中国とフィリピンの南シナ海での衝突が、中国海警船(CCG-3104)と中国人民解放軍海軍052D型駆逐艦(DDG-164)の衝突に発展した。フィリピンの国営テレビやフォトジャーナリストによる複数の映像では、衝突の瞬間、中国側の艦の先端に5名の兵士が立っている様子があり、映像をスローで見ると赤い液体が噴出しているのがかすかに確認できる。しかし、その時フィリピン側の船では歓声が上がっていた。
衝突発生後、中国の主要官製メディアは相次いで「フィリピン側の挑発行為」であると主張した。党系メディア「環球時報」の胡錫進前編集長はSNS上で、「もしこの報道が事実であれば、中国の執法船の損害はフィリピンの挑発者の責任に帰すべきだ。今後、中国側はフィリピン船舶の侵入行為に対し、より断固たる反制措置を取り、挑発の代償を払わせる」と述べた。
その後、中国の複数の部門が相次いで声明を発表した。中国海警局は「当日、フィリピンは複数の海警船や公務船を動員し、漁船への補給を名目に、中国側の度重なる説得と警告を無視し、黄岩島付近の中国海域へ強行侵入した」と発表。外交部の林剣報道官も「事実は再び、フィリピン側による海上での意図的な権利侵害と挑発こそが、情勢を緊張させる根本原因であることを示した。中国はフィリピンに対し、侵害と挑発を直ちに停止し、中国の正当な権益を守る断固たる決意を試すべきではない」と警告した。
これに対し、フィリピンのマルコス大統領は「フィリピンの巡視船は同海域での活動を継続し、自国の主権的権利を維持・行使する」と述べた。
南シナ海衝突で緊張鮮明 紙切れ同然の主権裁定

中国とフィリピンの南シナ海をめぐる衝突は、すでに十年以上続いている。発端は2012年、黄岩島をめぐる対立であった。両国の艦船が黄岩島海域で対峙し、中国は同島が九段線内に位置し、主権は中国に属すると主張。一方、フィリピンは独立時から黄岩島を実効支配し、管轄権を行使してきたと反論した。
その後、中国は西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島の全島礁および周辺海域を管轄する海南省三沙市を設置し、南シナ海における主権を既成事実化した。北京は国連ハーグ仲裁裁判所の判決を一貫して認めず、西側諸国に対しても南シナ海問題で干渉しないよう警告してきた。
南シナ海での中国と西側の摩擦は近年始まったものではない。2001年には、いわゆる「81192衝突事件」(中米軍用機衝突事件)が発生。米軍機との交戦で中国空軍パイロットの王偉氏が死亡し、中国国内では「人民英雄」として毎年追悼されている。この事件は、同海域が戦略的要衝であることを改めて示した。
南シナ海をめぐる駆け引きは、大国間における海洋主権の新たな争いを浮き彫りにしており、今後も中国と周辺諸国の緊張の火種となる。1949年に中国共産党が中国大陸を掌握した際、毛沢東氏は海洋主権を重視したが、当時の海軍能力の制約から領海幅を12カイリに設定していた。