米連邦裁判所がオレゴン州州兵の動員を明確に禁じたにもかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は再び連邦政府と地方政府の対立に火をつけた。トランプ氏は5日深夜、数百人規模のカリフォルニア州兵を派遣し、州境を越えてオレゴン州ポートランド市に進入させるよう命じたのである。この行動は裁判所の判断を公然と無視するものであり、カリフォルニア州とオレゴン州の両州知事が激しく反発した。両知事はいずれも民主党所属で、トランプ氏を「軍を政治的道具として乱用している」と非難し、州の権限と憲法の精神を守る決意を示した。
この一連の騒動の発端は、移民・税関執行局(ICE)庁舎前で続く抗議活動への対応を名目に、トランプ政権がオレゴン州州兵の動員を企図したことにある。だが、オレゴン州連邦地方裁判所のカリン・イマガット判事は直前に、暫定的な差止命令を出してこの派遣を阻止していた。イマガット判事は決定文の中で、ポートランドの抗議活動はおおむね小規模であり、「重大な暴力や破壊行為は発生していない」と指摘。そのうえで、大統領の行動はすでに合衆国憲法の権限を逸脱している可能性があると明言した。
2025年10月4日、シカゴ市南西部のブライトン・パーク地区で抗議デモが発生した。これは同日午前、米国境警備隊が同地区で女性一人に発砲し負傷させたことを受けたものである。シカゴ警察や元連邦法執行官らが現場でデモ参加者とにらみ合う緊迫した場面となった。(写真/AP通信提供)
2025年10月4日、米オレゴン州ポートランドで、米国土安全保障省の法執行官が移民・税関執行局(ICE)庁舎前で抗議者らと対峙した。警察は群衆を解散させようと催涙ガスを使用した。(写真/AP通信提供) イマガット判事の決定が下されてから、わずか五時間半後、トランプ政権は迅速に「プランB」を実行に移した。オレゴン州司法長官ダン・レイフィールド氏によると、すでに連邦政府の指揮下にあるカリフォルニア州兵101人が、その夜のうちに空輸でオレゴン州へ送り込まれたという。オレゴン州のティナ・コテック知事は「州政府は連邦政府から事前に一切の通知を受けていない」と強く反発した。
コテック知事は「事実は変わらない。オレゴン州に軍事介入は不要であり、ポートランドで反乱は起きておらず、国家安全保障も脅かされていない」と断言。「彼(トランプ氏)がどこから情報を得ているのか、もはや関心はない。なぜなら彼は現場の実情を意図的に無視しているからだ」と語った。さらにポートランドのキース・ウィルソン市長は「今回の派遣は常識を大きく逸脱している」と批判し、連邦当局が抗議の規模を誇張し、「本来は平和的だった状況を煽動しようとしている」と非難した。
両州知事が声をそろえて非難:「これは軽率かつ権威的な行為だ」 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、トランプ政権が同州の州兵を動員したことに対し、強い怒りを表明した。ニューサム氏は声明で「統合軍最高司令官が、米国民に対して軍を政治的武器として用いている」と非難し、「われわれはこの闘いを法廷へ持ち込む。しかし、米国大統領によるこのような軽率かつ権威主義的な行為に、国民は沈黙してはならない」と訴えた。
これに対し、ホワイトハウスは大統領の行動は合法だと主張している。報道官のアビゲイル・ジャクソン氏は、「ポートランドで発生した暴力的な騒乱や法執行官への攻撃を受け、連邦の資産と職員を守るために大統領は正当な権限を行使した」と説明した。さらにジャクソン氏はニューサム知事を侮蔑的なあだ名で呼び、「法を守る市民の側に立つべきだ」と挑発した。
国防総省の報道官ショーン・パーネル氏も、約200人のカリフォルニア州兵がロサンゼルス地域からポートランドに派遣されたことを確認した。任務は「移民・税関執行局(ICE)およびその他の連邦職員の職務遂行を支援し、連邦法の執行および連邦資産の保護にあたること」だとしている。
2025年10月3日、米オレゴン州ポートランドの移民・税関執行局(ICE)施設前で抗議デモが発生し、連邦職員が建物の屋上で警戒にあたった。(写真/AP通信提供)
2025年10月4日、米オレゴン州ポートランドで、米国土安全保障省の法執行官が移民・税関執行局(ICE)庁舎前で抗議者と対峙した。(写真/AP通信提供)
この問題の核心にある法的争点は、大統領が州知事の同意なしに、ある州の州兵を「連邦化」して別の州へ派遣する権限を有するかどうかという点である。ニューヨーク大学ロースクールのブレナン司法センター所属のエリザベス・ゴイティン氏は分析する。州兵が一度「連邦化」されれば、法的には連邦軍の一部となり、理論上は大統領が任意の州に派遣することが可能になるという。
しかしゴイティン氏は同時に、その合法性には重大な疑問が残ると指摘する。オレゴン州州兵をめぐるイマガット判事の判断理由に照らせば、今回の派遣も同様に法的根拠を欠く可能性があるという。イマガット判事は判決の中で、合衆国法典第10編第12406条を引用し、大統領がこのような措置を取るには特定の条件を満たす必要があると明確に述べた。判事はポートランドの現状がその要件を満たしていないと認定しており、この論理はカリフォルニア州兵の派遣にも当てはまるとゴイティン氏は説明する。兵士がどの州に属していようとも、ポートランドに連邦化された部隊を展開する行為そのものが違法である可能性が高いという。
オレゴン州とカリフォルニア州はすでに迅速に法的措置を講じた。オレゴン州のレイフィールド司法長官は、イマガット判事に対し暫定的な差止命令の適用範囲を拡大し、他州から派遣された州兵も対象に含めるよう求める方針を明らかにした。カリフォルニア州当局もこの訴訟に加わる意向を示し、「昨日違法だった行為は、今日になっても依然として違法だ」とレイフィールド氏は強調した。
ポートランド現場:秋のマラソンと散発的な抗議が並行 トランプ大統領がポートランドを「炎に包まれた混乱の都市」と繰り返し描写しているのに対し、現地の報道や住民の目に映る光景はまったく異なっている。米メディアによれば、5日のポートランド中心部は晴れ渡り、多くの市民や観光客が秋の朝を楽しんでいた。公園で犬を散歩させる人、カフェやレストランの外でブランチを待つ行列、そして市の幹線道路にはマラソン大会を応援する人々の姿があふれていたという。
一方で、衝突の焦点とされるのは市中心部から南西約2マイル離れた移民・税関執行局(ICE)施設である。5日には約70人の抗議者が集まり、スローガンを唱えたり、バーベキューをしたりと比較的穏やかな雰囲気に包まれていた。通りを行く車がクラクションを鳴らして声援を送る場面も見られた。テクノロジー業界で働くと名乗る58歳のデモ参加者アレックス・ノッツ氏は「現場では扇動者より撮影している人の方が多い」と苦笑しながら語った。
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2025年10月4日、米オレゴン州ポートランドで、米国土安全保障省の法執行官が移民・税関執行局(ICE)庁舎前で抗議者と対峙した。(写真/AP通信提供)
しかし、ポートランドの緊張は確かに連邦当局の介入によって高まった。先週末、連邦捜査官らは群衆の解散を試みる際、すぐに催涙ガスなどの強制手段を使用し、行動範囲を移民・税関執行局(ICE)庁舎前から周辺の複数の街区にまで広げたのである。コテック州知事はさらに、トランプ氏の側近らがICE庁舎の屋上にソーシャルメディアのインフルエンサーを配置し、「群衆を挑発する意図があった」と非難した。
イリノイ州知事、連邦政府を「戦場を作り出した」と激しく非難 同じく民主党が政権を握る大都市シカゴも、いまや連邦政府と地方政府の対立の渦中にある。トランプ政権はシカゴへの州兵300人の派遣を計画しており、イリノイ州のJ・B・プリツカー知事(JB Pritzker)はこれに強く反発している。
プリツカー氏は5日、CNNのインタビューで国土安全保障省の説明を厳しく批判し、「戦場を作り出しているのは連邦の捜査官たちだ」と非難した。氏は特に、先週シカゴ南部で行われた深夜の急襲作戦を挙げ、映像には「ほぼ裸の子どもが結束バンドで拘束され、米国籍とみられる高齢者が少なくとも3時間強制的に拘束された様子」が映っていたと指摘。「われわれはいったいどんな国に暮らしているのか」と怒りをあらわにした。
さらにプリツカー氏は、4日に連邦の法執行官が車両を発砲し、運転者が負傷した事件にも言及した。報道によれば、負傷者は法執行車両に衝突したとされるが、氏は「私たちは事実を正確に知ることが極めて難しい。彼らは真実を明かさず、自らの宣伝だけを流している。結局、我々が自力で何が起きたのかを確かめねばならない」と述べた。プリツカー氏は、トランプ政権が意図的に緊張を高めていると強調し、「彼らは戦場をつくり出したいのだ。そうすれば、さらに多くの部隊を送り込む口実ができる」と警告した。
2025年10月4日、シカゴ市南西部のブライトン・パーク地区で抗議デモが発生した。これは同日午前、米国境警備隊がシカゴ南西地区で女性に発砲し負傷させたことを受けたもので、デモ参加者らは連邦法執行官と対峙している。(写真/AP通信提供)
2025年10月4日、米イリノイ州シカゴの南西部、ブライトン・パーク地区で抗議デモが発生した。同日午前、米国境警備隊がシカゴ南西地区で女性に発砲し負傷させたことがきっかけで、デモ参加者らは連邦法執行官と対峙している。(写真/AP通信提供)