来年度の台湾総予算では国防費が9,495億元(約4.65兆円)に達し、1兆元に迫る過去最高水準を記録、GDP比で3.32%に相当する。この国防費の増額が議論を呼ぶ中、米紙《ワシントン・ポスト》は、ドナルド・トランプ米大統領が中国の習近平国家主席との「貿易協定」と米中首脳会談を模索する過程で、台湾向けの4億ドル超の軍事援助を承認しなかったと報じた。
米在住の学者・翁履中氏は25日、フェイスブックで、元国連大使で国家安全保障担当補佐官を務めたジョン・ボルトン氏の論考「Trump may be abandoning Taiwan to China’s tender mercies(トランプは台湾を中国の好きにさせようとしているのではないか)」を引用。ボルトン氏はこの報道に「極めて憂慮すべきだ」と述べ、ホワイトハウスはまだ最終決定を下していないとしつつも、トランプ氏が中国との大型貿易合意を優先し台湾の利益を犠牲にする可能性があると指摘した。軍事援助だけでなく、トランプ氏が意図的に北京へ接近している証拠もあるという。
台湾にとっての深刻なリスク
翁氏によれば、ボルトン氏は論考の中で、台湾は米国の第7位の貿易パートナーであり、世界の先端半導体製造に不可欠な存在だと強調。一旦中国が台湾を掌握すれば、アジア太平洋の戦略地図は塗り替えられるだけでなく、世界的なテクノロジー供給網にも深刻な影響が及ぶと警告した。
さらに、台湾にとってより大きな懸念は「政治的譲歩」である。トランプ氏が《上海コミュニケ》を修正、あるいは一方的に再解釈し、中国の台湾主権を認めるような行動に出れば、台湾の政治的存続は根本から揺らぐ。特にアジアにおいては「米国が実質的に台湾を放棄し、北京に委ねた」と解釈されるだろう。
翁氏は、ボルトン氏はすでにトランプ氏と決裂しているが、ワシントンの政策決定圏で彼が掴んでいる危機感は軽視できないと述べた。これは単なる一人の論評ではなく、トランプ氏が再びホワイトハウスに戻った場合の台湾政策をめぐる、一連の警鐘の一部とみるべきだとした。
ボルトン発言のリスクとトランプの反応
翁氏はまた、ボルトン氏はすでに影響力を失い、多くのワシントン関係者から「信頼できない人物」と見られているため、彼の発言が直接政策を左右することはないと指摘。ただし、その発言は実際に存在する不安の空気を映し出しているとした。
特に注意すべきは、ボルトン氏が台湾の与党と良好な関係を築いてきた点である。この「外交資産」は、トランプ氏が再登場する文脈ではむしろリスクとなり得る。かつての側近が「トランプは台湾を切り捨てる」と繰り返し主張すれば、トランプ氏は「自分に不利な世論操作」と受け止め、台湾への怒りや反発に転じる可能性があるという。
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台湾が直視すべき3つの現実
翁氏は強調する。華府での発言がどう解釈されようとも、台湾は3つの現実を直視しなければならない。