舞台裏》台湾・高雄で不安拡大 高雄・大林蒲で移転計画が前倒し 住民の健康被害と市長選をにらむ政治判断

2025-09-01 14:42
高雄の大林蒲遷村問題は長年にわたり停滞してきたが、高雄市長の陳其邁氏(写真)は最近、突然方針転換し、遷村の日程を加速することを発表した。(写真/高雄市政府提供)
高雄の大林蒲遷村問題は長年にわたり停滞してきたが、高雄市長の陳其邁氏(写真)は最近、突然方針転換し、遷村の日程を加速することを発表した。(写真/高雄市政府提供)
目次

台湾・高雄市の最南端に位置する大林蒲地区。中油第五石化工場や中国鋼鉄といった大型工業団地に隣接し、人口約3,000人の古い集落は、数十年にわたり大気汚染や健康被害に苦しんできた。住民からは10年以上前から移転要求が出ていたが、進展は遅々として進まなかった。

ところが2025年8月、高雄市政府は突然方針を転換。従来は2027年に開始予定だった土地買収協議を1年前倒しし、2026年前半に着手すると発表した。背後には住民の怒り、2026年の市長選をにらんだ政治的計算、さらには中央政府との予算調整が絡んでいる。その矢面に立つのは陳其邁市長だ。

20240226-大林蒲工業區,工廠污染,環保,煙囪,碳中和,淨零排放,淨零碳排。(顏麟宇攝)
大林蒲は重工業の工場に囲まれ、数十年にわたって大気汚染と工業の被害を受け続けてきた。(写真/顏麟宇撮影)

大林蒲「魂の人物」死去で高まる不満

大林蒲の苦境は今に始まったことではない。1970年代に工場が進出して以来、漁業と信仰を基盤としたこの集落は工業施設に囲まれ、PM2.5濃度は市街地より高く、肺腺がんや心血管疾患の発生率も顕著に高いと環境団体は指摘する。

「夜は煙の臭いで眠れず、窓も開けられない」。住民の健康被害だけでなく、不動産価値も失われ、「住めず、出られない」状況が長年続いてきた。2018年に政府が初めて移転計画を打ち出したものの、補償額や移転先をめぐる議論が難航し、実現には至らなかった。

その中で自救会会長・黄琨育氏は移転要求を先頭で訴え続けてきた「魂の人物」だった。だが、最近病で亡くなり、住民の不満は爆発。「人が亡くなっても政府は何も答えていない」との声が相次ぎ、陳市長への圧力は一気に高まった

高雄市長陳其邁27日偕同經濟部次長林全能及市府團隊,親自到小港大林蒲辦理遷村計畫(草案)第二次說明會。(圖/高市府提供)
大林蒲遷村の進捗が遅れ、陳其邁氏に重い政治的圧力を与えた。写真は陳氏が遷村計画説明会を開いた場面。(写真/高雄市政府提供)

選挙と中央の思惑 移転前倒しの背景

実は陳市長は2025年5月時点で「移転は早くても2027年」と述べていた。経済部が土地買収や補償の枠組みをまだ固めていなかったためだ。しかしわずか3カ月後、第16回移転特別会議で「2026年前半に開始」と発表。急転直下の方針転換となった。

背景には複数の要因がある。住民の怒りが爆発寸前に達していたこと、黄氏の死で抗議行動に発展しかねない状況だったことが第一の要因だ。加えて、中央政府側も態度を変え、陳市長は経済部の何晋滄次官や行政院の政務委員と協議を重ね、予算前倒しを取り付けた。

さらに大きいのは2026年の選挙だ。民進党の「南部鉄板区」と見られてきた高雄も安泰ではなく、民進党の林岱樺立法委員は司法案件を抱えつつ「暗黒勢力と最後まで戦う」と宣言。リコール連敗で党勢が落ち込む中、林氏が離党して出馬するとの噂が地元で広がっており、もし現実化すれば民進党の地盤が揺らぎかねない。陳市長にとっても危機回避のため移転前倒しは不可欠だった。

20240226-大林蒲工業區,工廠污染,環保,煙囪,電線杆,碳中和,淨零排放,淨零碳排。(顏麟宇攝)
大林蒲住民の空気汚染への不満に加え、2026年の選挙もスケジュールを加速させる重要な要因である。(写真/顏麟宇撮影)

進党「南部神話」に揺らぎ 陳其邁市長、中央に予算前倒しを直訴

地元関係者は、民進党の林岱樺立法委員が長年地盤を築いており、たとえ党の支援がなくとも家族の政治資源を背景に独自出馬できると指摘する。これは民進党にとって大きな脅威であり、高雄がもはや「絶対的な緑の牙城」ではなくなったことを意味する。2018年には韓国瑜が市長選で高雄を「青」に転じさせ、2022年には台南でも選挙が接戦となった。かつて「民進党なら西瓜を立てても当選」とまで言われた南台湾の鉄板神話はすでに崩れつつある。もし2026年の地方選挙で高雄が民進党の手から離れる事態となれば、2028年の中央政権維持は極めて困難になるだろう。

最新ニュース
舞台裏》日本訪問に続きフィリピンへ 林佳龍外交部長、異例の「マニラ・モデル」で存在感
東京・世田谷で女性が刃物で襲われ重体 男が逃走し警視庁が行方を追跡
舞台裏》台湾民進党立法委員が行政院を軽視 主計長も抑えられず 総予算説明で不満が爆発
台湾・民衆党デモ、衝突の末に終了 柯文哲元台北市長に「公平な裁判を」と求める声
世界は地震活発期へ?台湾でM7以上の強震リスク、発生確率は半数超え
舞台裏》台湾・民進党に高まる焦燥と拙い政権運営 頼清徳氏の出身派閥「新潮流」内部からも異論
沖縄ダイビング事故 台湾人2人死亡、水深30メートル海底洞窟で発見
台湾・頼清徳総統が国安チームを刷新 外交・国防の専門家と若手人材を起用し体制強化へ
天気予報》週末まで雷雨・ひょうの恐れ 台湾北部では38度予想、猛暑と台風発達に警戒を
インドネシア・ジャカルタで暴力的な抗議デモが発生 警察対応の誤りが火種に
インドネシア全土で暴動拡大 配達員死亡が引き金、国会自肥と警察暴力に国民の怒り爆発
台湾はトランプに売り渡されるのか? 元立法委員・郭正亮氏、中国の「異例の動き」に警鐘―台海戦争はウクライナ戦争以上に深刻化の恐れ
トランプ関税外交に各国が不安 シンガポール・UAE主導で新貿易連合構想、「透明でルール重視」の体制守る狙い
台湾の国防予算が過去最高に 米上院軍事委員長が訪台、NDAAで対台支援拡大を表明
スカイマーク航空、初の台湾乗り入れ 神戸-台北チャーター便ツアーをライオントラベルが発売
新クルーズ船「三井オーシャンサクラ」 2026年後半に就航へ
「北米貿易の砦」形成へ 米財政赤字40年ぶり高水準 トランプ氏の“洗産地”批判受け、メキシコが中国製品にメス
大阪万博の大屋根リング保存へ 防火規定除外案を軸に検討、9月にも結論
ネットマーブル、東京ゲームショウ2025に初出展 『七つの大罪:Origin』と『モンギル:STAR DIVE』を試遊可能に
急成長するプラントベース市場に新星 「エクリプス ミルク」9月日本初上陸
台海衝突なら20万人の在台フィリピン人をどう守るか 外相「北京に協力を求める可能性」
「誰が中国に立ち向かう決意を欠くのか」 米WSJ社説が警告 台湾は抑止に本気でも米国は武器供与遅延に課題
台湾に毎日240万件のサイバー攻撃 米研究所「北京は兵を使わずネット攻撃で統一狙う可能性」
抗日戦争80年 中国共産党の貢献は誇張か 米大学研究員・郭岱君氏「紅軍の行動が蔣介石を後押し」
台湾の蘇鈺淳監督、新作『メイメイ』がPFFで上映決定 《風傳媒》が荒木啓子総合ディレクターに独占取材
舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」 全プログラム発表 10月1日開幕へ
万博「WORLD YOSAKOI DAY」開幕 濵田知事「高知の熱気を世界へ」
万博インド館で「Kochi-DAY」開催 日印をつなぐ“二つのコーチ”交流セレモニー
Peatix、コミュニティの力を社会へ 新体制・アワード開催・夏の自由研究特集で展開加速
六福村や内湾老街を超えた!台湾・新竹で199万人を魅了する絶景スポット
エキュート品川が開業20周年 限定スイーツや「高輪はちみつ」商品、スタンプラリーも展開
静岡にバンダイ新工場併設「BHC PDIIミュージアム」誕生 プラモデル製造体験でホビー文化を発信
英国空母打撃群「プリンス・オブ・ウェールズ」東京寄港 駐日英国大使館が日英関係記念動画を公開
「PFFアワード2025」最終審査員が決定 795本の応募から22作品を選出、10代監督作も入選
PFFプロデュース第30回作品『メイメイ』、第47回ぴあフィルムフェスティバルで世界初上映へ 姉妹俳優が豊橋ロケで共演
台湾頼清徳総統の不支持率が6割超 日本の小笠原欣幸教授「民進党は極めて厳しい局面に」
舞台裏》蔡英文前総統の元側近エリート・鄭亦麟氏 再生可能エネルギー汚職疑惑、検察の盗聴で発覚
エキュート大宮で「SDGsフェア」開催 アップサイクル雑貨やグルメ30商品で社会貢献
夏珍コラム:台湾リコール全敗で窮地 民進党・柯建銘氏は「どこで誤った」のか
TSMCの2ナノ技術流出事件、3人を起訴 最長14年の実刑求刑へ
陸文浩の見解:中露潜水艦が東シナ海で初の連合巡航 同日に台湾海峡で「海空一体演習」 その狙いとは
北京観察》九三軍事パレードを前に日中で世論戦勃発 日本は560億円で国際イメージ刷新、中国メディア「何を恐れているのか」
台湾リコール敗北の余波 頼清徳総統と民進党院内総務・柯建銘の対立が表面化
食料安全保障とブルーエコノミーで日ア連携強化へ TICAD9公式サイドイベント開催 石破首相が登壇
台湾籍の男を逮捕 帰宅途中の女性を500m尾行し都内マンション侵入か 警視庁が捜査
賴清徳氏、党団改選を示唆 柯建銘総召に辞任圧力 民進党内で「反柯」と「同情」が交錯
米政府、インテルに57億ドル出資し9.9%株取得 CHIPS法で半導体主権を確保
【新新聞】トランプ政権、医薬品輸入関税を大幅引き上げへ ジェネリック協会は生存力強化策を政府に要請
累計50万人動員の初音ミクイベント「マジカルミライ」 2025年は没入型ライブ&展示で最大規模開催、テーマは「星河一天」
トランプ政権、留学生・記者ビザに最長期限を設定 中国人記者は90日限定