世界最大の半導体受託製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)は、同社の最先端「2ナノメートル(nm)」製造プロセスに関する技術情報が外部に流出したとして、内部のエンジニア3人を解雇し、台湾の検察に通報した。当局によると、3人は新竹サイエンスパークにある第20工場および研究開発センターに勤務しており、国家安全法違反の疑いで身柄を拘束されている。
台湾の高等検察署は「これらの行為は国家の核心的な重要技術への無断アクセス、複製、漏洩にあたり、同法により最長10年の懲役が科される可能性がある」としている。この事件は台湾の重要産業の安全保障にとどまらず、世界の先端半導体技術を巡る競争環境にも影響を与える可能性があるとして、国家安全会議も対応に乗り出している。
なぜ中国や米国ではなく、日本企業が関係しているのか?
この事件の存在は、『日経アジア』の報道により初めて明らかになった。それによれば、流出した技術情報は中国企業などではなく、日本の装置メーカーに渡っていたという。漏洩を受け取ったとされるのは、かつてTSMCのシステムインテグレーション部門に在籍していた外国籍エンジニアで、現役の先端プロセス担当社員と個人的な関係を持っていたとされる。
TSMCは定期的な監視プロセスの中でこの不正アクセスを察知し、社内調査を実施。その結果、営業秘密の漏洩が確認されたという。TSMCは「当社は営業秘密の保護および企業利益を損なう行為に対しては一切容赦せず、厳格に対処する」とコメントしている。なお、司法手続きが進行中であることを理由に、詳細については控えている。
捜査の経緯と関係者
- TSMCの監視システムが2025年7月、異常なファイルアクセスを検出
- 社内調査により、第20工場および研究開発センターの計9人が関与した疑いが判明
- このうち3人について先行して処分を実施
- 主犯格はスマートフォンを使って技術資料を撮影・複製
- 撮影された情報は台湾人スタッフを介して日本人エンジニアに渡ったと見られている
- 検察当局は7月25日から28日にかけて、陳姓・呉姓などの関係者を拘束
- 3人は国家安全法第3条第1項第2号に基づき勾留が認められ、最高5,000万台湾元(約2億4,000万円)の罰金が科される可能性もある
国家安全法と「2ナノ技術」の重要性
台湾では2022年に国家安全法が改正され、「国家核心的技術」として14ナノメートル以下の先進的な半導体製造技術が新たに保護対象に加わった。許可なくこれらの技術を取得、使用、複製、または漏洩した場合は重罪として処罰される。今回の件は、半導体プロセス技術の漏洩に対して初めてこの法律が適用されるケースとなる。
- 2ナノ製造プロセスは、現時点で世界最高レベルの技術
- より小型・省電力・高性能な半導体の製造を可能にする
- TSMCは2025年末までに量産開始予定
- サムスン電子やインテルはまだ開発段階
- 技術が流出すれば、世界の半導体生産競争に大きな影響を与える可能性がある
編集:梅木奈実 (関連記事: TSMCの2ナノ技術流出疑惑で急浮上 Rapidusとは何者か──日本半導体産業の逆襲 | 関連記事をもっと読む )
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