台湾社会は、米国トランプ政権による関税政策の混乱と、島内で同時進行する二つの大規模リコール運動によって、しばし両岸関係への注目が薄れている。しかし、中国本土の知識層や世論はむしろ逆で、賴清德総統の「国家の団結十講」や、民進党とその支持者によるリコール運動後の「抗中」言説を背景に、台湾問題をめぐる議論がかつてなく活発化している。
台湾統一論が百花斉放 対台議論は一触即発の様相
注目されるのは、中国人民大学国際関係学院の金燦榮教授だ。彼は7月28日に発表した論考で、「一国二制度台湾案」が事実上「座礁」していると指摘した。金氏は、台湾海峡情勢の急速な悪化や民進党の政策の先鋭化、「台独」姿勢の強まりにより、これまでの両岸交流や融合政策が台湾の独立志向層にはほぼ無効だったと分析する。民進党政権が「一つの中国」を認めない以上、「二制度台湾案」を前提とした交渉には意味がなく、中国政府も最近はこれに言及していないと述べた。
これに先立ち、シンクタンク「全球化智庫」(CCG)の高志凱副主任は、和平統一は困難で武力統一の代償も大きいとし、台湾内部で「第二次西安事件」のような事態が起きる可能性を示唆していた。しかし、金氏はこれを「完全に非現実的」と切り捨てた。
さらに、復旦大学国際政治学科の沈逸教授は、前立法委員の蔡正元氏と激しい論戦を展開。沈氏は台湾住民の「拒統(統一されることを拒絶する)」を誤解の結果とし、蔡氏は北京が「和平統一」のスローガンばかりで具体策を欠くと批判した。元立法委員の邱毅氏は「両者は理念も目標も近い」としつつ、対立を煽る別勢力の存在を示唆している。

また、中国人民大学両岸関係研究センターの王英津主任は、7月23日の《人民日報》に
『「中華人民共和國從未統治過台灣」の謬論當休矣(「中華人民共和国は台湾を統治したことがない」という詭弁は終わりにせよ)』と題する文章を寄稿し、賴清德氏の「新二国論」を正面から批判した。これを受けて、北京が「二制度台湾案」の再提起を控えているとの見方が広がった。
「二制度台湾案」は消滅せず 中国側は台湾リコールに注視
今年の全国人民代表大会(全人代)で、王毅外相が「国連における台湾の唯一の名称は中国台湾省」と発言し、従来の「特別行政区」構想ではなく「省」呼称への転換が憶測を呼んだ。加えて、中国メディアが「台湾建省140周年」を大きく報じたことで、この推測はさらに強まった。
しかし、『風傳媒』の取材によれば、中国当局はこうした議論を承知しているものの、重要な台湾研究者は「民間学者が『一国一制』や『中国台湾省』を唱えているに過ぎない」と述べ、公式方針の変化を否定した。憲法第31条に基づき「必要に応じて特別行政区を設置できる」との原則は生きており、「二制度台湾案」も依然有効だと強調している。
専門家らによれば、金燦榮氏を含む複数の学者が「二制度台湾案」の現状を悲観的に見る背景には、台湾で進行する大規模リコール運動への注目がある。中国の台湾政策部門と学界はリコールの影響を緊密に観察し、予定されていた台湾関連の活動も一時停止しているという。

両岸問題は中米関係に組み込まれ 「挑戦の本番」はこれから
別の関係者によれば、香港の《南華早報》は4月21日、上海の台湾問題専門家・嚴安林氏へのインタビューを掲載。嚴氏は、台湾統一は現在「初期段階」あるいは「準備段階」にあると語った。この発信は、米中交渉を意識したメッセージだった可能性もある。
緑営の訪中関係者からも「北京は外部が想像するほど台湾統一を急いでいない」という感触が伝えられる。両岸問題が中米関係に組み込まれるなか、両国の動き次第で台湾海峡情勢は大きく変動するだろう。
「二制度台湾案」が完全に座礁したわけではない。例えば、《觀察者網》は7月中旬に「正心」名義で2本の論考を掲載し、統一プランの再提示を提言している。台湾のリコール運動が一段落した後、両岸をめぐる真の挑戦はこれから始まる可能性が高い。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp (関連記事: 張鈞凱コラム:「中華民国」は両岸の処方箋か、それとも毒か? | 関連記事をもっと読む )