問の声 『テレグラフ』:実在する国「台湾」をなぜ承認しないのか?
特集》首相を見守った台日友情 安倍派の知られざる支え手
分析》大規模罷免後の米中台情勢 焦点はトランプの台湾対応
台湾の20%関税政策3》日本の輸出競争力に暗雲 五大産業直撃
台湾の20%関税政策2》半導体調査結果迫る 企業に232条項・関税・チップ税の三重圧
台湾の20%関税政策1》米国が鉄鋼や自動車部品に最大50%関税、一部業界は予想外の恩恵
台湾が土壇場で20%重税を突如発表 英紙報道が示すその背景と理由
トランプの「兄弟外交」が崩壊:プーチンとネタニヤフが応じず、終わらない戦争が平和賞の夢を打ち砕く恐れ
国家主導のイノベーションはなぜ加速したのか――中国の「市場と統制」の両立を読み解く
第二次世界大戦をめぐる「記憶の闘い」 FCCJで国際研究者3名が語る現代の論点
世界で最もAIが使いやすい国へ 城内実大臣が描く日本の未来
台湾東部・台東人気観光地ランキング発表 絶景と便利さで富岡が1位に
台湾の旅行客が日本の心霊スポットで遺体発見 廃墟ビルから白骨化した遺体見つかる
少年犯罪と闇バイト急増 龍谷大・浜井浩一教授が警鐘「日本の治安は揺らいでいる」
台湾発TeamT5、サイバー脅威の最新動向と防御戦略を解説
戦後80年、日本の役割を問う――中西寛教授が国際秩序と外交課題を語る
飛行機で最も汚い場所は枕やカーペットではない? 客室乗務員が明かす「一度も清掃されない1箇所」とは
なぜ台湾だけが「一時的な関税」に区分されるのか? 専門家が語る「頼清徳が触れない事」:トランプの罠に陥る
舞台裏》大規模リコールが崩壊 民進党は無関心を装う 病院のメンタル科に若者が次々と駆け込む
なぜ台湾だけが「暫定関税」に? 専門家が語る「頼清徳が語らなかった事実」:トランプの罠に陥った
2025年新竹駅おすすめグルメ》格安グルメの集まる場所!老舗の美食15選、サクサクのタロイモボールや肉汁たっぷりの城隍包
外国メディアが分析 トランプ氏の台湾冷遇で浮き彫りになる頼清徳政権の苦境
トランプ氏が台湾に冷たい理由 WSJ「習近平氏との大取引を模索」
夏珍コラム:頼清徳は救えるか?
「松本零士展 創作の旅路」開幕 DJ KOOさんと真山りかさんがセレモニーに登場、松本零士の創作人生と“銀河の旅”に祝福
オーバーツーリズムの克服へ 田中俊徳准教授「持続可能な観光立国に必要なのはルールと分配」
「現実に立脚した安保戦略こそが必要」——折木良一元統合幕僚長が語る戦後80年と日本の進路
台湾グルメは鼎泰豊だけじゃない!日本人旅行者が「本当に絶品」と絶賛する隠れた名店とは
松本零士展が夏休み仕様に拡充 新フォトスポットや限定グッズも登場、SNS割引キャンペーンも実施中
アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭
相互関税で台湾に20%か 日韓EUより5%高い
台湾、「関税20%は交渉目標に非ず」頼総統が米と再交渉へ明言
台湾株、トランプ関税で夜間に180ポイント急落 非農業統計控え市場に緊張走る
台湾・台中と兵庫・尼崎が「スマート都市」で意気投合 デジタル×脱炭素で国境越えた交流へ
8月8日は「ポテコなげわの日」!池袋で限定イベント&お菓子プレゼントも
裏金17億円、40年続いた潜水艦修理めぐる不正の実態 防衛省が海自93人を一斉処分
中国軍、忠誠は共産党でなく習近平? 青学大・林教授が指摘する「制度なき統制」の危うさ
専門家が警告:この「5つの情報」をChatGPTに絶対に伝えないで! 一言で財産とキャリアを失う可能性とは
「災害対応にジェンダーの視点が不可欠」 女性自衛官らが語る現場の変化と課題
吳典蓉コラム:「民意」を読み違えた頼清徳総統 大規模リコールで露呈したリーダーの孤立
台湾と中国、異例の非公式交渉 頼政権の「オリーブの枝」を北京が一蹴
親中路線を強めるトランプ氏 頼清徳総統を冷遇か?米中「取引外交」に警鐘
舞台裏》台湾リコールで中国も誤算 最も懸念していた人物とは?
FRB分裂、利下げ巡り異例の反対票 31年ぶりの波乱で市場動揺