中国軍が表向きは軍事力を誇示し、新型兵器を続々と公開している一方で、内部では近年まれに見る指導層の混乱が進んでいる。米紙ニューヨーク・タイムズは10日、中央軍事委員会(中央軍委)の副主席を含む高官が相次いで失踪や調査対象となり、習近平国家主席が自ら昇進させた将軍でさえ例外ではないと報じた。この結果、中央軍委では複数の空席が生じ、中国軍の腐敗の深刻さが露呈しただけでなく、台湾への武力行使能力にも疑問が生じている。
北京の中国人民革命軍事博物館には、習主席の肖像が目立つ位置に掲げられ、2027年の人民解放軍創設100周年までに全面的な現代化を達成するという壮大な目標を想起させる。しかし、海軍の遠洋航行や核弾頭の増強、台湾周辺での航空機飛行による示威が続く一方で、軍最高指導部には大きな亀裂が走っている。
中国人民解放軍は近年、最新鋭のステルス戦闘機や上陸艦を次々と導入。2隻の空母は西太平洋で高強度演習を行い、遠洋作戦能力の向上を誇示した。しかし、こうした外向けの強さとは裏腹に、内部では指導部の不安定さが際立っている。
中央軍委、7席中3席が空席
高官失脚の中でも衝撃的だったのは、中央軍委副主席の何衛東氏の「失踪」だ。委員会で第2位の地位にある彼は、長期間公の場に姿を見せず、説明もない。この異常な欠席は、政治的問題や調査対象になっている可能性を強く示す。
同様に、軍の政治工作を統括していた前中央軍委委員の苗華氏も、昨年「重大な規律違反」で調査を受けた。この言葉は中国共産党の政治用語で、通常は汚職や政治的忠誠心の欠如を意味する。米シンクタンク「ジェームズタウン財団」によれば、2023年以降、人民解放軍や国防産業分野で20人以上の高官や将官が失脚している。
今回の粛清の特徴は、失脚した多くの将官が習主席の就任後に抜擢された人物であることだ。習派とされる側近の失勢は、権力構造の動揺を示すだけでなく、10年以上にわたり反腐敗運動を進めてもなお、人民解放軍の内部が習氏にとって制御困難な存在であり続けていることを浮き彫りにしている。
米アメリカン大学で中国軍政を研究するジョセフ・トリギアン副教授は「習近平氏は、自ら昇進させた人物の失態には特に怒りを覚えるだろう。軍の掌握は習氏にとって死活的であり、越権行為と見なされるものは徹底的に排除する」と指摘している。
軍方の忠誠危機
ニューヨーク・タイムズは今回の人事動揺の核心について、習近平国家主席が抱える二つの深い不安を指摘する。一つは軍の実戦能力、もう一つは将官が自分と中国共産党に対して絶対的忠誠を保つかどうかだ。2027年は習氏が4期目を目指す節目であり、米国側が中国に台湾攻撃能力を備える期限とみなす年でもある。そのため、軍の忠誠確保は習氏にとって不可欠な課題となっている。
忠誠危機を防ぐため、軍内部では思想統制の強化が進む。中央軍委は先月、「流毒影響を完全に排除し、政治幹部のイメージを再構築する」とする新規則を公布。軍機関紙・解放軍報は、前例のない頻度で「絶対忠誠」を求める論評を掲載している。