ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年、正体不明の「小さな赤点」の集団をとらえた。いずれも数十億個の太陽に匹敵する明るさを示し、見かけは成熟銀河に近い。ところが出現時代は「若すぎる」宇宙で、本来そこまで成長した銀河は存在しないはずだ。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』が10月1日に報じた最新研究は、これらが銀河ではなく「ブラックホール恒星」と呼ばれる全く新しい天体である可能性を指摘する。超大質量ブラックホールが水素ガス雲を抱き込み、その周囲が強い放射で光って見えるという。仮説が正しければ、「ブラックホールが先か、恒星と銀河が先か」という宇宙起源をめぐる通説に直接挑むことになる。
宇宙における古の「神秘的な赤点」
2021年に打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の主要任務の一つは、「宇宙の黎明」――ビッグバン後数億年をさかのぼる観測だ。宇宙は膨張を続け、最古級の天体光は数百億光年の旅路で波長が引き伸ばされる(赤方偏移)。ウェッブは、この消えかけた赤外の光を確実に拾うよう最適化されている。
2022年に最初の深宇宙画像が公開されると、天文学者は説明のつかない「赤い小点」が無数に散らばる様子に驚いた。本来、若い銀河は青く見えやすいはずだが、写っていたのは一様に赤い点ばかり。しかも個々の光度はきわめて高く、通常の星の密度では到底説明しづらい。推定では、明るさは数百から数十億個の太陽を上回る水準に達するという。
『フィナンシャル・タイムズ』は、これらの神秘的天体が当初「小さな赤点」と総称され、ウェッブの深宇宙画像の中で一粒一粒の深紅の斑点として写り込んでいると伝える。だが、その正体は依然つかめていない。
さらに難題なのは、赤点が見かけ上は成熟銀河に似る一方、現れている宇宙時代が「若すぎる」点だ。通常なら、そんなに育った銀河を形成する時間はない。たとえるなら、宇宙の乳児期の集合写真に、思春期の顔が紛れ込んでいるような不整合である。

「ブラックホール恒星」仮説の誕生
混乱が渦巻く中、独マックス・プランク天文学研究所のアンナ・デグラーフ氏(Anna De Graaff)らは、ペンシルベニア州立大学やプリンストン大学の研究者と協力し、約120億光年彼方で際立って明るい「小さな赤点」に焦点を当てた。詳細な分光解析の結果、この赤点は単一の恒星を思わせる特徴を示していることが分かった。
波長分布をさらに精査すると、既知の天体のどれとも完全には一致しないことが判明した。塵に富む銀河やクエーサーの典型的な指標とも合致しない。最も妥当な解釈として、膨大な質量をもつブラックホールが激しく運動する水素ガス雲に包まれ、その相互作用が強い放射を生み、結果として木星のような巨大な恒星に見えている――という像が浮かび上がる。 (関連記事: 人類が宇宙生命に最も近づいた瞬間か NASA、火星で「豹紋岩石」を発見 生命の痕跡か、地球への持ち帰りは最大の難題 | 関連記事をもっと読む )
この推論を踏まえ、研究チームは新仮説を提示した。すなわち、赤点の正体は「ブラックホール恒星」と呼ぶべき新種の天体である。見かけは恒星のように輝くが、中心核はブラックホールで、外層は高密度の水素ガスに覆われている。発光メカニズムは核融合で輝く通常の恒星とは本質的に異なる。