台湾でかつてない規模のリコール運動が行われたが、最初の投票は失敗に終わった。この結果は、台湾民主主義の深刻な課題を浮き彫りにしている。米誌『フォーリン・アフェアーズ』8月1日付の記事で、台湾大学のレフ・ナクマン助教授と中央研究院政治学研究所の顔維婷研究員は、台湾が「極端な分極化の危機」に直面していると指摘した。政党同士が互いを「反逆者」と非難し、支持者同士が敵意を募らせる構図が、国内の分裂を深め、外部からの脅威以上に国家の強靭性を蝕む可能性があるという。
台湾民主主義の困難の根源
『台湾民主主義の困難』(Taiwan’s Democracy Is in Trouble)と題した論考で、両氏は台湾政治が単なる政策の違いを超え、青(国民党)・緑(民進党)・白(民衆党)の3陣営が互いを「民主主義の破壊者」や「独裁の裏切り者」と見做す段階に達していると分析した。民進党支持者は国民党や民衆党を中国寄りと疑い、さらには中国共産党との秘密のつながりすら懸念している。一方、野党側は賴清德総統の政権を「独裁的」と批判。リコール運動期間中、国民党の朱立倫主席は民進党を「ナチス」に、賴氏を「ヒトラー」に例え、民衆党は柯文哲氏拘束の際に「政治的迫害だ」と訴えた。
両氏は、対立する相手を「意見の違う同胞」ではなく「信用できない売国奴」と見做すことが、民主主義の基盤である尊重と妥協を失わせると警告する。今回のリコール失敗は分裂を癒やすどころか、むしろ憎悪と行き詰まりを悪化させる恐れがあるという。
内部対立が台湾の国防を脅かす理由
両氏は、こうした激しい政治対立は極めて不適切なタイミングで起きていると指摘する。北京は台湾への軍事・政治的圧力を強め、習近平国家主席は「祖国統一の歴史的潮流は止められない」と強調している。外部の脅威に一致団結して対抗すべき局面で、台湾の政党は「国家防衛」よりも「政敵の打倒」を優先しているという。
彼らは三つの安全保障上の懸念を挙げた。第一に、国防予算の停滞である。民進党は防衛費増額を訴えるが、野党は削減を求め、数十億ドル規模の軍事予算が凍結されたままだ。これは軍備を直接的に弱めるだけでなく、アメリカとの関係にも影響しかねない。トランプ政権は台湾に防衛費増額を求め、支援継続の前提としている。
第二に、国家認識の分裂だ。民進党は米国との連携と軍備強化を軸に「台湾本土意識」を固める路線を取る一方、国民党は中国との文化的絆を重視し、平和を優先する姿勢を見せる。この方針の違いが、対中戦略の統一を阻んでいる。
第三に、作戦意志の動揺である。国防安全研究院の調査によれば、台湾防衛のために戦う意志を示したのは民進党支持者で85%に上ったが、国民党は48%、民衆党は54%にとどまった。記事は、中国が賴清德政権下で侵攻した場合、野党支持者の一部が「与党の挑発」を理由に防衛を拒否する可能性を示唆している。