2025年以降、台湾の労働市場は再び「無給休暇」の影に覆われている。労働部の統計によると、9月の減班休業者数は急増して7334人に達し、10月には8500人を突破して近年の最高水準となった。この急激な増加の背後には、国際的な要因が大きく関係している。
米国は4月、台湾製品に対する報復的な「対等関税」を最大32%まで引き上げると発表し、その後の交渉で暫定的に20%へ引き下げられたものの、輸出依存度の高い製造業にとっては依然として重い打撃である。特に中部地域に集中する金属加工、工作機械、伝統産業系製造業が直撃を受けた。
関税率は現在20%に抑えられているものの、金属製品や機械、工作機械、部品製造などの輸出産業には依然として大きな負担となっている。これらの産業が集積する中部では、労働部の統計によれば、台中・彰化・南投の3県市だけで9月に4000人以上の労働者が無給休暇を余儀なくされており、全国のほぼ半数を占めている。
アメリカのトランプ大統領による世界的な対等関税の導入により、台湾の輸出指向産業は重荷を抱えることとなった。(写真/AP通信提供)
関税と国際景気悪化、企業の無給休暇人数が9月に急増 労働部の統計によれば、減班休業者数の推移をみると、2025年の動向は極めて明確である。4月時点では1600~2000人程度にとどまり、低水準を維持していたが、5月には2200人を超え、前月比で約500人増加。6月にはさらに2800人台に達し、5月より約600人増加した。7月にはついに3000人を突破し、2800~3100人の範囲で推移するなど、上昇傾向が続いた。
8月には3934人まで増加し、7月比で約700人の増加となった。伸び率自体は大きくないものの、9月の急増を予兆する動きであった。そして9月、数値は一気に跳ね上がり、3900人台から7334人へと倍増。1か月で3400人以上増加し、年間で最大の単月上昇を記録した。10月も状況は悪化の一途をたどり、全国の減班休業者数は8505人に達し、9月比でさらに1100人増となった。つまり、4月から10月までのわずか半年足らずで、全国の無給休暇者数は4倍に膨れ上がったのである。
9月の急増は偶然ではない。まず、米国の対台湾関税政策は4月に発表されたものの、輸出受注には1四半期から半年の遅延効果があり、実際の影響が顕在化するのは第3四半期末となる。次に、9月は欧米の需要減速と中国市場の低迷が重なり、世界的な消費不振が台湾の輸出をさらに圧迫した。加えて、中部地方の伝統的製造業は国際市場への依存度が高く、金属加工や工作機械など単価が高く在庫負担の大きい業種が多いため、需要が落ち込む局面では労働時間の削減によってコストを抑える傾向が強い。
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無給休暇毎月人数が徐々に増加、その中で9月は数字が直接倍増し、3900人以上から7334人に急増した 。(グラフ/賴慧津作成)
無給休暇の実態は統計に表れず 政府の支援策では救い切れない可能性 さらに、9月は企業の決算期にあたる重要な月でもある。関係者によれば、多くの企業が帳簿上の支出を抑えるため、この時期に人件費を圧縮する傾向があるという。加えて、労働部が8月に打ち出した「安定雇用対策」も、適用には事業主からの通報が必要であるため、報告を行わない、あるいは様子見の姿勢をとる企業が一定数存在し、労働者が直接的な恩恵を受けにくい構造となっている。こうした複合的な要因が重なった結果、9月の減班休業者数は跳躍的に増加したのである。
労働部は急速に拡大する減班休業に対応するため、8月13日に「国際情勢に対応した労働者安定雇用支援措置」を発表し、同年8月1日にさかのぼって施行した。政策内容は、賃金差額補助、リスキリング支援金、企業による訓練費助成、さらには再就職支援や若年層の雇用促進策までを網羅し、労働者への給与支援から企業への教育奨励まで幅広く設計されている。
しかし、制度運用の現場では多くの課題が残る。補助金の申請主導権が依然として企業側にあり、労働者が支援を受けるには、まず企業が減班休業を報告しなければならない。もし企業が協力を拒む、あるいは意図的に情報を隠す場合、実際に勤務時間が削減されていても労働者は補助を受けられない。また、対象業種が9つの主要製造業に拡大されたとはいえ、それ以外の業種に従事する多くの労働者は適用外のままである。このような制度上の制約が重なり、8月の政策発表後も減班休業者数は減るどころか、むしろ前期を上回る増加を示した。
労働部が安定雇用措置を導入しているが、企業が協力を拒んだり故意に隠した場合、労働者が実際に減班されても補助は受けられない 。
(写真/柯承惠 撮影)
9月の無給休暇人数が急増 労働部が緊急対応を強化 9月の減班休業者数が急増するなか、労働部は緊急対策として「減班休業労働者リスキリング計画」を発動した。この計画の核心は、勤務時間が削減された労働者に対し、空いた時間を活用して労働部が認定する無料の職業訓練に参加するよう促すものである。これにより雇用の安定を図るとともに、専門技能の向上を支援することを目的としている。事業所側に訓練を実施する意向がない場合でも、労働者は地方分署が実施または委託する在職訓練に個人で申し込むことができ、さらにデジタルプラットフォームを通じてオンライン講座を受講することも可能で、参加のハードルを大幅に下げている。
また、減班前後で給与が減少した労働者は、実際の訓練時間に応じて手当を申請でき、月額の上限は1万7210元と定められている。給与差が比較的小さい層にも配慮し、月額投保給与が2万8590元から3万300元の全日雇用者については、月最大2280元の追加手当を支給する仕組みが設けられた。さらに、労働者が属する業種が「雇用安定措置」の対象産業に該当する場合、給与差額の最大7割を補助として受けられるうえ、訓練手当との併用も可能で、実質的な収入を従来水準に近づけることができる。
一方、労働部は企業支援も強化した。これまで事業所が実施する減班労働者向け職能訓練への補助上限は190万元であったが、今回は350万元へと引き上げられた。景気低迷期においても企業が人材育成に投資し続け、人的資本の流出を防ぐことを狙いとしている。労働部は、本計画が労働者の雇用保障と企業の経営耐性を両立させるものであり、一方で労働者の技能向上と競争力強化を支援し、他方で企業の人員体制を維持して景気回復時に迅速な生産再開を可能にする、と強調している。
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4月から企業は悲鳴を上げていたが、労働部は反応が遅かった 同時に、労働部の洪申翰部長も急きょ市民 を安心させる措置を取り 、10月に自ら「労働者の安定雇用支援措置に関する企業交流座談会」を主宰した。会場は中彰投分署に設けられ、財政部や経済部の代表も登壇し、税務・産業・労働の三方面から企業の要望に応える姿勢を示した。しかし、関係者によれば、同分署はすでに4月、彰化県員林で雇用主向けの意見交換会を開催しており、その時点で多くの企業がすでに米国の関税措置への懸念を表明していたという。それにもかかわらず、政策対応は十分とは言えず、参加者の一部は「労働部は事前の精密な影響評価も迅速な介入も行わず、9月・10月に減班休業者が急増してからようやく慌ただしく『安定措置』の座談会を開いた」と指摘している。
今後の動向については、依然として不確実性が残っている。労働部の担当官は、短期的には減班休業者数が高水準で推移する可能性が高いとみている。多くの企業が少なくとも3か月間の減班協定を結んでおり、すぐに解除される見通しは立たないためである。中期的には、国際需要が徐々に回復し、補助政策の効果が浸透すれば人数が減少に転じる可能性もあるが、米国が再び貿易政策を引き締め、中国市場の低迷が続き、さらに新台湾ドルの為替動向が輸出に不利に働く場合は、減班休業者数が高止まりするリスクもある。
つまり、労働部の各種対策が実際に減班休業者の増加を抑えられるかどうかは、外部の景気動向に大きく左右される。もし国際的な受注が回復しなければ、補助金はあくまで一時的な延命策にとどまり、根本的な解決には至らない可能性が高い。
労働部長洪申翰氏(写真にて)10月自ら企業座談会を主催したが、参加者は労働部が事前に評価と介入の準備をできていなかったため、無給休暇発生後の応急対応で慌てていると指摘している。
(写真/顔麟宇撮影)
労働者が収入を失う状況が緊急課題 無給休暇の常態化を避けることが当面の最優先事項 台湾と米国の関税交渉は現在も続いており、暫定的に設定された20%の関税率が維持されるか、今後再び調整されるかは不透明な状況にある。行政院はこれに対し、「米国との協議を継続している」「労働者の権益を全力で守る」「情勢を見極めつつ対策を柔軟に見直す」と説明し、企業と労働者に「ともに難局を乗り越えよう」と呼びかけている。しかし、労働者にとって国際交渉の結末が見えるのはいつになるか分からず、当面は賃金の縮小や労働時間の削減という現実に直面せざるを得ない。
現在、減班休業者の急増が顕著となっており、政府の政策設計と労働市場の実情との間に大きな乖離があることが浮き彫りになっている。交渉の行方は台湾の長期的な輸出環境を左右する要因となるが、当面の課題は、労働者の生活をいかに安定させ、無給休暇の常態化を防ぐかにある。これこそが、今まさに政府が取り組むべき最も切実な課題である。