トランプ政権で国務省スタッフを務めたクリスチャン・ウィートン氏が「台湾はどのようにしてトランプを失ったか」という論考を発表し、台湾政界で波紋を呼んでいる。ウィートン氏は、頼清徳政権の外交対応を相次いで批判し、「最高の外交官」と称された蕭美琴副総統についても、その評価は過大だと指摘した。これらの見解がトランプ陣営の本音をどこまで反映しているかは不明だが、台湾国内では議論が広がっている。さらに、民進党政権が毎月6万ドル(約885万円)を投じてロビー団体を雇っているにもかかわらず、成果は乏しいとの声も出ている。
米政治専門メディア《Politico》は、9日の長文記事で、トランプ政権が「対等な関税」政策で世界貿易の再構築を進めるなか、多くの国がトランプと関係を持つロビイストを起用し、数千万ドル規模の費用を投じて経済的打撃を回避しようとしていると報じた。しかし、その試みはほとんど成果を上げていないという。長年ワシントンで通用してきたロビー戦術が、今回は効果を発揮していない実態が浮き彫りになった。
《Politico》によれば、トランプ氏が2025年の大統領選出馬を表明して以降、少なくとも30カ国がトランプとつながるロビイストを雇用した。日本や韓国といった主要貿易国から、ボスニアやエクアドルのような小国まで、各国が共通して直面する課題は関税回避だ。だが、米印戦略パートナーシップフォーラムのムケシュ・アギCEOは「現行のワシントン指導層の手法は伝統を覆すもので、これはビジネスにとどまらず外交や交渉全般に関わる。旧来の影響力行使モデルは通用しないようだ」と述べ、従来型ロビー戦術の限界を指摘した。
負の事例一:インド
最も大きな打撃を受けた国の一つがインドだ。インドは今年4月、トランプ大統領の長年の顧問ジェイソン・ミラー氏を起用した。しかし過去2週間で、トランプ政権による関税引き上げの影響を直接受け、税率は驚くべきことに50%まで上昇した。米司法省に提出された資料によると、インドはミラー氏と年間180万ドル(約2億6,500万円)の契約を結び、「戦略的助言、戦術計画、政府関係支援」に加え、イメージ管理や広報活動を依頼していたという。ミラー氏側からのコメントは得られていない。
負の事例二:カナダ
カナダも同様に、各州が多額の費用を投じてワシントンのロビイストを雇ったが、関税引き上げを免れることはできなかった。《Politico》によれば、カナダ国会顧問のロビーチームはオンタリオ州やアルバータ州を代表し、複数の共和党議員やオクラホマ州知事ケヴィン・スティット氏との会合を設定。さらに、エネルギー産業の中心地であるサスカチュワン州やアルバータ州の代表として、ルイジアナ州知事ジェフ・ランドリー氏らとの接触も試みた。
今年2月には、カナダの州知事らがCheckmate政府関係会社を雇い、ワシントン訪問の貿易代表団を立ち上げる協力を依頼。この会社はトランプ前顧問チェス・マクドウェル氏が率いており、トランプ2024年選挙合同議長の息子も雇用している。報酬は8万5,000ドル(約1,330万円)で、ホワイトハウス副首席ジェームズ・ブレア氏や人事担当ディレクターのセルジオ・ゴール氏との面会が手配された。
約1か月後、カナダ駐ワシントン大使館はSignal Groupを雇い、「右翼メッセージ解析」や「MAGA運動のマズロー欲求階層分析」などを含むメディア対応訓練を実施した。
対照的に、メキシコはPillsbury Winthrop Shaw Pittmanという1社のロビーチームだけに依頼し、貿易問題に特化した法務支援を受ける方針をとった。フェンタニル流通問題で米側の関心が高いメキシコだが、最終的に高関税を課されたのはカナダであった。
現在、カナダ製品には35%の関税が課されている一方、メキシコは25%にとどまる。本来、現行の自由貿易協定では両国の多くの品目が免税対象となるはずだ。メキシコ政府高官によれば、トランプ氏とシェインバウム大統領との個人的関係が、こうした結果の背景にあるという。
大金より直接交渉が有効?
トランプ政権の関税政策に詳しい共和党系ロビイストは、進展を得るには発想の転換が必要だと指摘する。「一部の国は、たとえ米大統領が現状変更を提案しても、自国の立場が脅かされたと受け止める。しかし重要なのは、トランプ大統領が再定義した二国間貿易関係の目標に沿って交渉を進めることだ」と語る。
さらに、韓国の貿易案件に携わるDGAグループのタミ・オーヴァービー氏は「最良のロビー活動はリーダー同士の直接対話だ」と述べ、トランプ氏が各国との関係を「首脳との個人的な関係」として語る傾向を指摘した。結局、米国との関係が良好と見なされるかどうかは、トランプ氏がそのリーダーとの相性をどう感じるかに左右されるという。「トランプ氏は自らをディールメーカーだと考えている」とオーヴァービー氏は強調した。
ロビーチームは成果を保証せず
《Politico》によれば、外国政府を代表する多くのロビー会社はワシントンで長年活動してきた古参だ。選挙前からベテランロビイストを起用していた国も多い。日本や韓国、エクアドル、リビアなどと契約している水星公共事務所(Mercury Public Affairs)もその一つだ。韓国と日本は15%という比較的低い関税率で合意にこぎつけたが、エクアドルとリビアは引き下げに失敗した。特に日本は20社以上のロビー・広報会社と契約していた。
水星公共事務所は、ホワイトハウス参謀長スージー・ワイルズ氏の前職でもあり、昨年11月以降、韓国やエクアドル、リビアを含む5カ国と契約している。韓国は米国への投資を条件に15%の関税で合意したが、エクアドルとリビアは4〜8月の間に関税が上昇。エクアドルはトランプ氏の「互恵」関税提案に応じず、8月には15%の関税を課された。
日本政府は米国内で20社以上のロビー会社や広報企業と契約している。パン・ボンディ元フロリダ州司法長官の前職であるバラード・パートナーズ(Ballard Partners)は、トランプ氏が選挙後2日目に石破茂首相と電話会談を行う段取りを整えた。別のロビー会社BGRグループは、元運輸長官ショーン・ダフィ氏やトランプ顧問デイヴィッド・アーバン氏の勤務先でもあり、アンゴラや韓国、インドなど幅広い国と契約を結んできたが、成果は国ごとに明暗が分かれた。
東南アジアの例:カンボジア、ベトナム、パキスタン
東南アジア諸国もワシントンでのロビー活動に積極的だ。カンボジアとインドネシアは今年4月時点で発表された初期の関税率よりも低い19%まで引き下げることに成功したが、それでも依然として世界の多くの国より高い水準にある。《Politico》は、この結果について「最悪の事態は回避できたが、勝利と呼ぶには至らない」と分析している。
米司法省の資料によると、トランプ大統領が「相互な関税」を発表した当日、米法律事務所エイキン・ガンプ(Akin Gump Strauss Hauer & Feld)はカンボジア政府を代表して米通商代表部(USTR)のサム・ムロプロス幕僚長に接触。その後も数カ月にわたり会合の設定や交渉を重ね、最終的に関税は49%から19%へと大幅に引き下げられた。
ベトナムも米政府関係者との会合を20回以上実施。4月の関税発表直後から接触の頻度が急増し、結果として関税率は46%から20%まで減少した。あるアジアの外交官は、こうした動きの背景には、トランプ政権が当初の貿易赤字是正から方針を転換し、中国の影響圏から東南アジア諸国を引き離す戦略に重点を置いたことがあると指摘する。
パキスタンは今年、トランプ氏の元警護キース・シラー氏や、元トランプ・グループ監督ジョージ・ソリアル氏ら、計7社のロビイストと新たに契約。いずれの企業も過去に外国代理人登録はなかったが、パキスタンは月額5万ドル(約780万円)を支払い、関税を29%から19%に引き下げた。インドの50%と比較すれば、その差は際立つ。
また、米司法省の資料によれば、大陸戦略会社(Continental Strategy)と契約した国の中には、ガイアナ(38%→15%、月額5万ドル)や日本(3.75万ドル)が含まれる。同社は、トランプ政権期に外交官を務めたカーロス・トルヒーヨ氏と、元国務省高官補佐官アルベルト・マルティネス氏が率いている。
一方で、米国内企業にも影響は及んでいる。複数の国はトランプ氏を説得して関税引き下げにこぎつけたが、その後の政策変更で恩恵を失った例もある。米「ビッグスリー」自動車メーカーは、北米サプライチェーンを守るため税制措置を提案したが、貿易協定の進展とともに競争上の優位性は薄れた。日本や韓国、EU製の部品が15%の関税で輸入される一方、国内生産は相対的に競争力を失っている。
《Politico》によれば、関税が正式に発効して以降も、多くの国やロビー団体が免除や追加の引き下げ条項を求め続けている。ロビイストの成果は必ずしも期待通りではないものの、各国からの依頼がワシントンのロビー業界を潤しているのは事実だ。ある共和党系ロビイストは「多くの国が貿易枠組みの策定を模索しているが、その内部にはまだ交渉の余地が残っている」と述べ、枠組みの不確定要素が新たな取引のきっかけになる可能性を示唆した。