台湾・法務部調査局の調査官は「大統領の耳目」と称され、総統府を守る憲兵の「鉄壁」と並び称されてきた。憲兵が肉体を張って国家元首を防衛するのに対し、調査官は正確な情報を提供して政権判断を支える役割を担う。しかし今、その両者が相次ぐ不祥事に揺れている。総統を守るはずの憲兵からは中国スパイが発覚し「鉄壁」の名が色あせ、調査局でも次々と醜聞が噴出している。「詐欺グループの使い走り」「女子トイレ盗撮」「内部情報の漏洩」と不祥事が相次ぎ、陳白立局長が閉門会議で「規律!規律!規律!」と繰り返し叱咤しても歯止めはかからず、ついには2025年8月、人妻との関係を巡って騒動を引き起こす調査官まで現れた。
陳局長が就任したのは2024年5月。そのとき真っ先に掲げたのも「規律徹底」だった。しかし懸念した事態は現実となる。2025年4月、南部で東南アジアへの赴任を控えていたベテラン調査官が、かつて国安局に出向した経歴を持ちながら台南市のサーキット場女子トイレにカメラを仕掛け、18人もの女性を盗撮していたことが発覚し起訴されたのである。

調査官の不祥事続発 未成年盗撮からスパイまで
その後も不祥事は相次いだ。北部では調査官が未成年の交際相手との性行為を撮影し、《児童及び少年の福利・権益保障法》違反で有罪判決を受けた。さらに台湾民衆党の黄国昌立法委員には、市中のコンビニで未成年少女のスカートの中を隠し撮りしていた調査官がいるとの通報まで寄せられた。2025年7月には、高雄で麻薬取締を担当していた劉調査官が、詐欺グループの「帳簿回収役」を務めていたことが発覚し、詐欺とマネーロンダリングの容疑で起訴された。本人は「休日のアルバイトで家計を助けるためだった」と弁明したが、周囲を唖然とさせた。
劉調査官は7年以上の勤務歴を持つベテランで、同僚からは「調査官の世代はそれほどまでに生活が苦しいのか」との声が漏れた。その直後にも、勤務6年目の別の調査官が情報漏洩や個人情報の不正収集、資産の不透明性で立件される。この人物はあまりにずさんで、調査データを入れたUSBメモリーを民進党本部にうっかり置き忘れ、拾った人が開けると暗号化すらされておらず、党の内部資料が丸ごと流出する失態を演じた。USBはまるで「諜中諜」と化し、この調査官が再び情報活動に復帰するのは絶望的だと見られている。
追い打ちをかけるように、2025年5月には桃園市で不可解な事件が起きた。乗用車に乗っていた女性がワゴン車に急停車で進路を塞がれ、屈強な若者が「調査局の捜査だ!」と叫んだ。女性が事態をのみ込めないうちに、男たちは「人違いだ」と言い残して車で走り去った。現場は一瞬、刑事ドラマさながらの修羅場と化し、女性は恐怖で立ち尽くしたという。 (関連記事: 舞台裏》台湾・林佳龍外交部長が極秘訪比 「東京モデル」に続き第一列島線で外交加速、中国は強く反発 | 関連記事をもっと読む )

陳白立氏、風紀の乱れに頭を抱え 「規律」連呼も効果なく
調査局の不祥事が相次ぎ、陳白立局長は頭を抱えている。局務会議では繰り返し「規律!規律!再び規律だ!」と強調し、末端の職員が問題を起こせば上層部も連帯責任を負うとする「連座制」を導入。幹部に対して部下を厳しく監督するよう命じた。さらに、自ら信頼する調査官を次々と督察処長に登用し、内部の風紀取り締まりにあたらせた。