エイサー(Acer)前董事長の施振栄氏は2日、『世界地図上の台湾の未来—時代の人物と世代の挑戦』フォーラムに招かれ、「王道精神から見るAI時代の挑戦」をテーマに登壇した。氏は、グローバルなサプライチェーン再編が進む中で、台湾はいかに自らの価値を定義し、世界の供給網で代替不可能な中核的競争力を確立すべきかを論じた。半導体製造の実力により台湾は物質文明に具体的貢献をしてきたが、次は「精神的貢献」が台湾の次なる繁栄を牽引する重要なエンジンになると強調した。
施氏は、台湾が半導体受託製造(ファウンドリー)を発展させた時代背景として、当時の米国が自発的に半導体製造をアジアへ移転した事実を挙げた。最終的に強固な産業を築いたのは台湾であり、その要因は起業家精神にあると指摘した。米国は高利益の領域で市場開拓へ舵を切り、製造という「地道な技」を台湾の起業家が担った。これは垂直分業の大きな潮流であると述べた。
さらに氏は、「コンピューター会社はコンピューターを作らない、半導体会社は自前のウエハー工場を持たない」という発想が提示された当時、反対したのはインテルのみであったと回顧した。今日インテルは劣勢に立たされており、設計と製造を分離しなければ生き残れないのではないか、いまなお活路が見えにくいと指摘した。
プラザ合意が円高を招き、日本企業が競争力を失って産業空洞化し、「失われた30年」に陥ったという一般的理解について、施氏は異論を示した。真因は日本文化が垂直分業に適合しなかった点にあり、日本で起業しようとしても大企業グループに圧迫されやすいと述べた。韓国も同様の課題を抱え、LINEなど一部ソフト分野を除けば、台湾やシリコンバレーのように起業を奨励しない。その結果、世界的な分業モデルに乗れず「何でも自前でやる」体質となり、最も弱い環が全体の強さを規定してしまうのである、と分析した。
日本の製造業が競争力を失ったのは、起業家精神、スピード、柔軟性の欠如に起因すると施氏はみる。1980年代の日本のハードは世界一であったが、「ハードの無欠陥」は文化的に達成可能でも、「ソフトの無欠陥」はそもそも成立しない。ソフトは不断の更新と改良が本質であり、日本文化がそれに適合しなかったことが製造業の遅れを招いたと述べた。台湾が日本の一人当たりGDPを超える日が来るとは想像していなかったし、日本製品の方が相対的に安く感じられる局面すら生じていると言及した。
貿易赤字についても、米国が実利を得ている側面を指摘した。日本など東アジア諸国は製造品を米国へ輸出し、米国は低価格かつ高品質の財を享受してきた。だがトランプ大統領の計算では、サービス貿易や軍需関連は赤字に算入されない。他方、米企業は粗利の高い分野を選好する傾向にあると述べた。
施氏は、台湾は中核的競争力によって価値を創造すべきであり、条件が不合理であれば取引自体を行わない判断も必要であると主張した。経済の果実は最終的に人材競争力と人件費に反映されるべきであり、同じ価値を創出したなら、企業成果は経営トップの報酬に偏在させず、従業員と分かち合うべきだと強調した。
台湾経済はどこで日本に勝っているのか。施振栄氏は中核的優位を挙げ、これが次の繁栄を押し上げる要因であると述べた。
編集:柄澤南 (関連記事: ドル安協調の代償、プラザ合意から30年 日本を襲ったバブルと長期停滞の教訓 | 関連記事をもっと読む )
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