台湾で7月26日に行われた大規模なリコール投票(通称「726大リコール」)について、日本の主要メディアが相次いで批判的な論調を示している。保守系・リベラル系を問わず、いずれもこの政治行動に否定的な立場を明確にしており、日本世論における頼清徳政権への信頼危機が拡大していることを浮き彫りにした。
東京大学東洋文化研究所特任研究員の林泉忠氏は、自身のFacebookで警鐘を鳴らし、「日本世論による頼清徳氏の政治スタイルへの否定的評価が表面化しつつあり、頼氏は日本の信頼を失い始めている」と述べた。
右派寄りメディアも異例の批判 「野党勢力排除」への懸念
林氏によれば、今回のリコール後、従来は民進党に比較的友好的とされてきた右派寄りの有力紙までもが頼氏への批判を展開している。『読売新聞』は社説で「台湾がリコール投票、野党排除の意図は否決」と題し、その正当性を正面から否定。「目的は野党勢力の排除にある」と指摘し、運動の合理性を徹底的に否定する異例の強い論調を打ち出したという。
社説はさらに「頼氏には与野党の対立を煽るのではなく、対話によって社会の亀裂を修復することを望む」と述べ、「頼政権の責任は重大」と総括。林氏は「『読売』が台湾の指導者をこれほど直接的に批判するのは極めて珍しい」とし、その背景に注目すべきだと語った。
「陳水扁第二」か──『産経』も同調批判
林氏の予想通り、4日後には『産経新聞』の重要コラム「地球コラム」で前台北支局長の田中靖人氏が「頼総統は陳水扁第二か?」と題する論考を発表。ここでも頼氏が投票前の「十講」の第二講で述べた「不純物」発言を名指しで批判し、『読売』社説と同様にリコールの目的が在野勢力排除にあるとする見方を示した。
林氏は、『読売新聞』が日本国内最大の発行部数を誇り、世界的にも有数の大新聞であること、『産経新聞』も『朝日』『毎日』『日本経済』と並ぶ五大紙の一つであることを指摘。いずれも中道右派寄りの論調で、長年民進党に比較的好意的とされてきたが、その両紙がそろって頼政権を批判したことは、日本世論の評価が確実に変化している兆候だと分析した。
林氏は「頼清徳氏が日本の信頼を失い始めているという表現は決して誇張ではない」と強調している。 (関連記事: 評論:台湾政府、無能から無頼へ 関税交渉でまさかの完敗 | 関連記事をもっと読む )
不信感は就任直後から
林泉忠氏は、日本の世論による頼清徳氏への不信感は「大リコール」に始まったものではないと指摘する。実際には、日本の主流世論や多くの台湾研究者は、頼氏が2024年1月の総統選で勝利した直後から懸念を表明していた。その背景には、安定感があり慎重な発言で知られる蔡英文氏と比較した際の頼氏のスタイルがある。2024年の火薬臭漂う「5月20日就任演説」から、今年3月に自ら発表した「五大国安脅威と17項目の対応戦略」に至るまで、日本の主流世論における頼氏への「挑発的」という印象は変わっていない。