中国・天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議と、第二次世界大戦終結80周年を記念する北京・天安門での大規模軍事パレードは、中国の習近平国家主席が国力を誇示する舞台であると同時に、英誌『エコノミスト』はこれを「反米パーティー」と評した。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記を含む20カ国以上の首脳が一堂に会し、中国を中心に米国主導の秩序に疑義を呈する新たな国際構図が台頭しつつある。
天安門パレードと「地政学の転換点」 9月3日、北京・天安門広場で開催された抗日戦争勝利80周年の軍事パレードは、中国にとって過去10年で最大規模の軍事力誇示となった。習近平国家主席はプーチン大統領、金正恩総書記と並んで天安門城楼に姿を現し、三首脳が同じ場に立つという異例の光景は強い政治的メッセージを放った。
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩指導者が北京で中国国家主席習近平と共に9月3日の軍事パレードに参加。(写真/AP通信提供)
上海協力機構(SCO)首脳会議:「疑米論」同盟の結集 パレードに先立ち、天津でSCO首脳会議が開かれ、加盟国とパートナー国の指導者が集結した。習主席は会議で「今日の不確実性の根源は米国にある」と名指しし、貿易戦争や同盟関係の動揺を引き起こす米国外交を批判した。
参加した顔ぶれは「権威主義政権の祭典」とも言える規模となり、プーチン大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領に加え、新たに就任した イランのペゼシュキヤーン大統領も出席。さらに、2019年以来の訪中となる金正恩総書記は装甲列車で到着し、その象徴性は際立った。
中国の習近平国家主席と9月3日の軍事パレードに参加したロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記らが北京で記念撮影。(写真/AP通信提供)
意外な参加国:インドのモディ首相も 注目を集めたのは、従来は西側寄りとされてきたトルコ、エジプト、ベトナムなどの参加国、そしてインドのモディ首相の出席である。英紙『フィナンシャル・タイムズ』は「インドが親米路線から中国寄りに傾く重大なシグナル」と指摘。背景には、トランプ米大統領による外交の失策がある。トランプ氏はインドに最大50%の懲罰的関税を課しただけでなく、印パ衝突後には宿敵パキスタンに接近し、インド国内に大きな反発を招いていた。
中国が米国覇権に挑む三本柱 英誌『エコノミスト』は、習近平国家主席が「対米懐疑論」に基づく国際的な連合を主導しようとしていることについて、「決して絵空事ではない」と指摘している。その挑戦は大きく三つの分野に分けられる。
各国が安定性と予測可能性を重視する貿易分野において、中国は自らを「安定の錨」と位置づけ、トランプ前政権が引き起こした貿易戦争との対比で説得力を高めている。実際、中国は今回の会議に参加した多くの国々、さらに世界で約100カ国にとって最大の貿易相手国である。米国の貿易攻勢が世界中に波及する中で、中国の重商主義や国家資本主義は、かつてほど否定的に映らなくなっている。
もう一つの潮流は、米国の制裁に対する共通の反発である。特に米国がドルの金融システムやテクノロジープラットフォームを利用し、個人・企業・国家に対して「長腕管轄」を行使することへの懸念が広がっている。
従来、こうした制裁は国際社会から孤立した「ならず者国家」に限られていた。しかし、トランプ政権は法的な枠組みや手続きを欠いたまま、この手段を頻繁に行使するようになった。
その結果、多くの国々がドルに依存しない代替システムの模索を始めている。ロシアと中国はドル建て決済を段階的に減らしており、欧州でも「グローバル・ユーロ」構想が推進されている。完全に信頼できる国際的な代替体制の構築は難しく、特に法治の乏しい国家にとっては実現困難とされるが、それでも米国制裁に従う国は今後減少するとの見方が強まっている。
軍事面では、この連合の結束力は比較的弱い。インドは天安門での軍事パレードに不参加を決め、中印国境紛争後も中国の軍事拡張に反対している。しかし、専制国家間では安全保障協力が着実に拡大している。
ロシアと北朝鮮は宇宙・衛星分野での共同開発を進めており、さらにロシアはウクライナ問題における中国の支持を得る見返りとして、潜水艦推進やミサイル防衛など最先端の軍事技術を中国に提供しているとされる。
天安門閲兵:習近平が誇示した精緻な権力ショー 9月3日、北京の天安門広場で中国建国以来最大規模の軍事パレードが実施された。秋晴れの空の下、習近平国家主席は天安門城楼に立ち、歴史の教訓を踏まえつつ、中国を「世界平和を守り、覇権主義に反対する力」と位置づけた。
「歴史は人類の運命が共にあることを警告している。各国、各民族が平等に接し、和睦し、助け合ってこそ、共通の安全を守り、戦争の根源を消し去り、歴史の悲劇を繰り返さないことができる」。
習近平の軍閲と兵器展示 演説後、習近平は国産の紅旗検閲車に乗り、長安街を進みながら部隊を視察。「同志たち、ご苦労さま!」と声をかけると、兵士たちは「人民に奉仕!」と一斉に応じた。
その後、最新型の戦車、無人機、各種ミサイルが数万人の観衆の前を通過し、中国軍の近代化と実力を誇示した。
中国のメッセージ:新秩序の建築者 英国シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」の中国研究員、于潔氏は分析する。
「このパレードは単なる軍事力誇示ではなく、中国が発展途上国を基盤とした大国であり、新しい世界秩序の“建築者”であることを示す場だ」。
西側首脳が欠席する一方、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記が習近平と並んだことは、中国が「歴史の参加者」ではなく「秩序の設計者」であることを世界に示す強いシグナルだという。
平和演出と台湾への含意 中国側の官員は「強大な国防力を示す一方で、平和への真摯な思いを世界に示した」と語り、さらに台湾に触れて「台湾の人々も我が国の強大さを目にし、祖国への回帰を心から望むだろう」と述べた。
トランプの「補助」とアメリカの失墜 北京で盛大な軍事パレードが行われていた同時刻、米国のトランプ大統領も手をこまねいていたわけではない。彼は自身のソーシャルメディアで投稿し、米国が第二次世界大戦で日本を打ち破った功績を強調した。「多くの米国人が中国で勝利と栄光を追求する過程で命を落とした。私は彼らの勇敢さと犠牲が正当に評価され、記憶されることを望む」と述べた上で、皮肉を込めて「米国に対抗する陰謀を企てるなら、プーチン氏と金正恩氏に私の熱烈なご挨拶を伝えてくれ」と発言した。
しかし『エコノミスト』誌は指摘する。実際には、トランプ大統領の強圧的な外交政策こそが、多くの国々を中国の懐に引き寄せる結果となったのである。
同誌はさらに、今回の「北京の盛会」に参加した各国はそれぞれ異なる思惑を抱えており、上海協力機構(SCO)が北大西洋条約機構(NATO)のような軍事同盟ではないことも指摘している。これらの国々の共通点は、トランプ政権下の米国に不安を抱くか、あるいは明確に反対する点に限られ、利益の共有はむしろ少ない。しかし、利益の異なる国々を一堂に集められるのは、まさに超大国だけが示せる力である。天津や北京を縦横に行き来する世界各国の姿を、中国が主導している光景は、5年前には想像もできなかっただろう。
習近平国家主席の招待客リストだけで、中国が新たな世界秩序を支配していると証明できるわけではない。しかし、習主席が主催した「反米パーティー」は、トランプ政権の政策がいかに米国の国家利益に大きな損害を与えているかを、鮮明に示しているのである。