台湾を含む世界各国が、米国のドナルド・トランプ大統領による「相互関税」問題に悩まされる中、トランプ流の交渉手法をいかに見抜き、対応するかが注目されている。日本のメディア人・西村博之氏は、危機感を演出し、敵意を煽ったうえで「救世主」の立場から過剰な要求を突き付けるという手法が関税交渉にも用いられていると指摘する。トランプ氏は貿易赤字を国家的危機と位置付け、「不公平」な国に高関税を突き付けて取引を迫っているという。
トランプ流を見抜く方法
西村氏は5日付の日本経済新聞電子版のコラムで、日米・米EU間の関税交渉が一段落した後、米国が8月7日に新たな相互関税率を発動し、日本とEUに15%の関税を受け入れさせ、巨額の対米投資を約束させたことを「トランプにとっては加点材料だが、米経済に不利をもたらし、米国の信用も損なう」と批判した。「貿易赤字は悪」「関税で製造業は復活する」といった主張にはほとんど根拠がなく、一連の関税騒動は「詐術」に近いと断じた。
西村氏によれば、トランプ氏は交渉過程で虚実織り交ぜた戦術を巧みに操る。代表的なのは、相手を押し込む「ハードボール」戦略の典型であり、その柱の一つが、常識を超える高い要求を最初に突き付ける「アンカリング効果」だ。例えば、4月に日本へ24%の相互関税を課すと発言し、その後15%に下げたことで「合理的」に見せ、合意を引き出すという心理的な「互恵原則」を利用している。

トランプ交渉術の核心
もう一つの柱は「締め切り」戦術で、期限を過ぎれば条件が大幅に悪化すると脅し、各国を交渉に駆り立てる。これに「応じなければ高関税」という「最後通牒」戦術を組み合わせる。英国のように早期合意した国は優遇され、他国には「機会を逃す恐怖」を植え付ける。多国間で同時進行する難易度の高い交渉自体が「トランプ劇場」の舞台装置であり、注目を引きつけ交渉ムードを盛り上げる。この手法は、不動産業で顧客や投資家と同時に向き合ってきた経験に基づくものだという。
個別交渉では「泣き落とし」と「強硬策」を使い分ける「アメとムチ」戦術も顕著で、トランプ氏本人や商務長官ルートニック氏が「強硬役」を演じ、財務長官ベッセント氏が「融和役」を務めて着地させる分業体制を取る。さらに「権限限定」戦術として、最終決定権は大統領にあることを理由に譲歩を拒む。ルートニック氏は韓国に対し、トランプ氏の裁定前にすべてのカードを示すよう求めた。 (関連記事: 日米関税合意が暗礁に 「戦国時代」突入の日本政治に波紋 | 関連記事をもっと読む )
また、ベトナムとの交渉のように、まだまとまっていない案件を「合意済み」と発表するのも常套手段だ。トランプ氏の伝記作家でピュリツァー賞受賞者のマイケル・D・アントニオ氏によれば、こうした発表は相手に期待を抱かせて拘束すると同時に、最終段階でより有利な条件を引き出す狙いがある。日米間で自動車関税を15%に引き下げ、相互関税の負担軽減策を実施するという合意が進まないのも、この戦術と関係している可能性があるという。
