2025年8月7日、東京都千代田区の日本記者クラブで、メディア論・社会学を専門とする成蹊大学教授の伊藤昌亮氏が「参院選後の社会:右派ポピュリズムの新たな展開」と題して講演した。7月の参院選で躍進した参政党のマニフェストを分析し、1990年代以降のネット右翼や欧米の右派ポピュリズムとの共通点や相違点を踏まえ、支持拡大の背景を詳述した。司会は日本記者クラブ企画委員(時事通信)の小林伸年氏が務めた。
伊藤氏は、参政党の公約を「日本人を豊かにする(経済政策)」「日本人を守り抜く(環境政策)」「日本人を育む(文化政策)」の3本柱に分類。それぞれが排外主義的経済政策、農本主義的環境政策、復古主義的文化政策として体系化されていると指摘した。具体例として、国民負担率を現行の46%から35%に引き下げる減税と社会保険料削減、外国人労働者受け入れ制限、農業保護と有機農業推進、教育方針の見直しと愛国心の強化、独自憲法草案の制定などを列挙。これらの政策は「不満・不安への訴求」「支持を得やすい具体策」「コアな主張」の三段階構造を持ち、広く支持を取り込みつつ最終的に中核的な政策へ導く仕組みになっていると分析した。
特に経済政策では、MMT(現代貨幣理論)に基づく「松田プラン」を中核に据え、赤字国債発行の制限撤廃と超積極財政を掲げている点を強調。参政党の支持層は主に正社員や富裕層ではなく、中小企業労働者、非正規雇用、自営業者、主婦層などの「ローアーミドル層」であり、賃上げや投資よりも減税や直接的給付を求める傾向が強いと説明した。
また、参政党が用いる「日本人」という言葉は、旧来自民党や公明党が訴えてきた中間層へのアプローチである一方、外国人、性的マイノリティ、高齢者、障害者といった「周縁」を切り捨てる差別的発言が目立つと指摘。支持層はこれを「真ん中を守るためのメッセージ」として受け止めていると述べた。
さらに外国人問題については、欧州の福祉排外主義と日本の状況は異なり、日本で強い反発を招くのは移民労働者よりも土地や不動産を購入する外国人投資家、とりわけ中国の富裕層であると分析。これが弱い立場の外国人への偏見や排斥につながっている現状を指摘した。
伊藤氏は結びに、参政党は真ん中志向、積極財政、大きな政府という独特の組み合わせで支持を拡大しており、批判層と支持層とでは着目する論点が大きく異なるため、議論がかみ合わない構造にあると述べた。
編集:梅木奈実 (関連記事: 日台関係で歴史的進展 台湾代表が初の平和記念式典に招待、林外交部長も極秘訪日 | 関連記事をもっと読む )
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp