イスラエル・米国によるイラン攻撃から1カ月半が経過する中、放送大学名誉教授で中東情勢に詳しい高橋和夫氏は7日、東京都千代田区の日本記者クラブで記者会見を行い、6月に実施された米国とイスラエルによるイラン核関連施設への大規模攻撃について分析した。高橋氏は、この攻撃はイスラエルが長年進めてきた周辺国の核開発阻止政策の延長線上にあると指摘。過去のイラクやシリアの原子炉空爆、イラン・ナタンズ核施設へのサイバー攻撃、科学者暗殺などを例に挙げ、今回の攻撃もその一環と位置付けた。
高橋氏は、イランが核開発を続ける限り再攻撃の可能性は高いとの見方を示した。従来の「核兵器を保有せず、いつでも製造可能な段階を維持する」という戦略から、実際の開発に踏み出す場合、攻撃と再開発の応酬を経て政権転覆論に発展する恐れがあると述べた。ただし、反体制派には国外亡命中の元皇太子や武装組織などが存在するものの、国内での支持基盤は脆弱で、現体制を揺るがす力は限定的だと分析した。
また、イランはアゼリ人、クルド人、バローチ人など多民族で構成されており、特にスンニ派マイノリティ地域では治安の不安定化が進行していると説明。外国情報機関の関与が取り沙汰されるが、歴史的に見て分断の試みは成功していないとした。
トルコとの関係については、シリア情勢やクルド人問題で対立がある一方、トルコ・ジェイハン港経由の石油供給がイスラエル経済を支えており、経済的な相互依存が関係断絶を防いでいると述べた。
パキスタンに関しては、インドやアフガニスタンとの対立、国内のバローチ人問題から、イランの不安定化は自国の安全保障上の脅威となるため、長年にわたりイラン支持を表明してきたと説明。イラン核開発初期にはパキスタンの科学者が技術を提供した経緯があり、軍事面での関係は早くから構築されていたと述べた。
さらに、5月の印パ空中戦では、パキスタンが中国製J-10戦闘機でインドのフランス製ラファール戦闘機などを撃墜したと主張。この事例を踏まえ、イランはロシア製防空システムの限界を認識し、より高性能な兵器の供与をロシアに求めるとともに、中国製戦闘機の導入も検討しているとされる。こうした動きは、中国の中東地域における影響力拡大や、イランとパキスタンの軍事協力深化につながる可能性があると指摘した。
高橋氏は、パキスタンがイランを支持する背景には、イスラム教国家としての連帯だけでなく地政学的な計算があると述べた。イスラエルがイラン体制の転覆を視野に入れているとみられる中、現政権が崩壊し米・イスラエル寄りの政権が誕生すれば、パキスタンはインド、アフガニスタン、イランの三方向から包囲される構図となる。この事態を避けるためにもイラン支持を継続していると考えられる。パキスタンとアフガニスタンは長年、国境線を巡って対立しており、インドのモディ政権は近年、イスラエルとの関係強化を進めている。
ガザ情勢を含む中東の動向については、イスラエルの国際的孤立を加速させ、英国では労働党内で長年続いてきたイスラエル支持政策への批判が高まっていると説明。米国でもイスラエル政策を巡る議論が活発化しており、こうした政治環境の変化が中東情勢に波及する可能性があると述べた。
編集:梅木奈実 (関連記事: ガザで前代未聞の飢餓:2時間に1人死亡! 骸骨のような子どもが病室に溢れ、イスラエルが援助制限で「徐々に餓死」 | 関連記事をもっと読む )
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