2025年8月上旬に開催された「青森ねぶた祭」において、台湾をテーマにした中型ねぶた《城隍神降臨 台湾美食・友好メガ盛りねぶた》が登場し、多くの来場者の注目を集めた。
このねぶたは、青森山田学園のパレード隊によって制作・運行されたもので、台湾の神様「城隍爺(じょうこうや)」を中央に据え、小籠包やタピオカミルクティー、牛肉麺、龍膽石斑(ハタ)、ドラゴンフルーツ、マンゴー、釈迦(バンレイシ)、ライチなどの台湾グルメ・フルーツをユーモラスに盛り込んだ構成となっている。滷肉飯や手搖杯(タピオカドリンク)といった台湾文化の要素も色鮮やかに表現されている。

制作を手がけたのは、ねぶた師の塚本利佳氏。台湾をテーマにした作品は今回が初めてで、「活気に満ちた台湾の雰囲気を表現するため、従来のねぶたとは異なる、明るくポップな配色を意識しました」と話す。制作期間は約2週間で、特に「城隍爺」の帽子部分の構造が複雑で、バランスを取るのに苦労したという。

塚本氏はかつて介護福祉施設でリハビリ助手として勤務していたが、「絵で人を笑顔にしたい」との思いから2011年に青森市の「ねぶたの家ワ・ラッセ」で第6代ねぶた名人・北村隆氏に弟子入り。12年にわたる修業を経て、2023年には史上2人目の女性大型ねぶた制作者としてデビューを果たした。今回の作品はデビュー後2作目となる。
このねぶたは、8月3日から「前ねぶた」として運行され、デザインをあしらった団扇1,000枚が配布された。曳き手が着用した法被には、台湾の漫画家・柚子氏による特別デザインが採用された。また、ねぶた祭の期間中である7月29日から8月11日まで、青森県内97店舗のファミリーマートで、台湾観光署のプロモーション映像「ビビビビ 台湾」シリーズ(15秒)のデジタルサイネージ広告も展開された。
現地では、このねぶたに偶然出会った台湾人の若い夫婦が「まさかここで台湾に出会えるとは思いませんでした。団扇に描かれたタピオカや小籠包のイラストで気づき、親しみを感じて胸が熱くなりました」と笑顔で語った。観覧席は確保できなかったものの、最後まで立ち見で見守ったという。

また、台湾からは蔡明耀・台北駐日経済文化代表処副代表、王紹旬・交通部観光署東京事務所所長、李承芸・僑務組副組長らが青森を訪問し、ねぶた祭を視察するとともに、青森朝日放送(ABA)や青い森鉄道など地元企業を表敬訪問した。
蔡副代表は「今回、青森ねぶた祭に参加し、地元関係者と交流できたことを非常に光栄に思います」と述べ、今後さらに台湾と青森の友好関係が深まることに期待を寄せた。

ABA(青森朝日放送)は1969年に「青森テレビ」として開局し、現在はANN(オールニッポン・ニュースネットワーク)に加盟する青森県内のローカルテレビ局。キー局はテレビ朝日で、本社のほか八戸、弘前、東京、関西、仙台に支社を持ち、視聴可能人口は約120万人にのぼる。
ABAの川口敦社長は「近年、台湾からの観光客が明らかに増えており、ねぶた期間中だけでなく、日常的にも観光地や駅で見かける機会が増えました。これは航空便やプロモーションの効果に加え、長年にわたる信頼と文化交流の積み重ねの成果です。青森と台湾は互いに敬意を持っており、非常に大切な関係だと考えています」と語った。
なお、台湾をテーマにしたねぶたは近年継続して制作されており、2024年には媽祖(まそ、天妃様)をモチーフにした作品が登場している。今年の《城隍神降臨》は、その文化交流の流れを引き継ぎ、観光・教育・地域連携の深化を目指す意義ある取り組みとなっている。
このねぶたは祭り終了後、青森山田学園に一時保管され、8月23日に幸畑地区の夏祭りで再び展示された後、解体される予定。和紙などの再利用可能な素材は、青森山田学園に寄贈され、団扇制作などの教材として活用される見込みで、地域教育や資源循環にも貢献している。
編集:梅木奈実 (関連記事: 青い森鉄道、台湾と姉妹提携 観光列車や文化交流イベントを強化 | 関連記事をもっと読む )
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