台湾国防部によると、8月9日の中国軍機の活動回数は9回に減少し、公務船は2隻だった一方、中国海軍艦は9隻に増加し、台湾海峡の緊張は依然として続いている。中央気象局の予測では、軽度台風「ヤンヤン」が10日午前8時時点で北緯21.4度、東経138.5度付近を時速19キロで西進しており、米・英・日などの軍事同盟が西太平洋で実施中の演習海域付近を通過する可能性がある。この進路次第では、演習の短縮や、中国・ロシア合同艦隊の日本周辺海域接近の一時停止、さらに台湾海峡の緊張緩和に影響を及ぼす可能性がある。
中国軍が父の日前後の2日間、台湾周辺海域で演習を実施。(画像/陸文浩氏提供)
中国人民解放軍東部戦区は8月7日に台湾周辺で「聯合戦備警巡」を実施。国防部発表によれば、同日は軍用機57回出動、軍艦6隻、公務船4隻が活動した。翌8日も軍用機54回、軍艦6隻、公務船2隻が確認され、連日の大規模展開は国内外の注目を集めた。
中国軍が父の日前後の2日間、台湾周辺海域で演習を実施。(画像/陸文浩氏提供)
まず、7月にオーストラリアで実施された多国間軍事演習「プロテクトール軍刀」には、米、豪、英、加、日、蘭、NZ、ノルウェー、仏、独、印、韓、新加坡、タイ、比、インドネシア、トンガ、フィジー、パプアニューギニアなど計19カ国が参加した。日本側情報によると、中国の815型電子偵察艦と791艦は8月1日に西太平洋から宮古海峡を経て東シナ海へ戻ったとされる。筆者は、東部戦区海軍の815型電子偵察艦「北極星号」が同演習海域で任務を終えて帰還したと推測している。
続いて8月4日から12日まで、日本主導で米、英、日、豪、西、ノルウェーが西太平洋で海上合同訓練を実施。米海軍からは空母「ジョージ・ワシントン」、強襲揚陸艦「アメリカ」、駆逐艦「デビッド・M・ショップ」、巡洋艦「ロバート・スモールズ」が参加。英国海軍は空母「プリンス・オブ・ウェールズ」、駆逐艦「ダントレス」、フリゲート「リッチモンド」などを派遣した。スペインのイージス艦「メンデス・ヌニェス」、ノルウェーのフリゲート「ロアール・アムンセン」、豪海軍の駆逐艦「ブリスベン」も加わった。
続いて、英国海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」がオーストラリア・ダーウィン港に寄港した際、英国防相ヒューと豪州のマラス国防相が艦上で会談し、「台湾海峡で紛争が発生した場合、英国は太平洋での作戦に備えている。必要とあれば、英国と豪州は共に戦う」と明言した。これに呼応するかのように、中国人民解放軍東部戦区は7月30日午前8時15分から、J-16戦闘機、空警-500早期警戒機、無人機など計33機を出動させ、そのうち23機が台湾海峡の中間線を越え北部・中部・西南空域へ進入。海軍艦艇と連携し、7月としては4度目の「聯合戦備警巡」を実施した。共軍は軍事行動を通じて、英国が中国に対抗する意志を示すための外交および政治的力量の延長サポートを表明した。
台湾外交部によれば、英国の前首相ボリス・ジョンソン氏は8月4日から5日にかけて「二岸交流遠景基金会」の招きで「凱達格ランフォーラム:2025年印太安全対話」に出席し特別演説を行った。滞在中、ジョンソン氏は賴清徳総統と会談し、前総統の蔡英文氏も訪問。林佳龍外交部長による晩餐会にも出席した。賴総統にとっては、過去に中南米歴訪を断念し米国通過もできなかった経緯を踏まえ、国際的な発信の機会となった。8月5日の開幕式で賴氏は「台湾は威権主義の脅威の最前線に立つ民主主義の先鋒だ」と述べ、中国の国際秩序への挑戦に言及し、民主国家との連携強化を訴えた。
ジョンソン氏は演説で「大多数の台湾人は即時独立を望まず、現状維持と民主・自由の保護を求めている。現状を変えようとしているのは台湾ではなく北京だ」と指摘。中国が2027年までの台湾支配を視野に軍事的威嚇を続けていると警告し、「西側は台湾への圧力強化に対抗し、経済連携を深めつつ退却や屈服をせず北京に屈してはならない」と強調した。また、西太平洋での英国空母打撃群による合同軍事演習がこうした主張を裏付けるとも述べた。
中国国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は8月6日夜、賴氏の発言を「台独分裂の立場を固守し、外部勢力と結託して独立を謀り、武力を背景に現状変更を図る誤った路線だ」と非難。「平和の破壊者」「戦争の扇動者」と批判した。
翌7日、台湾国防部は、中共軍がJ-16戦闘機や空警-500など計47機を出動させ、そのうち32機が中間線を越えて台湾北部・中部・西南・東部空域に進入、海軍艦艇と「聯合戦備警巡」を実施したと発表。さらに8日には57機・艦艇6隻、公務船4隻が活動し、そのうち38機が中間線を越えた。9日も54機・艦艇6隻・公務船2隻が確認され、47機が中間線を越えていた。筆者は8日、花蓮でF-16戦闘機の頻繁な離着陸音を終日聞き、翌9日には通常運用に戻ったことを記している。
ただし、活動規模は「中度偏低強度」に分類される。2023年5月に台湾支持を表明するトラス前首相が訪台した際、中共軍の反応は最大で航空機24回・艦艇5隻にとどまり、その半数が中間線を越えただけだった。今回の反応はジョンソン氏の影響力をトラス氏以上と見なす中国側の認識を反映している可能性がある。
また、国防部の情報によると、 8月5日、中国軍の主力戦闘機15機が馬祖島南東から東引島北東、さらに台湾北部空域まで活動。そのうち7機は東引島北東で台湾海峡中間線北段を越え、台湾北方から尖閣諸島北方にかけて防空識別圏(ADIZ)の北東縁に進入した。
6日には主力戦闘機12機が東引島から馬祖島南東の海峡西側空域に出動し、そのうち11機が海峡北段を越えて台湾北方から尖閣諸島西北の遠方空域へ向かった。 7日には補助戦闘機1機が尖閣西北の空域に現れ、さらに主力・補助戦闘機および無人機計31機が浙江省と福建省の間から福建東山島南東の海峡西側空域まで展開。そのうち13機が海峡の北・中・南段全域で中間線を越えた。また、日本側情報によれば同日、無人機1機が東シナ海から尖閣西方を南下し、台湾と与那国島の間を通過して花蓮南東沖で旋回後、折り返した。 8日には主力戦闘機11機が尖閣西北から北方空域、防空識別圏の北東縁で活動している。
これらの動きは戦術的には日中間の尖閣諸島領有権争いを意識し、中国海警や海軍部隊の活動を支援する狙いがあるとみられる。戦略的には米・英・日など多国による西太平洋フィリピン海での合同演習や、宮古海峡封鎖を想定した訓練への対抗措置とも考えられる。
浙江海事局は8月7日午後3時10分、「浙江東方海域で8月8日正午から9日午後6時まで軍事活動を行う」と発表。範囲は象山港南東から台州市南東にかけての8地点を結ぶ約2,017平方キロ(長さ約138キロ)で、形状や位置は2023年5月9日に実施された1,866平方キロ規模の訓練海域と酷似している。9日午前11時1分、同局は活動終了を告知。この海域設定から、長距離兵器の発射訓練を行い、米日などの軍事同盟への牽制を意図した可能性がある。
報道によれば、8月2日午後から3日午後にかけて、中国海警の「3102」船が台湾の東沙島(英語名プラタス諸島)領海や周辺海域に侵入。その後、3日から5日にかけて台湾西南空域は天候不良だったため、中国軍機の活動は台湾西部海峡や北部空域が中心となった。 6日には運-8対潜哨戒機1機が防空識別圏西南端から屏東県小琉球西南沖の広範囲で哨戒。7日には主力・補助戦闘機と無人機計22機が同空域から南南西方向の広大な西南海域で活動。8日には32機が東沙島北東から西南端、さらに南南西空域に展開した。
特に7日の「聯合戦備警巡」では機艦を組み合わせて台湾を半包囲する態勢を構築し、西南空域での航空戦力を強化すると同時に東沙島への圧力と孤立化を図った形となった。こうした多兵力展開は、以前に民間の高級退役将校が行った兵棋演習で想定された「中国軍による東沙島奪取シナリオ」と一致する部分があり、今後も注視が必要とされる。