台北と上海の「台北上海都市フォーラム(台北上海双城論壇)」を3日後に控え、台北市政府が突如、MOUの事情を理由に延期を発表した。理由については諸説あり、頼清徳政権と台北市政府が互いに責任をなすり合う展開となった。意外だったのは、民進党が神経を尖らせた点だ。この一件は、頼政権の対中政策の混乱を映し出す「鏡」でもある。片方では中国を「域外の敵対勢力」と位置づけ、「あらゆる交流は統一戦線工作だ」とする一方、もう片方ではフォーラムの頓挫による都市間交流の「中断」や完全な「デカップリング(断絶)」を懸念している。
すべて「中国の陰謀」なのか
フォーラムが行き詰まった理由について、林奕華・台北市副市長は、双方が締結予定だった2本のMOU(河川岸整備と職業技能訓練)が焦点になったと説明した。海峡交流基金会(陸委会)は「驚きと遺憾」を示したが、反応が後手に回ったとの批判も出ている。頼政権の官僚や与党議員からは歓声ではなく、自制を促す声が目立った。
現時点で、行き詰まりの要因は三つ考えられる。第一に、頼清徳政権が対中交流の申請処理で「技術的遅延」を図っていることだ。積極的に後押しはせず、かといって正面から反対も示さない――民進党政権の常套的な“膝反射”である。ただし都市間交流の断絶は望まないため、そこに焦燥感もうかがえる。

例えば、以前は「すべての交流は統一戦線」と強調していた沈伯洋・民進党立法委員は、今回はフォーラムの行き詰まりをむしろ懸念し、原因は「台湾側ではなく中国要因だ」と指摘した。型どおりで露出重視と受け取れる物言いだとの見方もある。何孟樺・台北市議は「蔣万安市長があれほど低姿勢なのは、中央の審査が理由ではなく、上海側に問題が生じたからだ」と“別解”を示し、論点はさらに錯綜した。
デカップリングか、再接続か――揺れる針路
奇妙なのは、頼政権が打ち出した「17項目」(いわゆる「頼17条」)で中国を「域外の敵対勢力」とし、軍事法廷の復活を含む対統一戦線対策を掲げている点だ。フォーラムが開けないのは、むしろその論理に合致するはずである。それにもかかわらず、矛先が台北市政府へ向けられているのはなぜか。背景には、最近の報道で「総統の対中対応に対する不満が2割増えた」とされる世論動向があり、民進党内に危機感が広がっている可能性がある。 (関連記事: 独占インタビュー》李大壮氏「台湾独立は統一の始まり」 北京は戦争望まず、頼清徳への扉も閉ざしていない | 関連記事をもっと読む )
第二に、蔣万安市長の「消極姿勢」も影響している。中国メディアの論調には、蔣氏への不満がにじむ。家柄を踏まえれば、対中交流を推進する“材料”は本来、十分にあるはずだ。だがコロナ禍以降、台北上海都市フォーラムは不安定が続く。柯文哲氏には「両岸は一つの家族」という“合言葉”があったが、蔣氏は馬英九時代の「1992年コンセンサス」に立ち返っただけで、さらに踏み込んだ積極的な語りや実務が欠けるとの評価だ。
このためか、上海側は異例の低姿勢で、発言を控え静観している。蔣氏は対岸と「安全距離」を保とうとしているフシがあり、例えば昨年、上海側が俳優の胡歌氏の来台を特別に手配した際、蔣氏はホテルで非公開に会っただけで公式の宴席は設けなかった。これに上海側が不満を抱いたともされ、ここ数年は「開幕延期」の茶番が繰り返されている。
