イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』は10日、米中貿易交渉が重要局面を迎える中、中国がアメリカに対し、高帯域幅メモリ(HBM)チップの輸出規制緩和を強く求めていると報じた。HBMは先進的AIチップに不可欠な部品であり、解禁されればグローバルなAI競争の構図を一変させる可能性がある。米国の専門家からは「華為(ファーウェイ)への大きな贈り物になり、中国のAI分野での競争優位を決定づける」と警告する声が上がっている。
報道によると、中国側はHBMの輸出規制緩和を米中貿易協定の一部に組み込むよう要求。過去3カ月間、アメリカのスコット・ベッセント財務長官と中国国務院の何立峰副首相が主導する複数の交渉で、この問題が繰り返し取り上げられてきたという。
アメリカ財務省はコメントを控えているが、トランプ大統領と習近平国家主席による首脳会談の可能性が取り沙汰される中、8月12日に迫る貿易協議の期限が注目されている。アメリカ商務長官のハワード・ルートニック氏は今週、関税戦争の再燃を避けるため停戦期間をさらに90日延長する可能性に言及。水面下では米中双方の駆け引きが一層激しくなっている。

HBMの重要性
中国がHBMを強く求める背景を理解するには、まずその正体を知る必要がある。高帯域幅メモリ(HBM)は、高速なデータ転送を可能にする先進的なDRAMであり、最先端AIチップの性能を引き出す要となる部品だ。AIチップは大量のデータを同時処理する必要があり、HBMは幅広で交通量の多い高速道路のように、プロセッサとメモリ間でデータを迅速にやり取りできる。HBMがなければ、どれほど高性能なAIプロセッサでも真価を発揮することは難しい。
バイデン政権は2022年以降、先端半導体の対中輸出規制を全面的に強化し、2024年にはHBMの中国輸出を禁止。これは華為(ファーウェイ)や中国最大の半導体受託メーカー、中芯国際(SMIC)を直接狙った措置だった。このため、中国は先端AIチップの入手や製造能力を大幅に制限され、不満を募らせてきた。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のAI専門家グレゴリー・アレン氏は、HBMは先端AIチップ製造に不可欠であり、そのコストはチップ全体の約半分を占めると分析。「中国に先進的なHBMの販売を認めれば、華為がさらに多くのAIチップを製造し、Nvidiaに取って代わる可能性を与えることになる」と警告している。
米政府内の議論に詳しい関係者によれば、当時のバイデン政権はHBM規制を「中国の大規模生産を阻む最大の単一制約要因」と結論づけていたという。この人物は、「規制を緩めれば、華為やSMICに毎年数百万個のAIチップを製造する道を開き、米国内市場が必要とする希少なHBM供給にも影響が及ぶ。だからこそ、HBM規制緩和は交渉のテーブルに載せるべきではない」と述べる。
『フィナンシャル・タイムズ』はさらに、中国がHBMを求めるもう一つの理由として、中国企業SophGoが米国法に違反し、台積電(TSMC)製ロジックチップと組み合わせてパッケージング工程に使用している事実を指摘。メモリーチップはロジックとメモリを融合したAIチップに欠かせず、HBMは中国のAI開発における「巨大なボトルネック」になっているという。