台湾・花蓮県の馬太鞍渓で23日午後に発生したせき止め湖の越流は、24日にも再び発生し、下流の光復郷で被害が拡大した。これまでに洪水で台9線の馬太鞍渓橋が流失、市街地は黒い泥流に飲み込まれ、死傷者が多数出ている。依然として100人以上が行方不明となっており、中央・地方政府による救助活動が続くなか、せき止め湖そのものの潰壊リスクが大きな懸念となっている。
馬太鞍渓のせき止め湖の現状とリスク
部落の若者によれば「湖水が堰堤を侵食し続け、越流口が拡大している。完全に崩れる前に危険区域から撤退すべきだ」と警鐘を鳴らした。林業及び自然保育署(林保署)も「降雨や集水区の特性により、実際の流出量は正確に算出できない」としつつ、警戒レベルを最高の「赤」に維持している。
中央災害応変センターによると、せき止め湖の満水時の貯水量は約9100万トン。23日の越流で約6000万トンが流出し、現在は約3100万トンが残っている。水位は1時間で26〜33メートル低下し、ドローンの映像では越流口が80メートル下切れたことが確認された。湖面は縮小したが、なお2300万〜3100万トンの水が残存している。
専門家の警告
中央大学の李錫堤教授は「せき止め湖の堰堤の高さは約200メートル、つまり66階建ての高さに相当し、湖面積は140ヘクタールで石門ダムの半分に迫る規模。越流による土砂流は甚大な破壊力を持つ」と指摘した。
また、成功大学の高家俊名誉教授は「人工ダムと異なり、せき止め湖は崩落した土砂が無秩序に堆積して形成されており、構造は脆弱で空隙を含むため、連続豪雨で容易に浸食される。せき止め湖の最終的な運命は決壊であり、現段階でできるのは監視点を設置し、可能な崩壊時期を把握することだけだ」と語った。

政府と専門家の対応
現在、中央政府と地方自治体は馬太鞍渓のせき止め湖の変化を継続的に監視している。林業及び自然保育署は、堤体の規模が大きく、現場環境も複雑で山間部の奥地に位置するため、重機を短時間で投入することは不可能であり、台風や豪雨の中では工事による対策が機能しにくいと説明した。このため、現段階での重点は水量を急速に減らすことではなく、リアルタイムの監視と警報システムを通じて下流住民が早期かつ継続的に避難できるようにすることだと強調した。中央災害応変センターも、湖水は越流後に低下したものの、堤体や周辺地質は依然として不安定であり、再び崩落や越流が発生するリスクが残っているため、当面は監視と避難によって被害を最小化するしかないと指摘している。
- 監視強化:水位計やリモートセンシング、ドローンで堤体を常時監視。
- 警戒情報:赤色警戒区域では地方自治体を通じて住民に直接避難を呼びかけ。
- 避難措置:光復・万栄・鳳林など下流地域で予防的避難を継続。
- 工事制約:道路がなく重機の進入不可。仮に豪雨がなくても自然降雨で10月初旬に再び越流する可能性が高い。
「爆破や排水」はなぜ不可能か
一部からは「堤を爆破すべきではないか」との声も上がるが、専門家は「爆破すればダム決壊と同じく一気に水が流れ出し、下流被害が壊滅的になる」と否定した。
また、排水についても「9100万トンを60日で1/3排出するには、1日50万トン=標準プール200個分を排出する必要があり、現実的には不可能」と説明。
専門家と当局は「唯一可能な対策は監視と避難を徹底すること。早期警戒と住民の安全確保が最優先」と強調している。 (関連記事: 台湾・花蓮の洪水災害 中央と地方が責任の押し付け合い 行政院長と国民党議員が救助現場で口論勃発 | 関連記事をもっと読む )
編集:梅木奈実
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