台湾は中国沿岸に位置し、豊かで民主的、しかも第一列島線の要衝という唯一無二の戦略的位置づけから、長年にわたり米中間で最も敏感な争点の一つとされてきた。ところが、ドナルド・トランプ米大統領が「取引」を前面に出す独特の外交スタイルでホワイトハウスに復帰したことで、ワシントンの「揺るぎない対台支持」に微妙な揺らぎが生じているとの見方が広がっている。
『ブルームバーグ』の分析では、北京はこの局面を好機と捉え、ワシントンへの圧力を強めて「米国が公式に台湾独立に反対する」と表明させることを狙っている。もしこれが実現すれば、台湾の国際空間をさらに狭める北京にとって大きな外交的勝利となる。バイデン前政権期には「台湾が攻撃されれば米軍が防衛に加わる」との発言が繰り返された一方、習近平国家主席は台湾を「取り戻すべき領土」と位置づけ、周辺での軍事演習を拡大・常態化させてきた。そこへトランプの読みにくい意思決定が重なり、ただでさえ不安定な台湾海峡情勢に新たな不確実性を持ち込んでいる。
なぜ台湾が要なのか 地理・経済・民主主義の中枢
台湾は長らく列強が角逐してきた舞台で、スペイン、オランダ、清の支配を経た。1895年、清は日清戦争の敗北で台湾を日本に割譲。以後、「台湾を取り戻す」は中国指導者(習近平を含む)の中核的な民族主義スローガンになった。中国共産党が台湾を統治したことは一度もないが、北京は台湾の支配を「百年の屈辱」払拭の要とみなす。
米国と日本にとって台湾は、中国の海洋進出を抑え、主要シーレーンを守る「第一列島線」の要塞だ。米国の安全保障の傘に守られ、台湾は半導体を筆頭とするハイテク供給網の中核に成長。人口2300万人超のこの島は、いまやアジアで最も活力ある民主主義の一つであり、「西洋型の政治制度は中華文化にそぐわない」という中国共産党の主張に事実で反論している。
台湾問題の起源 国共内戦から「一つの中国政策」へ
『ブルームバーグ』は、台湾問題の出発点を1949年に置く。国共内戦で毛沢東率いる共産党に敗れた中華民国の蔣介石は台湾へ撤退。1970年代に入ると、ニクソン米大統領が北京との関係構築に動き、米国はそれまでの蔣介石政権承認の立場を転換した。
こうして生まれたのが「一つの中国政策」だ。米国は中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府」と認めつつ、台湾の主権問題は曖昧に据え置いた。一方で北京は、一定条件下で米台の非公式関係(対台武器売却を含む)を容認することに合意。その後も北京は、台湾が法的独立へ動くなら武力で阻止する権利があると主張し続けている。 (関連記事: 舞台裏》台湾外交に変化 「魔法部」は論争避け、林佳龍氏が対立国を交渉の場へ | 関連記事をもっと読む )
同時に台湾の内政では世論が明確に変化している。2025年6月の調査では、「即時または最終的な独立」を支持する人が約4分の1に達し、中国本土との統一支持は7%未満。北京はこの潮流を、軍事行動に踏み切り得る“レッドライン”に近づく動きと見ている。