アメリカのトランプ大統領は第2期に入り、政策路線を大きく転換した。「相互関税」などの強硬な貿易措置を打ち出すだけでなく、国際戦略や外交姿勢でも「アメリカ・ファースト」を鮮明にし、冷戦終結後に歴代政権が築いてきた慣例を覆した。こうした変化は台湾、日本、韓国などアジア太平洋諸国にも影響を及ぼしている。
政権交代の中、米中対立が一時的な緊張にとどまるのか、それとも長期的な争いへと発展するのか――不安が高まるなか、日本の著名な国際政治学者は、米中間にはすでに「新冷戦」と呼ぶべき構造が成立していると指摘する。そして、トランプの高関税や圧力は各国経済を疲弊させる可能性はあるものの、真の競争相手である中国に決定的な打撃を与えることは難しいとの見方を示している。
米中の「新冷戦」構造はすでに定着か
東京大学名誉教授の藤原帰一氏は、2008年以降の米中関係の緊張の高まりとともに、アメリカ主導の同盟体制が再編され、国際政治の分断と固定化が進んだと指摘する。覇権争いや軍事対立の拡大は、この構造を如実に反映しているという。
藤原氏は、ロシア・ウクライナ戦争とイスラエル・パレスチナ紛争という二つの戦争が、イスラエルの影響圏拡大をもたらす一方で、米欧や東アジアでも大規模な軍拡を促し、新たな国際軍事秩序を形作ると分析。ただし、アメリカ主導の既存同盟は弱体化傾向にあり、ロシア・ウクライナ戦争は「ヨーロッパ化」しつつあるとも述べた。

7月26日に開かれた第77回「関口国際グローバルシンポジウム(SGRAフォーラム)」で藤原氏は、世界はすでに米国と同盟国、中国・ロシア・北朝鮮など二つの陣営に分かれており、終わるはずだった東アジア冷戦も中米冷戦も完全には終結していないとの見解を示した。
講演「戦後80周年を記念する意義とは?トランプ後の東アジアを考える」では、バイデン政権期に米中の競争が全面化し、軍事的対抗も激化したと分析。双方が同盟国との協力や軍事演習を強化し、日本の岸田文雄元首相もバイデン政権の対中政策を全面的に支持していたと述べた。
中国について藤原氏は、習近平国家主席が「新冷戦」構造に対抗する戦略として、自国の防衛力強化を進めつつ、ロシアとの協力を継続していると指摘。アメリカの影響力低下を背景に、アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの発展途上国、いわゆる「南の世界」を引きつける外交を展開していると分析した。

トランプの高関税をどう評価すべきか
藤原氏は、現在の「新冷戦」が国際経済に与える影響を分析し、トランプ第2期の経済政策は「新重商主義」の考えに基づき、国際貿易に高関税を課して産業振興と財政収入拡大を狙うものだと指摘。これによって各国間の関税競争やサプライチェーンの再編が進み、アメリカは強大な国力を背景に外国資本の市場参入条件を制限することを各国に迫っていると述べた。
藤原氏は、トランプ政権が経済政策を「強制外交」として展開していると分析。高関税や対米投資制限を強制する「アメリカ・ファースト」は、最終的にアメリカの周辺国を貧困化させる可能性はあるが、中国のような対抗国に決定的打撃を与えることは難しいとの見方を示した。